希望出生率1.8掲げる日本の未来 ポルトガルやギリシャ…EUの重債務国は出生率が低迷
欧州連合(EU)域内平均の合計特殊出生率(女性が一生の間に産む子供の数)が2001年の1.46から14年には1.58になり、513万2千人の赤ちゃんが生まれたそうです。EU統計局(ユーロスタット)の発表で分かりました。人口を維持するのに必要な出生率2.1に向かって、足取りを進めています。
EU域内の合計特殊出生率は順調に回復していましたが、世界金融危機に続く欧州債務危機の影響で再び下降に転じました。合計特殊出生率の推移を見ると、EUがようやく暗いトンネルを抜けた様子がはっきりうかがえます。
EU域内の合計特殊出生率トップはフランスで2.01(01年比で+0.11)、2番目がアイルランドで1.94(同)、3番目がスウェーデンで1.88(+0.31)、4番目が英国で1.81(+0.18)でした。
逆に低いのはポルトガル1.23(-0.22)、ギリシャ1.3(+0.05)、キプロス1.31(-0.26)、スペイン1.32(+0.08)と債務危機に陥った国が多く、重債務国のイタリアも1.37(+0.12)でした。
こうした国々は経済が低迷して若者の失業率が高く、結婚や出産を控えるケースが多かったようです。財政が切り詰められ、児童手当が設けられていなかったり、他の国に比べて支給額が少なかったりする国がほとんどです。ギリシャでは医療サービスが著しく低下し、08年から10年にかけて乳児死亡率が43%も上昇しました。
一方、ドイツの出生率は1.47で08年以来6年ぶりに日本(14年1.42)を上回りました。上のグラフをみると、先進国の中でも日本、ドイツ、イタリア(なぜか第二次大戦の枢軸国)は出生率の回復が遅れていたことが分かります。
しかし移民が流入するドイツでは上昇の足取りが強まり、14年の出生数は71万4927人。フランスは81万9328人。英国は77万5908人です。
途上国では女性の就業率が上がると出生率が下がる「負の相関関係」が見られます。先進国では仕事と結婚、子育ての両立支援を進めて女性の就業率が上がると出生率も回復する傾向が確認されています。
日本の第1子出生時の母の平均年齢は30.4歳で、EU域内と比較するとイタリアの30.7歳、スペインの30.6歳に次いで高くなっています。日本の平均初婚年齢は13年で夫30.9歳(80年で27.8歳)、妻29.3歳(同25.2歳)。結婚年齢が高くなる晩婚化が進行しています。
日本では晩婚化と第1子出生時の母の平均年齢の上昇が少子化の最大の原因のように言われますが、EU域内の第1子出生時の母の平均年齢と合計特殊出生率の散布図を見ると、バラつきが多く、相関関係はなさそうです。
安倍晋三首相は新しい経済政策「アベノミクス2.0」で名目国内総生産(GDP)600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロを掲げています。出生率が1.8だったのは1984年が最後で、今の日本には非常に高いハードルと言えます。しかしEU域内ではフランス、アイルランド、スウェーデン、英国がすでに実現しています。
出生率の高い移民を受け入れず、婚外子の出生率も2.28%と他の先進国に比べて極端に低い日本で出生率を高める方法は一つしかありません。産業構造の変化に伴って非正規雇用が急増する中、「同一労働同一賃金」を実現して若者の収入を増やし、カップル形成と結婚、出産、子育てを支援していくことです。
日本の若い男性は結婚について必要以上に経済的な責任を感じているのではないでしょうか。
(おわり)