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新スーパーマンに決まった注目俳優、タイミングよく今週公開の衝撃作に出演。スーパーマン俳優の呪いとは?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
スーパーマン役に決まったデヴィッド・コレンスウェット。『Pearl パール』より

スーパーマンという大役をゲットすれば、今後の俳優のキャリアも安泰のはず。しかし、そうとも言い切れない……。

先日、DCスタジオの共同トップであるジェームズ・ガン監督が、新たなスーパーマン/クラーク・ケント役がデヴィッド・コレンスウェットであると発表した。ニコラス・ホルトら強力なライバルを退けての大抜擢である。

映画ファンにとっても「デヴィッド・コレンスウェット? 誰それ?」という状態だと思うが、Netflixの「ザ・ポリティシャン」や「ハリウッド」といったシリーズに出演。両作とも企画・製作総指揮は、イケメン俳優発掘の手腕もあるライアン・マーフィーである。

たしかにデヴィッドの風貌は、これまでの作品で目にしてきたスーパーマン/クラーク・ケントのイメージにぴったり。近年、固定化されたイメージを受け継ぐことに賛否も出たりするが、今回は「受け継いだ」という印象だ。デヴィッドは1993年生まれ。間もなく30歳の誕生日を迎える。

A24作品でヒロインの運命を左右する映写技師役

そんなデヴィッドがどんな俳優なのか知る意味で、日本では絶好のタイミングで彼の出演作が劇場公開される。6/30にスーパーマン役が発表。それから一週間後の7/7に公開されるのが『Pearl パール』である。

気鋭のスタジオ、A24製作による『Pearl パール』は、今から約100年前の1918年のテキサス州を舞台に、両親の農場で働く少女パールが、映画スターになる夢をふくらませる物語。

映画に夢中になったパールは、親の目を盗んでこっそり町の映画館へ行くのだが、そこの映写技師を演じているのが、デヴィッド・コレンスウェット。少女とはいえ、パールには夫がいて、第一次世界大戦に出征している。孤独なパールは映写技師への想いを募らせ、艶かしい関係にも導かれる。何より、映写技師はパールの映画スターへの憧れを後押し。さらに彼は信じられない運命に……と、映画の中でもキーパーソンである。

映画館の裏でパールの切実な思いを知る映写技師(役名は出てこない)。
映画館の裏でパールの切実な思いを知る映写技師(役名は出てこない)。

『Pearl パール』は全米などでは昨年公開済み。われわれ日本の観客は、このあとスーパーマンを演じることを思い浮かべながら、デヴィッドの演技を観ることができ、それは映画の醍醐味でもある。スーパーマン役への軌跡として、この映写技師役に味わい深い“発見”もあることだろう。

ちなみに『Pearl パール』は、昨年公開された『X エックス』の前日譚。同作に登場した老婆の殺人鬼が、少女パールの未来の姿である(演じるのも同じくミア・ゴス)。しかし『Pearl パール』は単なるホラーやスリラーではない、怪作にして大傑作だと断言したい。

一般の映画ファンにとっては“ほぼ無名”だった今回のデヴィッドのように、過去のスーパーマン役には大抜擢の例が多かった。それだけ色の付いていない新鮮味が求められるのかもしれない。

俳優としての活躍を、もっと見たかったクリストファー・リーヴ

同時に、ハリウッドには「スーパーマンの呪い」という伝説もあり、スーパーマンを演じた俳優や、スーパーマン映画に関わった人たちに、その後「悲劇」が多発することが、まことしやかに語り継がれている。

車椅子でアカデミー賞授賞式など数々の公の場に姿を見せたクリストファー・リーヴ。
車椅子でアカデミー賞授賞式など数々の公の場に姿を見せたクリストファー・リーヴ。写真:ロイター/アフロ

有名なのが、クリストファー・リーヴ。1978〜1987年の4本でスーパーマンを演じ、今でもこの人の姿でスーパーマンのイメージを固定化している人も多いが、1995年の落馬事故で脊髄損傷。車椅子生活を送り、2004年、52歳の若さで心不全が原因で死去した。スーパーマン役の後も、さまざまな役で活躍していただけに残念だった。

1950年代、TVシリーズでスーパーマンを演じたジョージ・リーヴスは、同シリーズ終了後の翌年、1959年、自宅で射殺死体として発見された。自殺か他殺かも不明だったが、結婚を3日後に控えた悲劇である。

さらにクリストファー・リーヴの1作目『スーパーマン』で、スーパーマンの赤ん坊時代を演じた俳優は14歳でシンナー吸引により死去。同作で相手役のロイス・レーンを演じたマーゴット・キダー、スーパーマンの父を演じたマーロン・ブランドは、その後の人生に、やけに悲劇的な事件や病気が続いたりも。その他にも数多くの事例が、なかば無理やりな感じで「呪い」に紐づけられている。

ブランドン・ラウスのスーパーマン。1作で終わってしまったのがもったないほどハマっている。
ブランドン・ラウスのスーパーマン。1作で終わってしまったのがもったないほどハマっている。写真:Splash/AFLO

また、スーパーマン役のイメージが強すぎて、キャリアが今ひとつという例も事欠かない。初代スーパーマン役のカーク・エイリンは、その後、仕事に恵まれず俳優業を引退。2006年『スーパーマン リターンズ』でやはり大抜擢だったブランドン・ラウスは、地道に俳優業をがんばり、TVシリーズ「CHUCK/チャック」や、「ARROW/アロー」に始まるDC作品に出演しているものの、トップスターとしての人気には程遠い印象。

「呪い」を「迷信」にするのも俳優次第か

一方で、直近のスーパーマン役のヘンリー・カヴィルは『マン・オブ・スティール』から3本で同役を担い、昨年の『ブラックアダム』にもカメオ出演。並行して『コードネーム U.N.C.L.E.』や『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』など話題作でも活躍しており、「スーパーマンの呪い」にかかっていない例かも。

余談だが、現在公開中の『ザ・フラッシュ』ではマルチバースの短いシーンながら、ニコラス・ケイジのスーパーマンが出てくる。自他共に認める熱狂的なスーパーマンのファンで、ティム・バートン監督の下、コスチュームまで作ったのに映画が製作されなかった過去がある彼にとって、積年の思いがこもったスーパーマン役。ニコラスの人生は「呪い」とは一味違う、波乱万丈でドラマチックなものだが……。

こうして数多くのいわくつきの事例はあるが、スーパーマン役に選ばれるのは、一世一代のラッキーな出来事。新たなスーパーマン役、デヴィッド・コレンスウェットが、この後、どんな俳優人生を送るのか。実際、スーパーマン映画の前に数々の出演作が決まっており、キャリアは絶好調になりそうな気配。とりあえず「スーパーマン役の呪い」や「キャリアの難しさ」が頭をかすめながら、『Pearl パール』の彼と向き合うのも、なかなか乙なものである。

デヴィッドがスーパーマンを演じる『スーパーマン:レガシー(原題)』は、今から2年後、2025年7月に公開予定となる。

『Pearl パール』

7月7日(金)より TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

(c) 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

配給:ハピネットファントム・スタジオ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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