ニューノーマルの第一人者に聞く、適者生存の技術【豊田圭一×倉重公太朗】第2回
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豊田圭一さんが2020年7月リバイバルに出版した『会社がつぶれても生き残る!アフターコロナ33の仕事術』という本には、アフターコロナの日本社会で、例え会社がつぶれようと臨機応変に行動する人間になるための秘訣が紹介されています。コロナにより世界中の当たり前がリセットされた今、どんな状況であってもつねに適切な方法を考え、行動できる人材が求められています。そのようなマインドセットをつくるためにはどうすればよいのでしょうか?
<ポイント>
・海外に行かずにグローバル人材を育成する方法
・人を行動に向かわせる、たった二つのこと
・しなやかなマインドになるためにはどうしたらいいか
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■問題の解決のためにデザイン思考を持つ
倉重:テレワークに関しても「在宅を生かしてより生産性を上げていこう」と気がついた企業は強いということですよね。
豊田:強いと思います。本当にいつか「えっ、パパは毎日会社に行っていたの」と驚かれる時代が来るかもしれません。
倉重:オンラインでしか働いたことのない世代が出てくるかもしれないですね。
豊田:そういう気がします。価値観の変化を顕著な例で言うと、昔は携帯がありませんでした。今のデジタルネイティブな子たちからすると、「待ち合わせはどうしていたのか」と不思議に思うはずです。
倉重:豊田さんは大学のときにデートするときはどうしていたのですか?
豊田:それこそ普通に電話して「〇時に〇〇でね」と約束していました。自宅の電話だって、夜中の12時などにかけてはいけないわけですし、お父さんが出てしまっても困ります。約束をした日時に待ち合わせ場所に行って、30分待っても来ないときは、家に電話してもいけないので、仕方なく帰るといった世界です。不便といえば不便だけれども、今のスマホのような比較対象がないので、それが普通でした。
倉重:「そういうものだ」と思いますよね。
豊田:でも、今から考えたら携帯の出現で確実にパラダイムシフトが起こりましたよね。それと同じではないでしょうか。あとは、道を覚えないといけませんでした。
倉重:Googleマップもない時代ですね。
豊田:Googleマップもカーナビもないから、地図を助手席に置いたり、乗っている人に見てもらったりしていました。だから、携帯やカーナビの出願で完全なるパラダイムシフトが僕らの人生の中でありましたよね。それと同じことが今起こっているんだろうと思います。
倉重:ビジネスで考えると、パラダイムシフトでサービス提供の仕方が変わっても、「ダウングレードしてはいけない」とご著書に書かれていましたね。
豊田:「デザイン思考」というのがそれに近いと思っています。デザイン思考というのは結局「ゴールは何か」を見据えています。例えば喉が乾いたとき、水を飲むことはゴールではありません。喉の渇きを潤すことがゴールで、水を飲むのはその手段です。ですから、ゴールが何かという本質はきちんと見据えた上で、デリバリーする方法が変わってくると思います。
倉重:豊田さんも、今までは日本企業の駐在員が現地に行くに当たって、いろいろなミッションを与えたり、カレー屋さんをさせたりする中で、グローバルマインドセットを鍛えるというリアル型の研修をされていました。研修では自分の価値は何かを問いますよね。やり方を大転換するときに、どういうふうに考えましたか。
豊田:やはり僕は環境が与えるものは大きいと思っています。コロナが起こったとき、「すぐに解決してほしい」という気持ちが僕にもありました。気軽に移動できない世界が来るなんて思ってもいなかったので、「海外に行かずに研修する方法」なんて考えもしなかったのです。やはり「海外に行かなかったら意味がない」とも思っていました。そこはパラダイムシフトができていませんでした。やはり海外というアウェーな環境に連れていかなければ、僕の研修はできないと思っていたのです。
倉重:どうしてもその固定観念があったのですね。
豊田:ありました。ところが、クライアント企業から「もう待っていてもしょうがないからオンラインで行ってくれ」と言われたときに、「そもそも自分たちが提供している価値は何だっけ」「自分たちのお客さま、受講生たちがどうなればいいんだっけ?」ということを考えて、デリバリーの方法をオンラインでできないかと頭をひねりました。今まで僕らのキーワードは、「人はアウェーで磨かれる」ということでした。僕はアウェーの環境を与えることを重視していたのです。ですが、「コロナショックによって、今、私たち全員がアウェーな環境にいるんだ」というふうに頭を切り替えました。
