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【鈴鹿8耐】13年ぶりのリベンジ!MotoGP世界王者、ニッキー・ヘイデンが真夏の8時間に挑む。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
鈴鹿8耐のテスト走行で走るニッキー・ヘイデン

39回目を迎える「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(7月31日・決勝)。今年の目玉といえば、元MotoGPワールドチャンピオンの参戦だ。昨年転倒に終わったケーシー・ストーナーが今季からテストライダーとして「ドゥカティ」と契約したため、鈴鹿8耐のホンダ系トップチーム「#634 MuSaShi RT HARC PRO」からは2006年のMotoGPワールドチャンピオン、ニッキー・ヘイデン(アメリカ)が参戦することに。鈴鹿8耐にはケビン・シュワンツから続き4年連続でロードレース世界選手権の最高峰クラス・ワールドチャンピオンが出場する。

13年ぶりの鈴鹿8耐

ニッキー・ヘイデンにとって「鈴鹿8耐」への参戦は久しぶりになる。前回参戦したのは13年前の2003年で、当時は21歳という若さだった。ニッキー・ヘイデンは2002年に米国のAMAスーパーバイク選手権の王者に輝き、翌2003年からホンダのワークスライダーとして排気量1000cc・4ストロークエンジン規定の時代を迎えた「ロードレース世界選手権・MotoGP」に鳴り物入りで参戦。まさに新進気鋭の若手ライダーとしてMotoGPを戦った。

そして、夏にはホンダワークスチーム「セブンスターホンダ」(HRC)から鈴鹿8耐に初挑戦。ホンダVTR1000SPW清成龍一(きよなり・りゅういち)と共に出場した。しかし、決勝のオープニングラップでコース上に出たオイルに乗って転倒。マシンが大破し、ほぼレースをしないままリタイアに終わった。これが、ニッキー・ヘイデンが経験した唯一の鈴鹿8耐である。

ニッキー・ヘイデン
ニッキー・ヘイデン

ニッキー・ヘイデンは今年の8耐参戦について「13年ぶりに鈴鹿に戻ってきた。本当に久しぶりだね。僕はいつも日本でのレースを楽しんでいるんだ。たくさんサポートをもらっているしね。鈴鹿8耐のトロフィーを僕は取り逃がした。だから、そのトロフィーを飛行機で持って帰りたいと思っている」と語る。

昨年、マシントラブルからケーシー・ストーナーが転倒し、3連覇を逃すことになった「#634 MuSaShi RT HARC PRO」にヘイデンは加入し、優勝3回の高橋巧(たかはし・たくみ)、優勝2回のマイケル・ファン・デル・マーク(オランダ)と共に勝利を目指す。

石橋を叩いて渡ったテスト走行

7月13日(水)、ニッキー・ヘイデンが13年ぶりに鈴鹿サーキットをテスト走行した。13シーズン戦ったMotoGPを離れ、今季から「スーパーバイク世界選手権(WSBK)」でホンダCBR1000RRを駆るヘイデンは母国レースのラグナセカでの第9戦が前週にあったため、7月4日(月)〜6日(水)のテスト走行を走ることができなかった。ヘイデンが鈴鹿を走行できたのは僅かに2日間だけだ。

テスト走行に挑んだニッキー・ヘイデン
テスト走行に挑んだニッキー・ヘイデン

「走り出しでライバルから少し遅れをとっているのは事実だ。テスト初日は天気も悪かったし、ドライのテストも中断があったりして多くの周回をこなせなかった。僕が普段乗っている(スーパーバイク世界選手権の)バイクとはタイヤを含め様々な部分が違うし、コース形状も13年前とは変わっているし。でも、チームメイト(=マイケル・ファン・デル・マーク、高橋巧)のことをとても信頼しているし、テストで良い経験をさせてもらっていると思う。レースまでにはモノにしたいと思っているよ」

謙虚に鈴鹿8耐のテストを振り返ったヘイデン。鈴鹿サーキットのコース形状も13年前とは若干変わっている。特に2004年以降に設けられた西コースの「2輪専用シケイン」はヘイデンにとっては初の走行。そのため、テスト走行は鈴鹿8耐を過去3年経験し、2度の優勝を飾っているファン・デル・マークに先導されながら鈴鹿のコース、マシンの習熟に時間をかけた。

