『ルパンvs複製人間』のクライマックスシーンを空想科学で考えたら、ルパンと不二子のがんばりに驚愕!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
4月28日に金曜ロードショーで放送された『ルパン三世 ルパンvs複製人間』は、すごい映画であった。
これ、数ある『ルパン』映画のなかでも特筆すべき作品だ。
公開は1978年で、劇場版『ルパン』の第1作。
モーレツに盛りだくさんの内容で、舞台はヨーロッパから南米まで広がるし、メインの題材はクローン技術だし、核ミサイルから宇宙ロケットまで登場する。
とくにクローンは、羊のドリー(初のクローン哺乳類)が生まれたのが96年だから、取り入れるのがモーレツに早い!
そして、敵役のマモーがクローン技術で永遠に残そうとしたのは「峰不二子の美しさ」であり、それゆえ不二子の魅力がこれでもかと描かれたのも、本作の特徴だ。
「信用していいのかどうかわからないけど、それも含めて魅惑の女性」という不二子像がとても味わい深い。
また、ルパンはもちろん、次元も五エ門(顔色の悪さが気になる!)も銭形警部も活躍して、全編楽しめる映画だった。
◆ヘリコプターvs日本刀
空想科学的に気になる部分も多い『ルパンvs複製人間』だが、やはり胸躍るのはアクションシーンだ。
物語の序盤、ルパンと次元はマシンガンを乱射するヘリコプターに狙われる。
2人はオープンカーで地下の下水道に逃れるが、なんとヘリも入ってきて、ローターを壁にガキンガキンと当てながら追ってきた!
ここで登場したのが石川五エ門。
片手で斬鉄剣の柄を握ってまっすぐに立て、もう片方の手を刀身の峰に当てて構え、ジャンプ。
そのままヘリと交錯して、「またつまらぬものを斬ったか」とつぶやく。
ヘリは3本のローターが付け根から切れて落下、大爆発した。
すごいシーンである。
なにがすごいといって、ローターの付け根を切ったこと。
これをやるには、1本のローターが通り過ぎてから、次のローターが来るまでのあいだに、体をローターの中心近くまで入れなければならない。
ヘリコプターのローターは1分に300回ほど回転するから、つまり1秒に5回転。
ローターが3本だと、1秒に15回もやってくる。
つまり、五エ門に使える時間は1÷15=0.067秒。人間が瞬きする時間(0.1秒)より短い!
この間に、ローターの中心近くに迫り、先端から3mの位置を斬ったとすれば、五エ門の「ヘリに対する速度」は秒速45m=時速162km。
ヘリが時速100kmで飛んでいたとしても、五エ門は時速62kmで自分が前進する必要があるわけだ。
五エ門は、映画第1作からすごかった……!
◆ロケットvs人間
さらにすごかったのは、クライマックスシーンのルパンと不二子だ。
マモーの基地に乗り込んだルパンは、不二子の身柄を確保した。
一件落着……と思ったら、2人がいた広い部屋の床が水平にスライドし、壁に収納されていく。
床の下に屹立していたのは巨大なロケット!
そこは、地下からのロケット発射孔だった。
マモーの「本体」は、ロケットで宇宙へ逃れようとしたのである。
床が壁に収納される直前、ルパンと不二子は、発射孔の壁面に設置されていたはしごに飛び移った。
同時にロケットは点火され、上昇を開始。
2人は懸命にはしごを登るが、ロケットも狭い縦穴を上昇してくる。
登っても登ってもはしごは終わらず、一方ロケットは、どんどん速度を上げてくる。
ロケットに追いつかれたら、2人は炎に焼かれてしまう!
と思った瞬間、2人は地上に飛び出し、その直後、ロケットも姿を現して、そのまま上昇していくのだった……!
あまりの絶体絶命シーンである。
測ってみたところ、2人がはしごを登っていた時間は34.4秒だった。
ロケットに点火されたとき、ルパンと不二子はロケットの最上部とほぼ同じ高さにいた。
2人はロケットと34秒間も鬼ごっこをして、つかまらなかったことになる。
◆はしごを登ったスピードは?
ロケットに追いかけられるとは、想像するだけで怖い話だ。それは「ロケットは速いから」というだけのことではない。
ロケットは、噴射を続ける限り、速度がどんどん上がっていくのである。
たとえば、HⅡ-Bロケットの最強タイプは重量531t、推力1164t。重量の2.2倍の推力を持つ。
このうち1倍分が重力に対抗するのに費やされ、残り1.2倍分がスピードアップに使われる。
これによって、自由落下の1.2倍の勢いで速度を上げられる。
またスペースシャトルの場合、推力は重量の1.6倍。
加速の勢いは自由落下の0.6倍とHⅡ-Bより小さいが、スペースシャトルは人間が乗るため、優しく加速したのである。
劇中のロケットも、マモーという「人間」が乗るのだから、スペースシャトルと同じくらいの加速力と考えていいだろう。
自由落下の0.6倍なら、1秒間に秒速6mずつ速くなる。
つまり1秒後に秒速6m=時速21km、2秒後に秒速12m=時速42km、3秒後に秒速18m=時速63km。
この調子でぐんぐんスピードアップしながら追いかけてくるのだ。
すると、34.4秒後のスピードは?
なんと秒速204m=時速730kmだ。速い!
ルパンたちがこんなロケットと競争して勝つには、まだ向こうの速度が遅いうちに距離を稼ぐしかないだろう。
しかしこれ「言うは易く、行うは難し」である。
1秒間に秒速6mずつ加速する物体が、34秒間に動く距離を計算すると、なんと3500m!
あのはしご、富士山ほどの高さがあったということ!?
いや、驚くべきはそこではなく、ルパンと不二子がそれほど長大なはしごを、たった34.4秒で登り切ったことだ。
速度を計算すると、秒速102m=時速370km!
はしごを登って、新幹線より速い!
100m走、いや100mはしご登りのタイムは0秒98!
しかもその勢いではしごを登り切って地上に出ると、そのまま勢いで空中に飛び出すのでは!?
これも計算すると、上昇高度は530m……!
――空想科学で考えるとそんな計算になり、ルパンと不二子のがんばりに驚きながらも、2人が心配になるのだが、劇中ではそれどころではなく、その後も手に汗握る展開が最後まで続くのだった。
さまざまな意味で大スケールの『ルパンvs複製人間』。
『ルパン』の映画はすごい作品からスタートしたのだなあ、としみじみ感動する。