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復帰戦に勝利したルイス・ネリ

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 昨年5月15日に、WBA/WBCスーパーバンタム級統一戦でブランドン・フィゲロアに7回KO負けを喰らったルイス・ネリ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210517-00238198

 多くの日本人ファンにとっては、聞きたくもない名前であろう。体重オーバーを繰り返し、禁止薬物を使用しながらも、この男は涼しい顔で現役を続けている。

 先週末、そのネリがおよそ9カ月ぶりにリングに上がった。

 対戦相手は27戦全勝12KOで、WBO2位、WBCとIBFで3位にランクされるカルロス・カストロ。WBC/WBOスーパーバンタム級挑戦者決定戦であると共に、WBCシルバー王座空位決定戦として組まれた同ファイトは、カストロに世界タイトル挑戦権を与えるために、ネリを斬られ役として選んだように見えた。

Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 しかし、ネリはファーストラウンド早々に左ストレートをぶち込み、カストロからダウンを奪う。

 出生地はメキシコだが、プロデビュー以来アメリカで戦い続け、アリゾナ州フィニックスの住民である無敗の27歳は、思いのほか打たれ脆かった。

Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 上々のスタートを切ったネリだが、第2ラウンドではじっくりと相手の動きを観察し、不用意に飛び込まない。カストロは自身の距離で戦えず、左右のフックを繰り出すのだが届かない。その動きは予想以上にスローで、ネリは自信を深めていった。

 インターバル中も椅子は使用せず、トレーナーの言葉に耳を傾け、作戦通りのパフォーマンスを披露。

 中盤、やや息を吹き返したカストロだったが、主導権は奪えない。ディフェンス面でもネリに分があった。

Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

  96-93、95-94、94-95のスプリットディシジョンで、ネリが勝利を手にした。

 試合後、ネリは言った。

 「自分の経験が勝利に繋がった。俺はこれまでの世界戦で、カストロよりタフな選手と戦っているからな。ヤツをKOすることも可能だったが、俺がパワーパンチャーであるばかりでなく、アウトボクシングができるところ、カウンターを打てる点もアピールしたかったんだ」

 1名のジャッジが負けと採点したものの、ネリにとってはしてやったりの復帰戦であった。

Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 とはいえ、この手のタイプにボクシング界は背負えない。ネリがフィゲロアに屠られた際、一体何人のボクシングファンが溜飲を下げたことか。ただ、そのフィゲロアの腰にも、もうベルトは無い。

 悪役、ネリの需要はいつまでもつか。今回はカストロの不甲斐なさだけが印象に残った。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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