ファン・デル・マークに先導されてコースインするヘイデン
ファン・デル・マークに先導されてコースインするヘイデン

「チームメイトたちは僕より若いけど、8耐に関しては僕よりも経験がある。彼らから学ぶことはたくさんあるし、今のところ3人は良いチームワークだと感じているし、セッションごとにタイムもあがっている。鈴鹿のコースはとてもユニーク(特徴的)だと思う。特にシケインはとてもトリッキーだし、難しいコーナーがいくつもある。コースも久しぶりだし、8耐ではとても多くのライダーたちとコース上で一緒に走ることも久しぶりだから、その部分も合わせていかなきゃね」

まだ梅雨明け前の鈴鹿。雨が降ったり止んだりのベストコンディションとは言えなかった中で、決して無理をしないところにヘイデンが34歳のベテランであることを感じる。ただ、アメリカのレースを終えてすぐに来日したヘイデンは体調が決して良い状態ではなかった。ラグナセカのレースウィーク中に風邪を引き、さらに時差ぼけも影響したようで、初日は2分10秒台がニッキー・ヘイデンのベストタイムとなった(総合トップはヤマハの2分7秒947)。まさに石橋を叩いて渡ったベテランの初日だった。

スイッチをオンにしたヘイデン

ニッキー・ヘイデン
ニッキー・ヘイデン

初日に2分10秒台。現在の鈴鹿サーキットにおいて、特別なセッティングを施さない中でライダーが走り出す初日の目安とも言われている。これは初めて鈴鹿を走るライダー、久しぶりに鈴鹿を走るライダーの基準タイム。つまり、ニッキー・ヘイデンは体調不良、路面コンディション不良の初日から合格点のタイムを出した。

ただ、テスト初日を終えたインタビューでこんなことがあった。同じアメリカ人のワールドチャンピオン、ケビン・シュワンツが近年の鈴鹿8耐に参戦したことに話が及ぶと、「聞いたよ、50歳での出場だって?クレイジーなことだよね」と笑いながら話していたヘイデンだが、シュワンツのこれまでのベストタイムが2分9秒台だったことを知るや、彼は表情を一変させた。これが何を意味するかは本当のところはわからないが、初日のタイムがグランプリを離れて20年のオールドタイマーのベストよりも遅かったことがヘイデンの目つきを変えたことは間違いない。2日目にヘイデンは2分9秒台にタイムを上げてきた。

しかしながら、天候とセッション中断に翻弄されたテストで「#634 MuSaShi RT HARC PRO」の3人は充分な走り込みができたと言える状況ではない。同チームのホンダCBR1000RRは大幅な改良を加えてきたが、全日本ロードレースJSB1000クラスのレースではかなり苦戦している。ヘイデンとファン・デル・マークが走るWSBKのCBR1000RRと同じオーリンズのサスペンション、ニッシンのブレーキを使うパッケージに変更したものの、セッティングに非常に苦労している状況が見て取れる。

大きく違う要素はタイヤ。WSBKが全車同じのピレリのタイヤを履くのに対して、タイヤメーカーの競争がある全日本と鈴鹿8耐ではグリップ力が非常に高いブリヂストンのタイヤを履く。さらにWSBK用のマシンには来季以降のレギュレーション変更に対応または次期ベースモデルの登場を見据えた様々な電子制御が組み込まれていると考えられ、WSBKと日本のパッケージはヘイデンが「僕が普段乗っているバイクとは違うから」と語る通り、別物と考えた方が良さそうだ。そういう意味で、3人のライダーが揃ったのが僅か2日間だけというのはあまりに時間が足りなすぎた。

