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改めて振り返るセネガル戦のディティールと日本が勝ち点1を獲得した理由

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

立ち上がりの失敗とハーフタイムの修正点

 後半、本田圭佑のゴールで追いつき、セネガルと2-2で引き分けた日本。

 W杯ロシア大会、グループリーグ第2戦で日本は難敵セネガルに対して2-2のドローを演じることができた。W杯のような短期決戦においては、初戦の結果がいかに重要であるかを改めて痛感させられる。

「正直、ここで勝ち点3をとりたかったです。でも、W杯はそんなに楽なものじゃないということをアフリカの身体能力のある彼らが教えてくれたと思います。だから、勝ち点1が妥当だと思いますし、むしろ、よく2回も追いつけたと思います」

 試合後に吉田麻也がそう振り返ったように、勝ち点1ずつを分け合ったことは試合内容からしても妥当だった。セネガルとの実力差を考えれば、むしろ2度追いついた格好での勝ち点1は画期的と言ってもいい。

 今大会以前の日本であれば、失点した後に動揺してしまい、リズムを取り戻せないまま追加点を許してしまうケースが多かった。しかし、この試合ではそういった現象は起こらなかった。相手が10人だったとはいえ、初戦のコロンビアに勝利を収めたことで日本に精神的な余裕と自信が生まれていたと見ていいだろう。

 この一戦を改めて振り返ってみると、ディティールの部分で様々なことが起こっており、同点に追いつくことができた要因も浮かび上がってくる。

 まず、前半の立ち上がりは、4-3-3を敷くセネガルが前からプレッシャーをかけてきたため受け身のサッカーを強いられた。日本にとっては、最も避けたかった展開だ。

「本当はもうちょっと前からいってもよかったんですけど、逆に相手が結構前からきたので、自分たちがそれをやり損ねた。後手に回ってしまった」

 乾貴士がそう話したように、立ち上がりからセネガルの両サイドのスピードに翻弄され、それに対応することで精いっぱいという状況に陥った。そんな中、前半12分に川島永嗣がミスを犯してしまい、先制点を献上してしまう。

 確かに失点シーンだけを見ればGKのミスが原因であるが、試合の流れとしてはセネガルの先制点が時間の問題であったことも確かだった。

 ただ、先制したことで油断をしたのか、ここから急激にセネガルのプレー強度が低下する。初戦のポーランド戦で勝利を飾り、2戦目の日本に対しても早い時間帯でリードしたため、緩さが出てしまったのだろう。それが救いとなった。

 とりわけ4-3-3の中盤のセンターに入った13番のA・エンディアイエの動きはすこぶる緩慢で、日本の最終ラインやボランチから香川真司や大迫勇也に対して何度も縦パスが入るような展開となった。

「普通にビルドアップすればつなげる。ハーフタイムに選手間でそういう話が出ていた。(事前の)ミーティングでは、足下へのボールに対しては(相手が)かなり厳しくくるので難しいと話していましたが、でも前半やっていて結構ルーズだということを感じていたので、後半はそこを修正して上手くできたと思います」(吉田)

 これが、前半のうちに日本がリズムを取り戻せるようになった要因となった。

 ただ、セネガルのアリュー・シセ監督はそんな状況の変化を見て、前半途中でシステムを4-3-3から、P・A・エンディアイエとニアンを2トップに置く4-4-2に変更した。日本の縦パスを抑制するための対策だが、その後もプレー強度は上がらなかった。その理由として考えられるのが、日本のプレーテンポだ。

 今大会の日本はリスクを冒したパスを多用せず、安全な後方のエリアでポゼッションをする時間が長い。実際、コロンビア戦のボール支配率は59%、セネガル戦も53%(前半は56%)と、試合内容とは裏腹なスタッツを叩き出している。

 ボールを保持してから安全なエリアでゆっくりとポゼッションをするため、攻守の切り替えは必然的に少なくなる。そうなると当然、プレーのテンポはスローになり、それが調子を狂わせる原因になったともいえるのだ。

 セネガルというチームは、乗っている時は手がつけられないほどの強さを見せる一方で、集中力を欠いている時は“がさつ”なサッカーに終始する悪癖がある。スピーディーかつハイテンションのゲーム展開になればなるほど、セネガルは集中力を切らさずに実力を発揮しやすい環境が生まれる。初戦のポーランド戦がその典型だ。

 しかし、日本戦はそうならなかった。インテンシティも低く、他のW杯の試合と比べてゆっくりとしたテンポで展開した。さらに、試合中に選手が負傷するなどしてプレーが途切れるシーンが何度もあり、それも集中力を持続できなかった要因となった。

 スローテンポで試合が進む中、前半34分、ワンチャンスをものにして乾が同点ゴールを決める。しかもそのゴールは4-4-2にして中盤を厚くしたセネガルに対し、柴崎岳が低い位置から一気に左サイド深いエリアにロングフィードを入れたことがきっかけだった。

 吉田のコメントにあった通り、後半は前半よりもリスクをかけたパスを仕掛けるように変化した。その分、ボールをロストしてカウンターを受ける場面も増え、攻守の切り替えも増加。日本にチャンスが増えたが、逆にピンチも確実に増加した。

 後半71分のセネガルのゴールは完全に崩された形での失点で、この試合で最も反省すべきシーンだった。しかし、その7分後に相手のミスによってそれが帳消しになったことは、今大会の日本がまだ幸運に恵まれていることの表れともいえる。

 スコアが2-2になった後、シセ監督は再び4-3-3に戻して勝利を目指したが、笛ふけど踊らず。サディオ・マネを筆頭に、もはやセネガルの選手たちの気持ちは切れかかっていた。そういう点も含めて、ドローという結果は妥当だった。

 さらに日本に追い風が吹いたのは、同日に行なわれた試合で、3戦目の相手となるポーランドがコロンビアに敗れたことだった。これにより、ポーランドのグループリーグ敗退が決定。日本戦は、彼らにとって消化試合になったわけだ。

 もちろん、だからといって勝てる保証はない。モチベーションを失ったとはいえ、ポーランドの実力は誰もが認める通り。グループリーグ突破の可能性を残しての対戦よりはベターというだけのことだ。

 ただ、ここまで事がうまく運んでいる現状からして、日本が引き分け以上の結果を残す可能性は十分にある。できれば内容を伴った結果によって、そうあってほしい。

(集英社 週プレNEWS 6月27日掲載)

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サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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