Yahoo!ニュース

【宝塚市】10年ぶりの展示も。市所蔵の名品が観られるこの夏必見の展覧会―宝塚市立文化芸術センター

ぶらっと地域情報発信ライター(宝塚市)
中畑艸人「惨!!'95一月一七日」油彩・キャンバス

宝塚市立文化芸術センターでは、市制70周年を記念して、宝塚市所蔵の美術作品展を開催中(9月1日(日)まで)。宝塚が誇る貴重な作品たちを鑑賞できるチャンスです!

きて!みて!みんなの「たからもの」

緑豊かで文化が香るモダンな街・宝塚に魅かれて移り住み、日本の高度経済成長期であった1950年~70年代を中心に活動した美術作家たちがいます。作家の死後、遺族等によって作品が市に寄贈されましたが、公共施設での一部公開を除き、これまでまとまった展示はありませんでした。

現在、宝塚市立文化芸術センターで開催中の『宝塚市制70周年記念展 宝塚コレクションー宝塚市所蔵作品展ー』では、”きて!みて!みんなの「たからもの」”をキャッチフレーズに、所蔵品の二大コレクションである2人の作家の美術作品を一挙に紹介。宝塚市の財産である優れたアートを間近で鑑賞できる展覧会となっています。

馬を愛した洋画家・中畑艸人(なかはたそうじん)

1人目は洋画家の中畑艸人(1912~1999)です。和歌山県出身で、1973年に宝塚市に移り住みました。本展覧会では市が所蔵する13作品のうち、市役所や市立病院の常設展示を除いた8点すべてを観ることができます

宝塚市内で8点がまとめて展示されるのは、8年ぶりだそう。
宝塚市内で8点がまとめて展示されるのは、8年ぶりだそう。

イタリアやスペインなど欧州を外遊した成果が結実した2点のほか、「馬の画伯」として知られた中畑の真骨頂である馬をモチーフにした作品、深い精神性を感じさせる『現代の神話』など、中畑の画業を見渡せる秀作が揃っています。

中畑艸人『グビオの聖金曜日』(1967) 静謐さの中に滲む、人びとの張り詰めた空気が伝わってくる。
中畑艸人『グビオの聖金曜日』(1967) 静謐さの中に滲む、人びとの張り詰めた空気が伝わってくる。

『現代の神話』三部作は、キューバ危機など、1960年代初頭の緊迫した世界情勢を念頭に描かれたもの。正確な描写に支えられた、作家の激情を叩きつけたかのような力強い筋肉のラインは、観る者を圧倒します。背景の色は深くかつ繊細で、第二次世界大戦での従軍経験をもつ中畑の、怒りとも憂いともつかぬ感情のうねりが伝わってきました。

中畑艸人『現代の神話』三部作(1963) 
中畑艸人『現代の神話』三部作(1963) 

素晴らしいタッチと色彩は、ぜひ足を運んで観るべきお勧めのコレクションです。

絵本「ころ ころ ころ」の生みの親・元永定正(もとながさだまさ)

続いては、2001年に宝塚市大使にも就任した元永定正(1922~2011)のコレクション。重厚な具象絵画とはうってかわって、心が躍るポップな抽象美術です。

この形、みたことありませんか?
この形、みたことありませんか?

カラフルな色合いと、シンプルでどこかユーモラスな「まる」や「さんかく」といった「かたち」は無条件で愛らしく、観れば誰でも笑顔になります。

「かたち」っておもしろい
「かたち」っておもしろい

シンプルなのに目が離せなくなるスケッチ
シンプルなのに目が離せなくなるスケッチ

今回の展示では、キャンバスにアクリルで描かれた大きな作品から、小ぶりなシルクスクリーン、さらにはルーレットなどの立体作品やインスタレーションが展示され、元永ワールドを堪能できるようになっています。

「もーやんるーれっと(白)」
「もーやんるーれっと(白)」

手づくり感満載のルーレットは、7月26日(金)、8月16日(金)14時~16時限定で「触れて体験」できるそう。くるくる回るカラフルな「いろだま」たちに、大人も子どもも夢中になりそうですね。

「ななころびやおき」シリーズの2つのおきあがりこぼし。いずれもパートナーでもある中辻悦子さんとの共作。
「ななころびやおき」シリーズの2つのおきあがりこぼし。いずれもパートナーでもある中辻悦子さんとの共作。

キュレーターおすすめの2作品

最後に、本展覧会のキュレーターである山口由香さんもお勧めの2作品をご紹介します。

ひとつめは中畑艸人の「惨!!'95一月一七日」(1995)。1995年の阪神・淡路大震災での被災経験をもとに描かれました。

いななく声まで聞こえてきそうな恐怖の表情や、赤々と燃え上がる炎があまりにリアルで、馬の姿を借りているとはいえ、被災経験のある方には辛い作品かもしれません。けれど、中畑絵画のなかでも屈指の完成度で、作者自身が受けた衝撃の大きさと、それをあますところなく伝えようとする強い意志が胸に迫ってくる名品です。

ふたつめは、元永定正「いろだま」シリーズのインスタレーション
「かたち」のおもしろさ、流れ落ちて転がる「動き」のおもしろさ、二次元のカラフルな「いろだま」が三次元に散らばる「空間」のおもしろさ、そして、それらを観ることで生まれる「わくわくする気持ち」を体感する作品。宝塚市では10年ぶりの展示となっています。

床にちらばる無数の木製の「いろだま」は、実際に転がして展示したそう。結果として生まれたぽっかりあいたスペースも、ぎゅぎゅっと詰まった「いろだま」たちの間隔もすべてが楽しいインスタレーションの傑作です。

キュレーターズトークなど関連イベントも

このほかに関連イベントとして、8月に元永定正のパートナーである中辻悦子さんが登壇するパートナーズサロン(8月3日)や、宝塚市学芸員の西岡美加さんによるキュレーターズトーク(8月17日)が開催されます(詳細はホームページをご覧ください)。

さらに1階のショップでは、「いろだま」の絵本『ころ ころ ころ』などの関連本を販売。絵本作家としても知られた元永定正の書籍を手に取ることができます。

1階ショップの書籍販売コーナー
1階ショップの書籍販売コーナー

いかがでしたか。身近でこんな素晴らしいアートが観られるなんて、と目からウロコの展覧会でした。70周年記念事業・特別割引も適用されるそうで、お得に鑑賞できます(割引適用については公式ホームページをご確認ください)。

美術鑑賞が好きな人もそうでない人も、これを機会に覗いてみませんか。

展覧会情報

『宝塚市制70周年記念展 宝塚コレクションー宝塚市所蔵作品展ー』
■ 会期:2024年7月20日(土)~9月1日(日)
■ 会場:宝塚市立文化芸術センター 2階メインギャラリー
 (〒665-0844 兵庫県宝塚市武庫川町7-64)
■ 開館時間:10時~18時(入場は17時30分まで)
■ 休館日:毎週水曜日
■ 観覧料:一般 1,000円
※中学生以下無料
※障がい者手帳ご提示の方と付添1名まで無料
※2024年度パートナー特典対象
(その他【70周年記念事業・特別割引】あり。詳しくは公式ホームページをご覧ください。)
■ お問合せ:TEL 0797-62-6800
公式ホームページ

地域情報発信ライター(宝塚市)

カフェ、庭園、美術館、ときどき神社。新しい出会いを求めて、カメラ片手に足の向くまま、気の向くまま。歴史のあるまち、宝塚の「いま」をお届けします。執筆記事のアザーカットをInstagramで公開中。

ぶらっとの最近の記事