これからのキャリアを生き抜くには越境学習が必要だ~石山恒貴×倉重公太朗~第3回
倉重:次、3つ目の話です。「学びを活かす。」学ぶだけではなくてどう活かすのかという話ですね。
石山:そうです。これは、一言で言うと、振り返りということです。結局、ここの項目は、失敗しても成功しても、ただそれをそのままですっと流してしまい、やりっぱなしにしているのか、それを振り返って、なぜそういうことが起こったのかと考えて、それを次につながるように、他のところでも応用可能なように、その原因のようなものをノウハウ化するという行動が身に付いているのか。そこのことなのです。これは、いわゆる経験学習サイクルといわれるようなことを、実際は言っています。
倉重:やはりリクルート流の振り返りは大事だと。
石山:まあそうです。
倉重:これは、何かをやりっ放しにして、例えばセミナーを受けて、ではお疲れさまでは多分何も変わらないわけですよね。
石山:そうです。
倉重:そこで言われたことの1割でも何か実行していますかという話ですね。そもそも自分で自律的に勉強しに来ているのか、会社に言われたから嫌々来ているのかでは相当に違いがありますね。
石山:そうですね。自律的にやるとなると、振り返りが起こりやすくなると思います。
倉重:わざわざお金と時間を使ってやっているわけですからね。それは結局、自分でやろうと思っている人は視座が高くなると思いますが、こういう気持ちにさせるには、企業はどうしたらいいのでしょうか。
石山:これはまさにヤフーさんだから言うわけではありませんが、1on1というものは一つのポイントです。1on1で上司が振り返らせてあげるということはかなりできると思います。1on1はヤフーさんが言い始めて流行っているのだと思います。ところが、同じ1on1をやっても、導入に失敗して上司の説教時間が増えたという状況もあるようです。そういう会社だと、多分8対2ぐらいで上司が話していると思います。
でも、結局1on1の目的は、本人にいろいろと問い掛けて、本人の振り返りを支援してあげるということです。上司側に答えがあって、それをやらせようとすることが1on1ではなくて、本人が何かを考えるために、本人の考えに刺さるように質問してあげることが1on1だと思います。そうすると、今1on1をやっている会社が多いということは、いかに振り返りというものが、上司にできる余地があるのかということだと思います。
倉重:8割説教では、誰も1on1などやりたくないですものね。
石山:何でも横並びで、何かがバズワードのようにはやると、みんな形だけをまねするということが結構あります。
倉重:取りあえず面談やるか、といって。
石山:1on1はそうはならないとは思いますが、本当に表面的にやるとよくないところがあります。
倉重:そういう意味では、他の項目のところに書いてあったと思いますが、相談される側の技術も御著書に書かれていますよね。
石山:そうですね。
倉重:相談されやすい上司になるにはどうしたらいいかという。その本の中でも、そもそも相談なのかということをまず見極めて、解決の材料を渡せという話でした。ここを少しお話しいただけますか?