鈴鹿でテスト走行するニッキー・ヘイデン
鈴鹿でテスト走行するニッキー・ヘイデン
ハルクプロ 本田重樹監督
ハルクプロ 本田重樹監督

「#634 MuSaShi RT HARC PRO」の本田重樹監督「新しいライダーが加わった時、いつもお願いしていることですが、8耐というのはチームプレイなんだということ。個人それぞれ思ったようなマシンにならないのは仕方がない。その中でチームワークを大事にすることがトロフィー奪還につながるんだとニッキー・ヘイデン選手にも伝えました。ニッキーも理解してくれて、性格的にも良い選手なので、決勝ではケンタッキー・キッド(ニッキー・ヘイデンの愛称)が頑張ってくれると思っています」と語った。ライダーに全幅の信頼を置き、チーム一丸となって戦う姿勢。粘り強く行くしかない。

WSBKでも勝利したヘイデンの走り

鈴鹿8耐では実に13年ぶりに見ることができるニッキー・ヘイデンの走り。MotoGPを離れ今季からWSBKを戦うヘイデンはカワサキ、ドゥカティの新世代マシンがチャンピオン争いを繰り広げる中で、すでにクラシックなモデルとなった「ホンダCBR1000RR」で奮闘している。

WSBK仕様のホンダCBR1000RRとニッキー・ヘイデン
WSBK仕様のホンダCBR1000RRとニッキー・ヘイデン

走り慣れたアッセン(オランダ)、ラグナセカ(アメリカ)では3位表彰台。そして、セパン(マレーシア)では雨のレースとなったことでマシンの性能差が縮まり、カワサキ、ドゥカティを抑えて独走劇の優勝を成し遂げた。MotoGP でチャンピオンを獲得した2006年以来、10年間もの長きに渡り勝利から遠ざかっていたが、さすがは最高峰クラスのワールドチャンピオンという格の違いを見せつけた。

「鈴鹿8耐」の週末、7月30日(土)にニッキー・ヘイデンは35歳になる。MotoGPからWSBKへのスイッチはライダーとしてのキャリアの終焉間近と捉えられがちだ。しかし、彼のWSBKでのレースを見ていると決してそうではないことが分かる。ヘイデンのキャリアを振り返ると、MotoGPの前はWSBKや鈴鹿8耐と同じスーパーバイク(=市販車ベースの大型バイクレース)のライダーだった。最新鋭のパーツが組み込まれたレース専用バイクで戦うMotoGPと比べれば刺激が少ないマシンかもしれないが、その分、スーパーバイクのレースではライダーの力量に頼る部分が大きくなる。

そんなスーパーバイクのレースに戻ってきた今季についてヘイデンは「市販車ベースのスーパーバイクで走る今シーズンを僕は楽しんでいる」と笑顔で語る。

ニッキー・ヘイデン
ニッキー・ヘイデン

「MotoGPのようなプロトタイプマシンも好きだけど、基本的に僕はバイクそのものが好きなんだ。ダート路面だろうが何だろうが、競争力のあるバイクでスーパーバイク世界選手権というハイレベルな選手権を戦えることはとても幸せなことなんだ。僕のレースキャリアがこうして今も続いていることを嬉しく思うし、僕はまだゴーホーム(引退する)つもりなんて無いから、今年の変化を楽しんでいるのさ」

冒頭に書いたように、彼は米国のAMAスーパーバイクの誇り高きチャンピオンとしてMotoGPライダーになり、ヴァレンティーノ・ロッシと戦ってワールドチャンピオンになった。しかし、MotoGPは電子制御が多用される時代となり、ビッグバイクの名手よりもキンキンにチューニングされた軽量級レース専用バイクで驚くべき攻めた走りを見せたホルヘ・ロレンソやマルク・マルケスなどの若手が台頭する状況に変わってしまった。そして、ヘイデンは本来の持ち味が活かされるカテゴリー、スーパーバイクに戻ってきた。

まだ引退など考えていないというニッキー・ヘイデンにとって、スーパーバイクによる耐久レース「鈴鹿8耐」の優勝はキャリアを続けていく上でどうしても欲しいタイトルだ。というのも、来季以降、ホンダの新型スーパーバイクが登場する可能性があるからだ。より良い体制を得て、MotoGPとWSBKの両方でワールドチャンピオンに輝くために、「鈴鹿8耐」は通るべき道なのだということを彼はきっと認識している。ワールドチャンピオン、ニッキー・ヘイデンが発揮するライダーとしての真価を「鈴鹿8耐」のレース中に、きっと見ることができるだろう。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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