『RIVAL PEAK』が示す次世代の視聴者参加型デジタルエンタテインメント
全世界で1億分以上の視聴時間を記録
恋愛、サバイバル、オーディションなどに一般人が挑戦するありさまを、ドキュメンタリーやドラマのように楽しむ「リアリティ番組」。全世界で流行中のジャンルだが、2020年5月に『テラスハウス』、8月に『いきなりマリッジ』で出演者の女性が自死するなど、倫理面での議論も続いている。
こうした中、ゲーム版リアリティ番組とも言えるコンテンツが海外で登場し、人気を博している。SNS大手のFacebookが配信し、12人のAIキャラクターが森の中でサバイバル番組を送る『RIVAL PEAK』だ。2020年12月1日にFacebookライブ動画(Facebook Watch)で配信が始まり、2021年3月3日に終了(現在は再放送が配信中)。配信期間中の視聴時間は1億分以上に達した。
本作は通常のゲームと異なり、ゲーム内のキャラクターを視聴者が直接操作することはできない。AIキャラクターが自律的に動き回る様をライブストリーミングで視聴しながら、次にどのような行動を取るか、全員の投票で決めていくのだ。そのうえで毎週1人ずつ、不人気キャラクターが「削除」されていく。視聴者は12週間にわたる苛酷なサバイバルの過程で、お気に入りのキャラクターに感情移入し、彼ら/彼女らを導きながら、徐々にあきらかになる謎やストーリーを楽しんでいく、というわけだ。
インタラクティブな映像コンテンツを配信
本作のポイントはゲーム映像がライブストリーミングで配信されることだ。そのため視聴者は端末の種類に縛られることなく、自由にコンテンツが体験できる。また、ゲームの展開を見のがしたり、途中から参加したりした視聴者のために、人気俳優のウィル・ウィトンが司会をつとめる番組『RIVAL SPEAK』も毎週配信された。番組内では、その週におきた出来事や、AIキャラクターへのインタビューなどが盛り込まれた。
本作にライブストリーミング技術を提供したGenvid Technologiesで協同設立者兼CEOをつとめる Jacob Navok氏はプレスリリースで「このプロジェクトを進めるにあたりFacebookは素晴らしいパートナーでした。Facebookのプラットフォームを使うことで、グローバルかつモバイル・ファーストな体験を、ライブ配信・VOD・ゲームの垣根を超えてシームレスに織りあげることができました」とコメントしている。そのうえで下記の情報をあきらかにした。
- 世界70カ国以上に配信し、アクセス上位5カ国はアメリカ・インド・フィリピン・ブラジル・メキシコ
- 視聴者の性別は男性が60%、女性が39.1%、その他・未回答が0.9%
- 視聴者の年齢は25~29歳が29%、18~24歳が25%
- 再生デバイスはAndroidが84%、iPhoneが12%、PCが4%
- Facebook上での「いいね」「コメント」「シェア」などの反応は2億回以上
- 最終週の視聴時間は第1週目の55倍
興味深いのはエマージングマーケットの視聴者が多いこととだ。伝統的なゲーム機がリーチできなかった層で、本作ならではだろう(Androidでの視聴が大半という点もうなずける)。また、冒頭で示した1億分の視聴時間は、Facebook Watch上での視聴時間のみで、スマートフォンむけに配信されているネイティブアプリ上などでの視聴時間は含まれていない。そのため、実際にはさらに長時間の視聴がなされたと考えられるだろう。
既存のエンタテインメントとは異なる市場を開拓
本作はテレビ番組のような鑑賞型エンタテインメントと、ゲームのような参加型エンタテインメントの、ハイブリッドスタイルともいえる内容だ。そのため、事前にどのような結末を迎えるか(12人のうち誰が最後まで生き残るか)、作り手側も予測できなかった。大まかなプロットや、個々のAIキャラクターの目標などは決まっていたが、実際には配信しながらストーリーを作り込んでいったという。
同様のことはコンテンツの中身についても言えた。マップ、UI、投票機能などが、配信を通してどんどん改善されていったのだ。ここで注目したいのが、アップデートに要する時間が不要だったことだ。通常のゲームでは機能追加が行われると、パッチと呼ばれるアップデートプログラムをプレイヤーがダウンロードして、インストールする必要がある。そのため、アップデートが終了するまでゲームが遊べないといったストレスが、往々にして発生することになる。
これに対して本作では、プレイヤーはゲームをダウンロードする必要がない。前述の通り番組映像をストリーミング配信し、ブラウザ上で視聴者が操作する、同社独自の配信技術が使用されているからだ。端末のスペックに依存することなく、より多くの視聴者にコンテンツを配信することもできる。筆者のインタビューに対して、「より多くの視聴者に対して、常に新しい機能を提供できました。これは我々にとっても新しい発見でした」とNavok氏は語った。
日本向けコンテンツの配信が待たれる
本作が国内で無名に近いのは、日本語対応が行われていないからだ。現在配信されている再放送では、動画に日本語字幕もつけられているが、UIやゲーム内の説明文などの日本語対応は追いついていない。これに対してNavok氏は「日本語対応は目標の一つ」と熱く語った。また位置情報ゲーム『イングレス』をベースに『Pokémon GO』が作られたように、本作に有名IPを組み合わせて、新作を作りたいとも語った。
本作が開拓したのは、従来のコアゲーマーやカジュアルゲーマーといった定義では捉えきれない、新たなゲーマー層だ。コロナ禍によって世界が分断され、海外旅行が自由に楽しめない中、日本を舞台にした「ゲーム版リアリティ番組」が配信されれば、世界に向けて日本の魅力を発信することにも繋がる。本作で得た知見を糧に、日本市場をふまえた新作のリリースを期待したい。