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MLBで最も支配的な球種、大谷翔平の『スイーパー』ってどんな魔球?

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
エンゼルスの大谷翔平(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 4月11日(日本時間12日)にカリフォルニア州アナハイムで行われたナショナルズ戦に先発登板して、7回を1安打無失点に抑えて今季2勝目を挙げたエンゼルスの大谷翔平。この試合では6つの奪三振を記録したが、5つはスイーパーで奪ったもの。

 これで今季は19イニングを投げて失点は僅か1点。防御率0.47と絶好調な大谷を支える魔球『スイーパー』がアメリカの主要メディアから注目を集めている。

スイーパーは横に大きく曲がるスライダー

 新しい球種として『スイーパー』の特集を4月12日に組んだニューヨーク・タイムズによれば、スイーパーはスライダーの一種で、ヤンキースのエース、ゲリット・コールが投げるジャイロ系のスライダーが縦に落ちるのに対して、スイーパーはフリスビーのように横へ大きく変化する。

 スイーパーという名前自体は新しいが、球種自体は昔からある球。1990年代にメッツやヤンキースで活躍して、サイ・ヤング賞を獲得した実績を持つデビッド・コーンも現役時代に投げていたと主張する。

 11日の試合後にスイーパーに関して質問された大谷も「(スイーパーは)ずっと投げていました。小さいスライダーだったり、大きいスライダーだったり……。スイーパーっていう言い方は、ちょっと前に始まったぐらいな感じなので。ずっと日本の時から投げてました」と証言した。

科学的アプローチによって生まれた魔球、スイーパー

 スイーパーがスライダーの一種で、横に大きく曲がる変化球だと言うことは分かったが、なぜスイーパーが急に脚光を浴びるようになったのだろうか?

 近年、動作解析やデータ分析が急速に進んだ結果、投手たちは投球の回転数やリリースポイントなど、10年前には手に入らなかったようなデータを利用して、ピッチングの改善に力を入れている。

 大谷がオフに訪れることでも知られる『ドライブライン・ベースボール』など動作解析を専門にした野球施設も作られ、投球に対して科学的なアプローチが成されている。

 ヤンキースの中継ぎとして4度の世界一に貢献したジェフ・ネルソンは、現役時代に「メジャー屈指のスライダーの使い手」として知られた。「鋭く、大きく横に曲がるスライダーで、俺はスラーブと呼んでいた」とネルソンは言う球種は、今でいうスイーパー。そんなスイーパーの名手であっても、「曲がりの大きさをコントロールすることはできなかった」と明かす。

 今の投手たちはボールの回転数や回転軸、変化量などネルソンの時代にはなかったデータへ瞬時にアクセスでき、変化球の変化量をコントロールする術を学んでいる。

 科学的アプローチによって進化した魔球がスイーパーなのだ。

今季、大谷の投球の半分以上がスイーパー

 大谷のピッチングは、160キロを超えるストレートや、メジャーの強打者のバットを空振りさせるフォークのイメージも強いかもしれないが、実は今、最も頼っている球種がスイーパーで、その投球割合は49.0%と投球の約半分がスイーパーだ。

大谷翔平の今季の投球割合。スイーパーが49.0%、4シームが24.0%、フォーク(スプリット)が8.4%と投球の約半分がスイーパーだ(BaseballSavantより)
大谷翔平の今季の投球割合。スイーパーが49.0%、4シームが24.0%、フォーク(スプリット)が8.4%と投球の約半分がスイーパーだ(BaseballSavantより)

 大谷がスイーパーを多投し始めたのは昨季からで、昨季は4シームが27.3%だったのに対して、スイーパーは37.4%と初めてスイーパーの割合が4シームを超えたシーズンだった。ちなみに2021年は4シームが44.0%で、スイーパーは21.9%。

 大谷が投手としてリーグのエリートレベルに到達できたのは、スイーパーの精度を磨いたからと言える。

 今季はスイーパーの被打率は.088で、被長打率も.118と打者を圧倒している。今季115球以上投じられた球だと、大谷のスイーパーは被打率、被長打率ともにメジャー1位であり、被打率に関してはMLBで唯一1割を下回っている球種である。また、被ハードヒット率もメジャー1位の17.4%で、この数字は打者がいかに大谷のスイーパーを打つのに苦労しているかを表している。

2020年以降の大谷翔平の投球割合(BaseballSavantより)
2020年以降の大谷翔平の投球割合(BaseballSavantより)

大谷のスイーパーの凄さとは?

 今季、大谷のスイーパーの平均球速は83.4マイル(約134.2キロ)で、これはメジャー平均を上回るが、スイーパーを投げる36投手中9位にランクインする。

 それよりも驚くべき数字が17.5インチ(約44.5センチ)も横に滑る変化量である。

 横に44.5センチ動くと言われても想像するのが難しいが、野球のホームベースの幅が43.2センチなので、ホームベースの端から端まで変化すると考えれば、大谷のスイーパーを打つことの難しさが理解できるだろう。

 昨季はスイーパーの横変化が14インチ(35.6センチ)だったので、今季は9センチ近くも変化量が増えている。

 大谷のスイーパーがメジャーで最も支配的な魔球と呼ばれる理由は、平均以上のスピードを持ちながら、打者の近くで急激に大きく曲がる点にある。速球と軌道がほぼ同じために、打者は対応できずにフリーズしてしまう。

 4月10日にスイーパーの特集を組んだMLB公式サイトは、大谷のスイーパーを「MLBで最も価値ある球の1つ」だと断言。その根拠として、2022年開幕以降、大谷のスイーパーは29点を防いでいるとのデータを出してきた。この29点は、ディラン・シーズ(ホワイトソックス)のスライダーが防いだ38点に次ぐ、MLB2位の数字だという。

 ちなみに、今季は4月11日の試合を終えた時点で、大谷のスイーパーは6点を防いでおり、これは堂々のMLB1位である。

WBC優勝を決めた最後の1球もスイーパー

 まだ記憶に鮮明に残っている今年3月のWBC決勝戦での大谷とマイク・トラウトの対決。9回2死フルカウントから大谷が勝負球に選んだのもスイーパーであり、87.2マイル(約140.3キロ)の魔球は横に17インチ(約43.2センチ)も変化して、トラウトのバットは空を切った。

 「バットとの接点がない」とWBC日本ラウンドで大谷の球を受けた甲斐拓也も驚愕した魔球を武器に、大谷がMLBの強打者から多くの三振を奪っていけば、悲願のプレイオフ出場を勝ち取れるはずだ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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