困窮する脱北者家族から仕送りを奪う金正恩の「拷問部隊」
韓国に住む多くの脱北者は、北朝鮮に残してきた家族に仕送りをしている。北朝鮮当局の厳しい取り締まりの影響で減少傾向にあるが、昨年の調査では、回答者の約2割が家族に送金したと答えている。
韓国政府が見積もった、2022年度の4人家族の1カ月の最低生活費は、307万ウォン(約31万7000円)。一方の北朝鮮では、50万北朝鮮ウォン(約9000円)。つまり、韓国からの仕送りは、たとえ少額であっても、北朝鮮ではかなりの価値を持つのだ。
そんな仕送りは、北朝鮮国内の送金ブローカーを通じて家族に手渡されるが、受け取るのを断っている人がいるという。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が詳細を伝えた。
新義州(シニジュ)の送金ブローカーは、北朝鮮に住む家族に仕送りを手渡してほしいと頼まれ、市内に住むリさんの家を訪ねた。すると、リさんは受け取りを固く拒否した。ブローカーは翌日再びリさんを訪ねたが、返ってきた答えは「二度と来るな」「私にはそんな(脱北した)家族はいない」というものだった。
ブローカーは、他の家族にも送金を手渡しに行ったが、同様に断られた。そして、リさんがなぜ受け取りを断ったのか、その事情を聞かされた。
「コメを買うカネがないほど生活は苦しいが、以前に(韓国からの)カネを受け取り、一銭も使う前に、家族全員が保衛部(秘密警察)に呼び出され、4カ月間拘禁されて、ようやく釈放された」
リさんは今年3月、脱北した家族からの送金1万5000元をブローカーを通じて受け取ったのだが、そのわずか5分後に保衛部が現れ、現金を没収された上で、長期勾留されたのだという。
「(リさんの)家族は保衛部に連れて行かれてどれほどひどい目に合わされたのか、顔から笑顔が消えた」(別の脱北者家族)
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
リさん一家は「カネを隠そうとした」と厳しい追及と拷問を受け、7月末に釈放されたものの、あまりの精神的苦痛から、今に至るまで家に閉じこもったままだという。
北朝鮮の恐怖政治の実働部隊である保衛部は、かつては国からの配給を受け、住民からワイロを搾り取り、それなりの暮らしをしていた。ところが、経済難で配給も途絶え途絶えに。生き抜くために、ありとあらゆる手段を動員して、カネをかき集めようとしているのだ。
「コロナで国境が封鎖され、密輸業者のバックについてワイロを受け取っていた保衛員たちは、金儲けができなくなり、脱北者家族や送金ブローカーなど、カネの匂いがするところは以前より厳しく監視をしている」
以前なら、一定額をワイロとして渡せば、おとなしく引き下がっていたであろう保衛部だが、今では全額を奪おうとするのだ。それなら最初から受け取らない方が、まだマシということだ。