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車の排ガスだけではない!ノルウェーの大気汚染の原因は冬将軍?なぜ注意喚起が連日続くのか

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
子どもは外出を控えるように注意喚起がでるオスロPhoto:Asaki Abumi

ノルウェーならではの大気汚染の原因 冬の10~4月が最も危険

フィヨルドなど美しい大自然のイメージが強い北欧ノルウェーですが、実は大気汚染が深刻化しています。特に日本人旅行者も多いオスロやベルゲンでは、大気研究所が注意喚起する赤色警報が続いており、最も被害をうけやすい子どもの一部は外出しにくい状況が続くほど。ノルウェーでは大気汚染が原因で早期死亡している人は1500人に及ぶという調査結果も(EEA Air quality in Europe)。

ノルウェー大気研究所の広報クリスティーネ・F・ソルバッケン氏によると、2日ほどの滞在期間であれば健康的な旅行者には影響はありません。しかし、呼吸器疾患や心血管疾患のある患者、高齢者、妊婦、15歳未満の子どもは、最も大気汚染で被害にあいやすいグループとなります。

地球の歩き方オスロ特派員ブログノルウェーで大気汚染「赤色警報」、旅行者と在住者への影響は?

ハフィントンポスト日本版大気汚染が深刻化するオスロは「車のない、自転車の街」になれるか?

ノルウェーで大気汚染が深刻化する独特の理由が複数あります。なかでも、10~4月の冬は、大気汚染の原因物質が最も暴れだす時期。

ノルウェーならではの冬の汚染物質とは?

  • 薪を燃やす行為による煙突からの煙

雪国に住むノルウェー人はたき火、暖炉、薪ストーブが大好き。都会でも暖炉や薪ストーブを所有する一般家庭は数多くあります。

  • スパイクタイヤによって発生する粉塵「車粉」

人体へ悪影響を及ぼす。日本では規制。

  • 排気ガス
  • 冷気と逆転層

ノルウェーの冬季で大都市ならではの問題が、大気の「逆転層」という現象(大気下層の気温が上層よりも低くなる状態)。「冷気が原因で、空気が悪くなる」とノルウェー人が口にする理由がこれ。冷気の日には、都市部上空に「蓋」がかぶさっているような状態となり、大気汚染物質が閉じ込められ、拡散されずに、滞留したままになります。

ノルウェー大気汚染研究所が強調することは、ノルウェーの都市や住宅地域で最も深刻な大気汚染の原因は、PM2.5だけではなく、

窒素酸化物 NOx=一酸化窒素NOと二酸化窒素NO2

粒子状物質=PM10とPM2.5

排ガス原因の車を規制⇔運転手から抗議の声

窒素酸化物は排気ガスから発生するもので、ノルウェーではディーゼル車が原因。ノルウェー人が「大気汚染は車が原因」とつぶやく理由がこれ。オスロやベルゲンでは、ディーゼル車規制を求める政治家が増加しています。車の利用者は1年中運転しているため、冬季に限らず、毎日排出されている排気ガスとなります。

オスロ市議会が市内中心地から排除しようとしている対象が、空気を汚し、街のスペースを占領しすぎているというこれら一般車両。しかし、悪者扱いされている運転手からは抗議の声もあがっています。

もし、あなたが日常的に車を利用していて、急にこのような扱いをうけたら、どう感じるでしょうか?「子どもたちが呼吸困難になる原因になるのであれば、明日から運転はやめよう」とすぐに思える人ばかりではありません。

日本では規制されているスパイクタイヤが、ノルウェーではいまだに健在

PM10の原因が、スパイクタイヤによって発生する車粉、暖炉の煙突からの煙。特に、北部トロムソでは冬のスパイクタイヤ使用率がさらに高く、問題が深刻化。

ノルウェー人が大好きな暖炉が、大気汚染の原因?

「ディーゼル車からの排気ガスよりも、薪の煙が人体に悪影響」という報道があるほど、実は薪暖炉やストーブからの煙は、車の排気ガスに並ぶほど、PM2.5の主要原因。オスロ市でも、大気汚染の原因は「排気ガスと薪暖炉(ストーブ)」と発表しています。

年中使用されているディーゼル車とは違い、薪暖炉が使用されるのは本当に寒い時。使用時期は限られますが、現在のように零下が続く日には、どこの家庭でも暖炉が好まれるので、短期間で大気汚染に最も加担する原因ともなってしまいます。

「車の規制」が議論されているように、「薪暖炉」の廃止は?

「これまでに何度か議論はされましたが、あまりにも多くの家庭で主要な暖房として利用されているため、不可能なのです。古い暖炉を最新式にするなど、別の方法で解決していくしかありません」

「日本では規制されているようなスパイクタイヤ、薪暖炉は、日本とノルウェーで異なる大気汚染の原因です」

「北欧の中で、特にノルウェーが大気汚染問題が深刻ということはありません。ただ、ノルウェーや北欧他国で共通することが、冷気と高い山など、特殊な気候・地形条件が重なる地域には、逆転層などの独特の現象が生じることです。オスロやベルゲンが、この例に該当します」

出典:ノルウェー大気研究所の広報クリスティーネ・F・ソルバッケン氏

市民はどうすればいいのか?日本であれば難しそうな対策案

オスロ市やノルウェー大気研究所が提案している、今市民にできること。しかし、中には日本人からすると、「え?」というものもあります。

  • 車の運転をしない
  • 公共交通機関、自転車を利用するか、歩く
  • ラッシュアワーを避ける
  • 自分の車は使わず、近所の人の車に一緒に乗せてもらう
  • 自宅で仕事をする
  • 乾燥した薪を使うなど、薪暖炉の使用方法を今一度見直す

大気汚染が深刻化しているとはいえ、何度も起こる赤色警報の度に、上司に「自宅で仕事します」と電話したり、近所の人の車に乗せてもらうというのは、ノルウェーでは実行しやすいことなのか? その問いに対して、大気研究所のソルバッケン氏からは答えることが難しいと回答がきました。

ノルウェーの都市での大気汚染問題。昨年の地方統一選挙で、保守派が惨敗し、緑の環境党が異例の勝利を遂げた理由の背景には、このような側面も起因しています。我慢の限界がピークに達しつつある世論、各メディアも街の大気汚染問題に関しては厳しい報道を続けています。

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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