映画は民主主義に必要なのか?
今年公開されたオリバー・ストーン監督の映画『スノーデン』。2013年にエドワード・スノーデンがアメリカ国家がインターネットを通じ、全世界の通信を傍受していたことをメディアに暴露した、いわゆる「スノーデン事件」を元にしている。映画といっても、基本的に大きな脚色もなく、ほぼ再現ドラマといっていいようなものだ。
昨年は、この『スノーデン』にも出てくる女性ドキュメンタリー映像作家のローラ・ポイトラス氏が監督したドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』が公開された。ここで語られるエドワード・スノーデンの話と『スノーデン』で表現される内容とに大きな差異はないようだ。
とはいえ、ストーンが監督した『スノーデン』は、当然のことながらフィクションであり、エンターテインメントである。造られた美術セットの中で役者が演じ、スリルに満ちた場面やスノーデンの恋愛ストーリーも折り込まれて飽きさせない作りになっている。とくにこの事件を知っている人にとっては最終場面の演出はサプライズであり、感動させるすばらしいものだった。
この映画はスノーデン事件の全容を多くの人々に知らしめ、そのアメリカ政府が実際に行なった全世界への“裏切り行為”を理解させるには最適なものだろう。フィクションとはいえ、まったくの作り話ではないところにこの映画の恐ろしさがあり、ドキュメンタリー映画でなくても、この映画自体がジャーナリズムとして機能していると言えるだろう。
いま現在、映画はエンタメの要素が強く、多くの人々がニュースを伝えるメディアとは考えていない。しかしジャーナリズムとしての役割は小さくない。ではジャーナリズムの役割とはどのようなものだろうか?
ジャーナリズムにはさまざまな役割がある。第一には、当然のことながら民主主義を成立させ、維持するのに必須である。その他具体的にはどのようなことがあるのだろうか。
世界的なジャーナリズムの研究組織であるワールド オブ ジャーナリズム(Worlds of Journalism)が行なった加盟国66か国へのジャーナリストへの調査結果から、ジャーナリズムの役割として挙げられた項目のうち、政情が近いアメリカおよび日本の項目の中でともに高い支持率で一致したものから以下の5つに整理される。
1 . 国民の「知る権利」に応えること
2 . 政治経済における権力者の不正を明らかにし、国民に知らせること
3 . 政府決定事項の問題点を掲げ、議論を呼び起こし、議論する場を創出する
4 . 国民の声を拾い上げて拡散し、社会の問題点をあぶり出す
5 . 国民が知っておいた方がよいことを伝える教育機能
これらの項目を見ると先の映画『スノーデン』において、とくに上記の1、2、5の役割を担っていると言えよう。これまでも、古くはアラン・J・パクラ監督、ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンが共演した1976年公開の『大統領の陰謀』は知っている人も多いだろう。最近では2015年公開の『スポットライト 世紀のスクープ』なども実際に起こった事件を世に広めるには十分な役割をもつ。これらジャーナリスティックな映画は数多くある。
今週、3月31日に公開されるナタリー・ポートマン主演の『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』も、1963年に暗殺されたJ・F・ケネディ夫人のジャクリーン・ケネディがケネディの暗殺から葬儀まで、どのように考え、振る舞ったかを伝えている。さまざま文献から忠実に当時の様子を再現しているようだが、当然、フィクション映画であり、エンターテインメントである。
しかしこの映画を観ることによって、ジャクリーン・ケネディや、J・F・ケネディに興味を持つ人々が増えるのであれば、それは「知っておいた方がよいことを伝える」という教育機能となる。この映画がきっかけで、近代アメリカおよび世界でどのようなことが起こっていたか、それぞれの国家がどのような思惑を持っていたかを知りたいと思うかもしれないだろう。また、2039年に機密解除され公開されるというケネディ暗殺の機密文書の存在に興味を覚える人も出てくるだろう。
このように考えると、私たちが娯楽として観ている映画が実は民主主義に与えている影響は決して小さくはないのである。いまは一過性の劇場での公開のみならず、ネットやDVDでいつでも観ることができる。映画をきっかけとして知識欲に火を着けられるのも悪くない。