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中国人が回転寿司に行って大量のワサビを使わなくなった納得の理由

中島恵ジャーナリスト
中国国内でも人気の回転寿司(筆者の友人提供)

5月9日、中国メディア『環球時報』に「日本の寿司の食べ方」に関する詳細な記事が掲載された。

そこには、日本の回転寿司店での炎上事件、高級寿司店で板前を前に食べる醍醐味、回転寿司での正しい食べ方、などが書かれていた。

たとえば、回転寿司については、こんな記述がある。

「重ねる皿は10枚を目安にすること」「なるべく会話は控えめにすること」「あっさりした白身から、徐々に赤身、味の濃い寿司を食べるのがよい」。

さらに「箸で食べるのがよいか、手で食べるのがよいか」といった情報のほか、「ネタの側にしょうゆをつけ、できれば一口で……」といったことまで書かれている。

日本料理店は8万店に増加

いま、中国はかつてないほどの日本食ブームだ。世界の日本食レストランの6割以上がアジア圏に集中しているといわれるが、これまで、その中心は台湾や香港などだった。

だが、中国のグルメサイト「大衆点評」によると、全国の日本食レストランは、2013年の約1万店から、2021年には8万店にまで増加。中国メディア『新京報』の2022年末の記事によると、中国の日本料理の市場規模は約900億元(約1兆7000億円)に上る。

豊かになった中国人は、中華料理だけでなく、世界中の料理を食べるようになったが、とくに人気なのが日本料理なのだ。

人気の背景には、コロナ禍でなかなか日本旅行に行けないけれど、日本料理を食べたいこと、SNSで日本の情報が大量にシェアされ、日本に興味がある人が増えたこと、などがあるようだ。

詳しくは拙著『中国人が日本を買う理由』に執筆したが、中国の日本料理店の中で、最近人気があるのが寿司だ。

中国の寿司店はおおまかにいえば、回転寿司と一般の寿司店の2種類に分けられる。

一般の寿司店の中には、日本円で数万円もする高級店があるが、多くの庶民が通うのは、ショッピングセンター内などに店を構え、1皿10元(約190円)程度の回転寿司だ。

圧倒的に多いのは地元の回転寿司

中国には日系の「がってん寿司」「元気寿司」「はま寿司」などがあるが、店舗数で圧倒的に多いのは地元(中国)の回転寿司チェーン。

ほぼ中国人経営の店で、店員、板前、顧客もほぼ中国人だが、内装などは日本風で(中国人の目から見て)「まるで日本に行ったような雰囲気」を醸し出しているのが特徴だ。

そんな中国の寿司に関する情報をネットで検索していたら、「通」によるさまざまな情報が飛び交っていた。

たとえば、「ショウガはガリ、お茶はアガリという」といった独特の日本語に関する豆知識や、「日本人がいちばん好きなのはマグロの赤身や中トロ」といった日本人に人気の寿司ランキングがあった。

ほかに「日本人は(ネタにワサビが入っているので)そんなにワサビはつけません。たくさんつけるのはやめましょう」といった情報も……。

寿司の「食べ方」にも関心が高まる

そこには「かつての中国人はワサビを大量に小皿に盛り、そこに醤油をたらし、ドロドロになったワサビまみれの寿司を食べていたが、それではちゃんと寿司を味わえない。醤油のつけすぎも厳禁」と書いてあり、驚かされた。

彼らは日本関係のSNSをチェックしたり、日本旅行の経験を積んだりしたことで、日本人が想像する以上にたくさんの知識を得るようになった。

その結果、単に美味しい寿司を食べられればよいということではなく、「寿司の正しい食べ方」「寿司店でのマナーや作法」も学ぶようになったのだ。

むろん、中国は広い。まだ日本に一度も行ったことのない人で、地元の回転寿司だけでしか「日本食」を味わえない人も多く、寿司の食べ方など、とくに気にしない人も多いだろう。

だが、日本人がパスタを食べるとき、徐々に、イタリア式にスプーンを使わず、フォークだけで食べるようになっていったのと同じように、中国人も「本場での食べ方」に関心を持ったり、本場で人気のメニューを自分たちも食べたいと思うようになった。

ただ食べるだけでなく、どのように食べたら美味しいのか、を知ろうとする。つまり、それくらい、彼らの日常生活の間に日本の寿司が浸透してきた、といえるだろう。

かつて、中国人は「生ものは決して食べない」「寿司を食べるとしたらネタはサーモンばかり」「ワサビつけすぎ」といった話をよく聞いたが、それはもはや「昔の話」になりつつあるのかもしれない。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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