石山:少し本の中でも書きましたが、相談されると、人間はやはり少しうれしいと思います。頼りにされたと。頼りにされたと思うと、その人のためにやってあげようと思います。そうすると、自分の言いたいことを、ばーっと言ってしまって、こうやれというようになってしまうと、これは本当に逆効果です。
結局、その人が何のためにそこに来たかということをまずくみ取りましょうということが大事です。まさに情報源を聞きに来たのかもしれませんし、自分が少し迷っていて、その人と壁打ちしたくて、とにかく答えはくれなくてもいいから言葉のキャッチボールをしてほしいということかもしれません。まさに実は単純に答えを求めて来ているのかもしれません。
倉重:背中を押してほしいだけの場合もありますよね。
石山:そもそも本当に何を求めているのかということをまず聞いてあげて、それを見極めるということが大事だと思います。ですので、学びを生かすということも、結局は本人の中の答えです。基本的には、誰でも毎回本人は答えを持っているし、答えに到達しようとする能力があるわけですから、それを今回は、ノウフー(know who)を提供するというように、これなら誰かが知っているから誰かのところに行ったらいいよとやって答えに近づけてあげるのか、壁打ちするのか、情報だけ提供するのか、それともこの場合は答えを出すということなのか、そこはご本人のことをよく見極めたほうがいいと思います。
倉重:タイミングもあるんでしょうね。あくまで材料だけを渡すことがポイントで、答えを言うのではないということで。
石山:まさしくそうです。
倉重:本人に考えさせることが大事だと。
石山:基本的に本人に考えてもらうということが大事です。
倉重:いいですね。ありがとうございます。
では、4つ目の自ら人と関わっていく。居場所をつくるという話でもあります。このお話をぜひお願いします。
石山:これも今の話と関わります。結構分かりやすい言葉ですので、居場所をつくるという言葉にしましたが、本来的には、自ら人と関わるというほうが、この本質的な意味に合っています。これはハブ行動をするという、ハブになるということです。いろいろな部門同士を接続していったり、先ほど言ったノウフー(know who)のようなことをよく知っていて、組織の中の情報をうまく交流させてあげたりします。
これは、経営学の中でいうと、元々、コミュニケーションスターのような人がいたことが実は注目されています。何であの人はコミュニケーションスターなのだろうかと。何であの人のところに相談が集まって、そこからみんな情報が流れていくのだろうかということです。この本の中ではブローカーといっています。
倉重:ナレッジ・ブローカーですね。
石山:そうです。知と知を仲介させてあげるような役割が大事だということだと思います。
倉重:そうなるためにはどうしたらいいですか。いろいろな飲み会に行けばいいですか?
石山:実は、5つの行動はそれぞれ関連しています。ナレッジ・ブローカーになるということは、年下とうまくやるということとも関連してきます。要するに、年齢や地位や役職などにこだわり過ぎるコミュニケーションをする人だと、うまくハブになれません。いかに多様な人とフラットに付き合えるかということが、一つのポイントです。
越境したときは、最初はなかなか。自分もそうでしたが、最初知らないコミュニティーに行ったときに、名刺をもらうまで落ち着かないようにならないためにはどうしたらいいか問題というようなものがありました。
倉重:この人は誰だろうかと思いながら話すということ。
石山:慣れない人だと、新しいコミュニティーに行ったときに、どうしてもまず名刺交換をしたくなります。名刺交換をして何をするかというと、その会社の社格とその人の役職を掛け算して、自分より社会的地位が上か下かということを計算します。上や下ということを理解したコミュニケーションをしないと落ち着かないというような状態が最初はあったりします。だんだん越境をしていくと、あまり関係なくなってきます。
倉重:そういう人はまだ多いですか。
石山:越境していると、時々見かけます。多いかどうかは分かりませんが、いらっしゃいます。
倉重:何となく昔はそうだったのだろうなという感覚はありますが、いまだにそういうものなのですね。
石山:これはひょっとすると、年代差も少しはあるかもしれません。ですが、多かれ少なかれ、そのうち、そこまで極端に地位や役職ではなくても、この人はどういう名前なのだろうかということが分からないと落ち着かないということも、ひょっとしたらあるかもしれません。
倉重:名前は確かに分からないとやりづらいですね。
石山:でも、究極は別に名前を知らなくても、越境するとかまわないわけです。第1の場である職場、第2の場である家庭とは違い、第3の場である居心地のいい場、サードプレイスは、だれでもふらっと参加できますので、名前を知らなくても、お互い交流してかまわないはずなんです。ただ、あだ名だけで話していてもいいですよね。
倉重:確かにあだ名が分かっていればいいですね。何て呼んだらいいか分かれば十分です。
石山:別にその人のバックグラウンドを知らなくても落ち着けるようになるという。多様な人とすっと仲良くなれるという、こだわりなく話せるようになるということが、まず一つあるかと思います。
ところが、第2段階、第3段階になってくると、例えば社外のコミュニティーに行きます。そこで新しいことを知ります。そうすると、それを会社の中に取り入れて、会社の中でもこれを展開したいと思ったりするようになります。最初のときに、それを急にやろうとすると、何だおまえは、よそにかぶれやがってという、迫害を受けることもあります。
倉重:「おまえは意識高い系か?」「仕事しないで暇なの?」とか言われたりするのですね。
石山:そうです。意識高い系か?とか。うちはそういうのは要らないから、というようなことを言われたりして、みんな心が折れるという局面がありますが、だんだんうまくその状態を乗り越えることができるようになってくるのです。
倉重:すっと自然に出せるという。
石山:自然に。最初は慣れていないと、新しいことを知った翌日に、もうすぐ社内につたえたくなるなどのことをやりたくなってしまったりします。ですが、別にそのタイミングでやらなくてもいいわけですから、一回引き出しに入れておいて、その中の文脈に合うタイミングですっと出すとか、あるいはそういう仲間を増やすとか。
倉重:社内でですか?
