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目下MLBトップタイの5勝! 25歳ツインズ右腕は育成の星どころかドラフト指名1200人にも入れず

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
サクセスストーリーを歩み続けるランディ・ドブナック投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【リーグトップの5勝目を挙げたダルビッシュ投手】

 カブスのダルビッシュ有投手が現地時間の8月23日のホワイトソックス戦に先発し、7回を投げ6安打1失点(本塁打による1点のみ)、1奪三振の好投を披露し、ナ・リーグトップに躍り出る今シーズン5勝目を挙げた。

 勝利数はもとより、防御率(1.70)はリーグ2位、イニング投球数(37.0)も同3位タイ(記録はすべて現地時間の8月24日現在)に入るなど、今シーズンはサイヤング賞有力候補に上げられる活躍を続ける。

 昨シーズン後半から抜群の安定感をみせ、すでにチームからの信頼は絶大なものとなり、開幕投手には選ばれなかったものの、今やカブスの絶対的エースといっていい。

【期待以上の投球を続けるMLB2年目のツインズ右腕】

 リーグは異なるが、ここまでダルビッシュ投手に負けない活躍を続ける投手がいるのをご存じだろうか。今シーズンからツインズに移籍した前田健太投手と一緒に、先発ローテーションを支えているランディ・ドブナック投手だ。

 昨シーズンにMLBデビューを飾った25歳右腕は、勝ち星(5勝)ア・リーグ1位、防御率(1.78)同4位、イニング投球数(30.1)同20位──と、安定した投球を続けている。

 ここまでツインズがア・リーグ中地区で首位を走るのも、ドブナック投手の存在があってこそだといっていい。

【ドラフト1200人から漏れた日陰の存在】

 たぶんMLBに詳しい方なら、以前にドブナック投手の名前を聞いたことがあるはずだ。

 昨年MLBデビューを飾った際、ツインズ入りする前にウーバー(民間人による自動車配車サービス)のドライバーをしながら生計を立てていたことが話題となり、日米のメディアで取り上げられた異色の投手だからだ。

 だが彼の異色の経歴は、それだけに留まらない。日本ではソフトバンクの千賀滉大投手を筆頭に、育成ドラフトを経てNPBで活躍する選手が増え、彼らを“育成の星”と称して注目されるようになっているが、ドブナック投手はそれ以上の存在だ

 彼は各チーム40巡目まで指名できるMLBドラフトで、指名すらされなかった選手なのだ。つまりその年の有望選手1200人にも入れなかったのだ。

【調査はYouTube動画だけ、わずか2日でスピード契約】

 ペンシルバニア州出身のドブナック投手は、地元の高校を卒業後、ウェストバージニア州の大学に進学する。この大学はNCAAのディビジョンII(いわゆる2部リーグ)に所属するチームで、野球ではほぼ無名校だった。

 結局MLBからまったく関心を受けないまま2017年に大学を卒業。大学時代のチームメイトの父が監督を務める、独立リーグのチームに加わることになった。

 この独立リーグにしても、ミシガン州の一部を拠点に2016年から活動を始めた超マイナーな組織で、MLBからの関心も薄く、プロとはいえ選手たちは十分な収入をえることができないようなリーグだった。そのためドブナック投手は、ウーバーのドライバーをしていたわけだ。

 ところが、突然彼に転機が訪れることになる。

 ツインズのマイナー組織で先発投手が足りなくなり、急きょ選手の補充が必要になった。そこで独立リーグ担当スカウトが、知り合いの監督(ドブナック投手の在籍チーム)らに連絡したところ、ドブナック投手を強く推薦してきたという。

 だがツインズはこれまで一度もドブナック投手に関心がなく、まったく調査してこなかったため、チーム内に彼の映像はなかった。そこでYouTubeに彼の投球動画がアップされているのを聞き、この動画を元にスカウト会議を開き、わずか2日でマイナー契約を結ぶことを決定したようだ。

 ドラフト指名を受けないまま大学を卒業してから、約2ヶ月後のことだった。

【マイナー補充選手がわずか2年でMLB初昇格】

 ツインズとしてはドブナック投手の獲得は、あくまでマーナーリーグの先発投手を補充するための措置でしかなかった。その当時誰一人として、彼がMLBに昇格できる逸材だと考えていなかったはずだ。

 ところが2018年に1Aで10勝5敗の成績を残すと、翌2019年は1Aから3Aまでトントン拍子で駆け上がり、8月4日にMLBデビューを飾ってしまったのだ。そして今シーズンは前述通り、ローテーションの核としてチームを支える存在になっている。

 まさに絵に描いたようなサクセスストーリーを歩んできたドブナック投手。彼の成功はどこまで続くのか、これからも是非注目してほしいものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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