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病気だと思われて嫌?子どものない女性の心理 体外受精などの生殖補助医療への保険適用拡大後の変化(3)

中塚幹也岡山大学教授 産婦人科医 日本GI(性別不合)学会理事長
通常法での体外受精 (まんがで読む-『未来への選択肢』拡大版から)

不妊治療への保険適用拡大は,国からのプレッシャー?

 2022年4月,不妊治療への保険適用拡大がなされた.その1年後,2023年8~9月,不妊治療を行っている5つの施設で,私達が実施したアンケート調査(不妊・不育女性470人分の解析)を見てみると,経済的負担の軽減には一定の効果を発揮していると考えられた.経済力が強いとは言えない比較的若い層の受診も増えている.

 しかし,不妊治療・体外受精などの生殖補助医療への保険適用拡大は経済的なハードルを低くした反面,不妊女性にとって,子どもを産むように周囲からのプレッシャーとなっていた.特に20代で受診を始めた女性は強くプレッシャーを感じていることも明らかになっている.

子づくりのプレッシャーを感じたのは誰? 体外受精などの生殖補助医療への保険適用拡大後の変化(2)(2024年11月12日)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/47e90ce01b0bfc97962251951a8be1ee75f1fd31

 「国が,不妊治療への保険適用を拡大した」ことから,日本社会から不妊治療を受けるようプレッシャーを感じるとした女性も11.3%に見られていた.また,不妊治療が保険適用になったということで不妊症女性を「疾患(病気)だ」という目で見る人も増えた可能性がある.

「病気だ」と思われて嫌?子どものいない女性の心理

 今回の調査では,「周囲の人に,子どもができないことを『疾患(病気)だ』と捉えられて嫌だと感じている」と回答した女性は半数強,「強い」「やや強い」との回答のみでも約35%であった(図1).このような思いも,子どものいない女性が,不妊治療への保険適用拡大で感じる「周囲からのプレッシャー」の背景に存在する可能性がある.

図1. 周囲の人に,子どもができないことを「疾患(病気)だ」と捉えられて嫌だと感じるか(筆者作成)
図1. 周囲の人に,子どもができないことを「疾患(病気)だ」と捉えられて嫌だと感じるか(筆者作成)

 このような思いについて年代別に見てみると,20代が高率なようにも見える(図2).

図2. 周囲の人に,子どもができないことを「疾患(病気)だ」と捉えられて嫌だと感じるか(年代別の比較)(筆者作成)
図2. 周囲の人に,子どもができないことを「疾患(病気)だ」と捉えられて嫌だと感じるか(年代別の比較)(筆者作成)

体外受精の年齢制限,回数制限と女性の心理

 体外受精や顕微授精などの生殖補助医療による妊娠率は,加齢とともに下降する.医療経済的な視点からは,「妊娠率の低いカップルが保険適用で体外受精や顕微授精を実施することは不利益である」との考え方もある.

 2004年度から実施されてきた特定不妊治療費助成事業(体外受精や顕微授精を受けるカップルへの助成金の制度)であるが,2013年,厚生労働省は女性の年齢や助成回数を制限する案を示した(理由は「早期の治療開始を促すため」としたが).助成対象を「42歳までの女性」とし,助成回数を「40歳未満の女性は生涯通算で6回まで,40歳以降は3回まで」というものである.

 2022年4月に開始された生殖補助医療への保険適用の条件は,この年齢・回数制限を踏襲した.このような制限は,不育症女性の心理に影響しているのであろうか.今回の調査では,「年齢や胚移植の回数について過剰に意識してしまう」と感じる女性は,年齢とともに高率となっており,特に40代女性では約8割が強く意識していた(図3).

図3. 年齢や胚移植の回数について過剰に意識してしまうか(年代別の比較)(筆者作成)
図3. 年齢や胚移植の回数について過剰に意識してしまうか(年代別の比較)(筆者作成)

不妊女性の抑うつ・不安

 このように,生殖補助医療への保険適用拡大後,様々な思いに揺れる不妊女性であるが,その精神状態はどのようなものであろうか.

 今回の調査の対象の精神状態を評価するため,抑うつや不安が反映されるK6スコアを回答してもらった.K6スコアが5点以上の「軽度」では要観察(ストレス解消に努め,気がかりなことがあれば誰かに相談すべき),9点以上の「中等度」や「重度」では要注意・要受診(症状に気を付け,かかりつけ医やメンタルヘルスの専門家に相談・受診すべき)とされる.

 不妊症の女性は抑うつや不安を持っていることはよく知られているが,今回の調査でも,K6スコアで中等度・重度と判定される女性は4人に1人と高率であった(図4).

図4. 抑うつ・不安の程度(K6スコア)(筆者作成)
図4. 抑うつ・不安の程度(K6スコア)(筆者作成)

 この抑うつ・不安の程度について年代別に見てみると,加齢とともに抑うつ・不安が重度になリやすいといった単純なわけではなく,20代は20代なりの理由が,40代は40代なりの理由が隠れているようである(図5).

図5. 抑うつ・不安の程度(K6スコア)(年代別の比較)(筆者作成)
図5. 抑うつ・不安の程度(K6スコア)(年代別の比較)(筆者作成)

 20代の女性,40代の女性,それぞれに特徴的に見られた心理が,どのように抑うつ・不安などの精神状態に関連しているのかは,次回の記事で解説する.

【参考】

「不妊治療とお金の問題」は解決した? 体外受精などの生殖補助医療への保険適用拡大後の変化(1)(2024年11月8日)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b262cfc01fb5bf739c051960d0c5c3e397edc92c

子づくりのプレッシャーを感じたのは誰? 体外受精などの生殖補助医療への保険適用拡大後の変化(2)(2024年11月12日)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/47e90ce01b0bfc97962251951a8be1ee75f1fd31

公益社団法人 日本産科婦人科学会:2022年ARTデータブック(2024年8月30日)

https://www.jsog.or.jp/medical/641/

中塚研究室:まんがで読む-『未来への選択肢』拡大版

https://www.okayama-u.ac.jp/user/mikiya/pamphlet.html

中塚研究室:ライフプランを考えるあなたへ―性と妊孕性の視点から見つめる―「未来への選択肢」プレコンセプション・チェックシート

https://miraihenosentakushi.jp/

岡山大学教授 産婦人科医 日本GI(性別不合)学会理事長

産婦人科医(岡山大学病院不妊・不育外来,ジェンダークリニックで診療).岡山大学大学院保健学研究科・生殖補助医療技術教育研究(ART)センター教授(助産師,胚培養士(エンブリオロジスト)等の養成・リカレント教育).日本GI(性別不合)学会理事長(LGBTQ+,特に「性同一性障害・トランスジェンダー」の医学的・社会的課題の解決に向けて活動).岡山県不妊専門相談センター,おかやま妊娠・出産サポートセンターセンター長.妊娠中からの切れ目ない虐待防止「岡山モデル」の創始,LGBTQ+支援,思春期~妊娠・出産~子育てまでリプロダクションに関する研究・教育・実践活動中.インスタ #中塚教授のひとりごと

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