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創傷治癒やがんにも関与?ビタミンAの驚くべき役割とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:Shutterstock/アフロ)

【ビタミンAの新たな役割が明らかに】

ビタミンAの活性型であるレチノイン酸が、毛包と表皮幹細胞の制御に重要な役割を果たしていることが、ロックフェラー大学の研究チームによって明らかになりました。

レチノイン酸は、幹細胞の「細胞の役割を変える力」に関与しているそうです。この力があるおかげで、幹細胞は必要に応じて別の種類の細胞へと姿を変えることができるのです。例えば、皮膚の幹細胞が傷を覆うために表皮を作ったり、毛包の幹細胞がダメージを修復するために表皮幹細胞へと変身したりする現象がこれに当たります。

幹細胞は、傷を治すために必要に応じて別の種類の細胞に変身する特殊な力を持っています。でも、いつまでもこの力を使っていては、傷の修復がうまくいかないのです。幹細胞が、「どの細胞になるか」をしっかり決めて、その細胞の仕事に専念することが大切なのです。そうすることで、初めて傷を効果的に治すことができます。

幹細胞が細胞の役割を変える力のメカニズムを解明することで、皮膚や毛の疾患の理解が深まるだけでなく、がん化を防ぐ手がかりも得られるかもしれません。

【創傷治癒とがんにおける幹細胞の運命変化の役割】

研究チームは、幹細胞の運命変化を「創傷治癒における自然な応答」と「がんの非自然な特徴」の両面から評価しました。

皮膚の外層は絶え間ないダメージにさらされているため、幹細胞を最も必要としている部位へと動員する仕組みが備わっています。しかし、これが制御不能になると、慢性的な修復状態や特定のがんを引き起こす可能性があるのです。

マウスの毛包幹細胞を使った実験で、レチノイン酸が幹細胞の運命変化からの脱却を促し、毛細胞または表皮細胞へと分化させることが判明。一方、レチノイン酸の量が多すぎる場合は、運命変化が起こらず、創傷の準備が整わなくなってしまうそうです。

【ビタミンAが他の組織に及ぼす影響とは?】

今回の研究は、ビタミンAのレチノイドが毛包と表皮幹細胞の両方を制御する上で中心的な役割を果たしていることを示しました。

私たちが人参を食べると、体の中でビタミンAに変わります。このビタミンAは、肝臓という臓器に「レチノール」という形で貯蔵されます。そして、必要に応じて全身の様々な組織に運ばれます。

運ばれた先の組織で、レチノールは「レチノイン酸」に姿を変えます。レチノイン酸に変えることができる組織の多くは、怪我をした時の治療に関係していて、幹細胞が別の細胞に変身する力を上手に利用している可能性があります。

今回、皮膚の幹細胞で発見されたことは、他の組織の幹細胞にも当てはまるのかもしれません。もしかすると、ビタミンAは体中の幹細胞に影響を与えているのかもしれません。

レチノイドが他の組織にどのような影響を及ぼすのか、さらなる研究が待たれます。

参考文献:

Vitamin A may play a central role in stem cell biology and wound repair. EurekAlert!. News release. March 7, 2024. Accessed April 19, 2024. https://www.eurekalert.org/news-releases/1036957

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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