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悪い戦局を変えられない森保監督がシステム変更に舵を切れない理由【オマーン戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

最大の不安材料は森保監督の采配ぶり

 2022年W杯アジア最終予選の初戦、日本はホームでいきなり敗戦を喫した。相手はオマーン。組合せ抽選会の基準に照らせば、日本が属するグループBの中ではポット5。つまり、6チーム中5番手のチームだ。

「我々にとって歴史的な勝利だ。選手たちは勝つに値するパフォーマンスを見せ、危険な状態を何度も作った」

 試合後の会見で、オマーンを率いるブランコ・イバンコビッチ監督は興奮気味にそう振り返ったが、グループ5番手のチームが1番手に勝ったのだから、まさに大金星。「この勝利に心から興奮している」とコメントするのも当然である。

 逆に、敗れた日本のショックは大きい。しかも、スコアこそ0-1だったが、内容的には“勝てた試合を落とした”のではなく、「負けるべくして負けた」(吉田麻也)のだから、大ごとだ。

 日本は、5年前のロシアW杯アジア最終予選の初戦でも負けている。相手はグループ4番手(ポット4)のUAE。当時ハリルホジッチ監督が率いたチームは、開始早々に本田圭佑が先制点を決めた後、直接フリーキックとPKによって逆転を許し、敗戦を喫した。

 しかし、当時の敗戦と今回の敗戦を比べると、試合内容が大きく異なる。5年前の敗戦は、日本がUAEに“足元をすくわれた”敗戦だった。流れの中から失点したわけでもなく、もしVARが導入されていれば、後半の浅野拓磨のゴールは認められていた可能性もあった。

 今回のオマーン戦で、日本に決定機と呼べるシーンは2回しかなかった。前半28分の伊東のシュートシーンと、後半55分の長友のヘディングシュートの場面だ。後半49分の伊東のヘッドは当てるのが精一杯で、クロスの精度が悪く可能性を感じられなかった。

 最終的なシュート数でも、オマーンの12本に対して日本は9本。ボール支配率こそ60.6%対39.4%で上回ったが、押し込んでいたように見えた前半でさえ、日本のシュートは3本に終わっている(オマーンは2倍の6本)。これらも、5年前の敗戦とは明らかに違う。

 このようなショッキングな敗戦を喫すると、心配になるのは今後の行方だ。

 攻撃が行き詰まり、守備も混乱を見せていた後半、しかしベンチの森保監督は戦局を変えるような采配を見せることはなかった。

 悪い流れを変えるためには、選手を変えるかシステムを変えるのが常套手段。とりわけそれができなかった点が、今後の戦いに向けた大きな不安材料になる。

 この試合で、森保監督は5枚のうち3枚の交代カードを切った。しかし、それらは古橋、堂安、久保と、いずれも2列目の駒で、しかも1枚ずつ切った。確かに南野が負傷で使えなかったので攻撃の駒は3人しかいなかったわけだが、結局、悪い流れはほとんど変わらなかった。

 ならば、システム変更という方法もあったはず。これまで森保ジャパンは、4-2-3-1を基本としながら、プランB(3バック)、そして今年に入って試したプランC(4-3-3)という選択肢を持ち合わせていたはずだが、これも試みることはなかった。

 なぜできなかったのか、理由は明快だ。どのような局面でプランB、プランCを使うのか。おそらく、そこをはっきりさせないままにしてしまったことが、こういった試合でシステム変更に舵を切れない最大の原因だと思われる。

 こうなると、オマーンのようにしっかりと日本対策を施し、なおかつ反撃能力を兼ね備えた相手と対戦して厳しい局面を迎えた時、今回と同じような敗戦を喫する可能性は高い。大枠を用意して、ディティールを選手に任せるチーム作りは、ここに限界点がある。

 最終予選2試合目の相手は、グループ4番手の中国だ。この相手に苦戦を強いられるようだと10月に予定されるアウェイでのサウジアラビア戦(ポット3)とホームでのオーストラリア戦(ポット2)に、もはや希望は持てなくなる。

 果たして、移動も含めてわずか中4日しかない中、森保監督は破たんの兆しを見せ始めているチーム戦術を、いかにして修正するのか。指揮官にとって、次の中国戦は本当の意味で崖っぷちの一戦になる。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=5.5点

大事なW杯アジア最終予選の初戦でスタメン出場を果たしたため、現時点での正GKということになる。プレーはミスもなく、及第点。失点シーンでは難しい対応を強いられた。

【右SB】酒井宏樹=4.5点

攻撃はクロス4本といつもより少なめで、守備では1対1で突破を許すなどトップフォームとは程遠い出来。試合後、オーバーワークの懸念からチームを離脱することが決定した。

【右CB】植田直通=4.5点

試合の序盤は安全第一のプレーで無難にしのいだが、後半に入ると相手に翻弄される場面や簡単なミスもあり、不安定なパフォーマンスになった。吉田との関係も改善の余地あり。

【左CB】吉田麻也=5.0点

伊東へのフィードでチャンスを演出するなど上々の前半だったが、チーム全体の守備が乱れた後半は自身も相手に翻弄されるなど、DFリーダーとしては不甲斐ない出来に終わった。

【左SB】長友佑都=4.5点

後半51分のハンドはVARで取り消され、55分に惜しいヘディングシュートを見せるなど大忙し。守備では左サイドを相手に使われ、失点の場面でもボールに食いついてしまった。

【右ボランチ】遠藤航=5.0点

相手にパスコースを消されてしまい、ビルドアップに絡めず。ボール奪取はまずまずだったが、自陣での守備ではポジショニングが悪く、ピンチを傍観してしまうシーンもあった。

【左ボランチ】柴崎岳=5.0点

去年11月のメキシコ戦以来の招集でスタメン復帰。攻撃では起点になれず、守備でも効果的なボール回収をできず。失点場面では走るコースも悪く、寄せきれずにクロスを許した。

【右ウイング】伊東純也(63分途中交代)=5.0点

唯一の見せ場は前半28分のシュート。サイドをえぐることもできず、クロスに正確性を欠き、平均以下のパフォーマンス。自陣の守備では最後まで追わず、歩いてしまう場面も。

【左ウイング】原口元気(HT途中交代)=4.5点

ミスも多く、ボールタッチやキックに精度を欠いた。長友とのコンビネーションプレーも少なく、左サイドを打開することができなかった。前半のみのプレーでベンチに下がった。

【トップ下】鎌田大地(70分途中交代)=4.5点

下がってパスをもらおうとすると相手のマークに遭い、前線で受けようとすると3ボランチにスペースを消され、ほとんど攻撃に絡めず。存在感がなく、後半途中で久保と交代。

【CF】大迫勇也=5.0点

ピッチコンディションの問題があったにせよ、厳しいマークに苦戦して珍しくボールを収めることができなかった。シュートも後半の1本のみ。周囲とのコンビプレーも少なめ。

【FW】古橋亨梧(HT途中出場)=5.0点

原口に代わって後半開始から左ウイングでプレー。最初は左サイドを活性化することができたが、次第にトーンダウン。守備では1度全力で戻った場面もあったが、サボる場面も。

【MF】堂安律(63分途中出場)=5.5点

伊東に代わって後半途中から右ウイングでプレー。酒井、久保ら東京五輪組とのコンビネーションプレーで伊東とは異なるリズムを作った。決定的な仕事はできず、物足りなさも。

【MF】久保建英(70分途中出場)=5.5点

鎌田に代わって後半途中からトップ下でプレー。短い出場時間の中でもシュート1本を記録するなど、わずかながら存在感を示したが、試合の流れを変えることはできなかった。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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