石山:社内で。そのように社内でうまく外のことを取り入れる方法に、だんだん長けてくるのです。
倉重:ちょうど、一度先生にもお越し頂いたJSHRMという人事の勉強会の執行役員を私もやっていますが、そこの勉強会で学んだことなどを社内で意気揚々と言っていたら、人事の話をしているのに、「なに業務と関係ないことをやっているの?」と逆に説教されてしまうという例がありました。
石山:まさにそれが典型です。
倉重:それでまた勉強する気をなくしてしまったりすると、本人の意欲を高めようということも逆効果ですよね。
石山:迫害ということも幾つか理由があると思います。そもそもこういう迫害は、本質的に起こるものだと思います。なぜかというと、迫害の対象は、新しい知なわけで、そこのコミュニティーや集団、それが会社だとすると、そこになじみのないものです。集団というのは、慣れ親しんだ知をむしろ凝集性強く維持しようとするものですから、新しい知というものに本質的に抵抗感があるわけです。ですから、それを胸を張って入れようとする人を迫害するということは、ある意味当然なのです。
倉重:それはもう人間の本能的な動きなのですね。
石山:集団にとって本能的なことです。この話をすると、学会もそうですよね。他の学会のこれを取り入れようというのは、それは作法が違うということで、なかなか難しいですね。
倉重:ありますね。
石山:ですから、それは本質的に起こるようなことです。
倉重:集団とおっしゃいましたが、多分個人ベースでも抵抗感はあるのではないですか。
石山:そうです。
倉重:それは、うちの家庭でもそうだなと思いました。子どもにはこうやって教育するといいらしいと私が意気揚々と言うと、あなたは面倒を見ていないでしょう?と、分からないくせに何を言っているのということを言われることがあります。私が「意識高い系」になってしまっているのかもしれませんけどね(笑)
石山:個人もありますね。
倉重:変わることへの抵抗は、多分誰しもありますよね。
石山:そうです。ですから、慣れてくると、そもそもそういうものだと思うわけです。そこで迫害されたときに心が折れるというか、そもそも普通に受け答えすることなのですから、それを前提としてどう変えていきましょうかと発想が変わってくる。迫害されて当然だと思えば、むしろうまく対処できるわけです。
倉重:学んできたことをいきなりひけらかすのではなく、必要なタイミングでどう思うかと言われたときにばっと出すと、「君はすごいね」、「どうしたの?」となるわけですね。
石山:あるいは、社内用語にうまくなじませて、社内用語にどう変換するかと考えたりすると馴染むことがありますね。
倉重:自分でいったん咀嚼した上でということですね。
石山:あるいは、うまく例えを使うように説明するのです。とにかく一番いけないことは、先ほど言ったジョブクラフティングであれば、これからジョブクラフティングをやりましょうというような、社内用語に翻訳しないやり方がよろしくないです。
倉重:やりがちですね。「ジョブクラフティングも知らないのですか?」といってディスってしまうような。
石山:そういう人は一番反発されますよね。だから意識高い系は嫌なのだという話になります。カタカナ言葉というのは、反発されやすい面もあります。
倉重:いかに社内で、そして家庭でもうまく出せるかということですか…
石山:そうですね。
倉重:居場所をつくるという意味では、自分でコミュニティーをつくるということでもいいのですか。個人的には結構そういうことを意識してやっていたりします。
石山:例えば、結構『ライフ・シフト』を読んだり、あるいはこういう越境関係の本を読んだりする人で、会社に入った1~2年目、3年目ぐらいの人が、自分たちも越境したいというような人と会ったりすることがあります。でも、いきなりそういうことはできないとか、会社にまだ慣れていないしということで悩んでいたりします。
そういう人たちは、結構自分たちでコミュニティーをつくってしまったりします。ほんのちょっとした勉強会のようなものをつくったりします。例えば、大学までに知り合いだった友達がまた知り合いの知り合いも連れてきて、何人かが集まってしまうと、それだけで幾つかの会社をまたがったコミュニティーになります。そこで結構活発にやったりしますので、自分たちでちょっとしたコミュニティーを立ち上げることは、すごくありだと思います。そこで居場所ができるということはあると思います。
倉重:居場所は別に社内に限らないし、自分でつくってもいいし、2年目の20代の人でもできることですね。
石山:そうなのです。
倉重:40代を過ぎてからだと、今更そういうサークル活動のようにするの?と思う人もいるのではありませんか?
石山:そうなのです。つまり、会社の中で、ある意味そこがすごく心地よくなってしまって、そこのコミュニケーションに慣れた人が外で自分でコミュニティーを立ち上げようとすると、逆にハードルが高いということはあると思います。
倉重:そうでしょうね。若い人のほうがやりやすいかもしれませんね。
石山:逆に若い人のほうがやりやすいかもしれません。
倉重:だからこそ、20代、30代の人はそういうことを意識すればいいと思います。逆に、40代以降でも、そういうことができる人はもう強いですよね。こだわりなくできる人というのは。
ちょうど最初のほうの話になりますが、今一緒にやっている田代さんという社労士でコンサルの方も、この対談にも出ていただいきました。同じ話で、自分の勉強をしているときに、1人でやっているだけでは駄目で、あえてアウェーのところに行って、自分の知らない人たちのところへ行って、全くつながりのない若いIT系の会社の方の勉強会などそういうところに行くことによって、こういう視点もあるのかと学ぶ。また、いろいろなコミュニティーに入って刺激を受けることによって、自分の力も高まったとおっしゃっていました。
石山:まさにそういう状態です。
倉重:理想的ですね。田代さんも50代後半ですが、やはり若い人とも分け隔てなくということがあります。そういう人は多分相談されますし、頼りにもなりますし、知識も集まってくるという感じですよね。
石山:ですから、好循環になってしまうのです。どこで小さな一歩を踏み出して、その好循環に入るかということだと思います。
倉重:最初の一歩は少しでもいいと。
石山:そうなのです。やり始めていると、自分が面白くなっていきます。大体コミュニティーに入っていると、そこでやり始めて面白くなっていたりすると、誰かが声を掛けてくれたりします。このようなこともあります、このようなところに行ってみませんかと。全部それを聞かなくてもいいけれども、幾つかやっていったら、ぐるぐると、様々な機会、チャンスが集まってくることがあります。
倉重:石山さんにとっても、今この場所に来ていることがもうそうですよね。
石山:そうですね。
倉重:よく分からない人に対談しましょうと言われて。
石山:まさか5年前に倉重さんと知り合っているということは、想像がつきませんでした。
倉重:そうですよね。まだお会いするのも4回目、5回目ぐらい。そのようなものですから。なかなかここ1年の話です。
石山:そうですね。倉重さんのコミュニティーに行ったら、倉重さんが強引にこれをやろうといろいろ言ってくれますものね(笑)。
倉重:まさに好循環。好なのかどうかは分かりませんが、循環しています。
(最終回へ続く)
【対談協力】石山恒貴(いしやまのぶたか)
法政大学大学院政策創造研究科 教授・研究科長
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事
主な著書:『越境的学習のメカニズム』福村出版、2018年 、『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社、2015年、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(パーソル総研と共著)ダイヤモンド社、2018年