倉重:もう日本にいながらアウェーであると。
豊田:考えてみたら、この対談だって以前はヤフーでしていたけれども、今はオンラインでしています。最初は慣れていない人たちもたくさんいましたよね。
倉重:確かに。まだまだいますよね。
豊田:そういう意味では、誰にとってもアウェーな環境が今訪れています。
倉重:日本中どころか、世界中がアウェーということですね。
豊田:その環境においても成果を出さなければいけないミッションに取り組むヒリヒリ感やチャレンジ度は、海外で研修を行うのと同じようなレベルになっています。
倉重:単に今まで行っていたものをオンライン化したのではなく、オンラインだからこそできる価値も入れているわけですよね。
豊田:そうです。入れています。
倉重:そういう意味で、自分のビジネスを捉え直すときは、本質的価値を踏まえた上で、「
オンライン環境でより良くするにはどうしたらいいのか」と考えているのでしょうか。
豊田:僕の研修は海外に連れていきます。僕が海外を飛び回っていると、よく「グローバルですね」と言われるけれども、そうでもないのです。世界には200カ国あります。僕は、ベトナムやタイ、インドのあたりをちょこちょこと行っているだけです。日本から見たら全部海外ですが。
倉重:決まったところを周回しているだけだと。
豊田:ベトナムやインドのローカルに行っているだけなので、別にグローバルで活躍しているわけではありません。自分たちも「グローバル研修」という言い方をしていますが、実際に受講生たちを連れていくのは1カ国です。日本ローカルからベトナムローカルに行っているだけでした。ところが、オンライン研修で今回出したミッションでは、いろいろな国の人たちにコンタクトしない限り、課題が解決できないようにしたのです。オンラインになると、距離が関係なくなりますので。
倉重:むしろ本当のグローバル研修が実現できているのですね。
豊田:そうです。多くの企業が、日本にいながらいろいろな国にコンタクトをしてビジネスをしています。例えば、駐在員さんはコロナの影響で一時帰国しなければいけなくなりました。どうしているのかというと、日本から現地にコンタクトしてマネージしているのです。それと同じように、日本にいながらローカルに何かするのではなくて、オンラインで全世界をターゲットにコンタクトができるように工夫しました。そうすると、「よりグローバルになった」と言われるようになったのです。
倉重:今はみんながZoomなどに慣れてきて、オンライン会議が普及しました。ネット環境も整っています。多分10年前のネット環境では無理でした。今だからこそできることということですよね。
豊田:そうだと思います。
■ニューノーマル時代で生き残るために
倉重:結局「本質的な価値は何か」というコアな部分があって、それを時代に適合させたという話かと思います。ご著書の『ニューノーマル時代の適者生存』にもそういった事例が掲載されていました。いくつかご紹介いただけるとありがたいです。
豊田:倉重さんがこの間対談をした吉村さんがやっているワークハピネスという人材育成会社の事例には衝撃を受けました。僕は創業者の吉村さんとは同じ歳で仲良しですが、「オフィスを全部なくした」と聞いて、いくらなんでもやりすぎではないかと思ったのです。
倉重:もともと人材育成を対面濃厚接触型の研修で行っていた会社ですからね。
豊田:完全に対面型で、「濃厚接触型」と自分たちで言っていたのに、オフィスを全部なくしたのは、社員にとっても衝撃だったと思います。吉村さんは未来予測の専門家でもあるので、とにかく自分でいろいろ調べます。自分のことを「結構ビクビクするタイプだから調べるんだ」と言っていました。その結果「数年規模で戻らない可能性もある」「ずっと戻らないかもしれない」と予測して、「オフィスを構えているのはもうナンセンスだ」と言って、全部解約してしまったのです。バーチャルオフィスを借りて登記したので、「社員が集まる場所は金輪際ありません」ということでした。
倉重:判断が早かったですよね。
豊田:そうすることによって生産性が5倍ぐらいになったそうです。自分たちで考えるようになって、周りの空気を読むことがなくなって、いいことが起こったと言っていました。もちろん社員の中には、「あまりにも突然過ぎる」「寂しい」といった意見もあるのは当然だと思います。しかし、その中で新しいサービスも生れています。テレワークを支援するようなサービスです。自分たちがもう100パーセントテレワークの会社になっているので、説得力が違います。この事例を最初に書いたのは、話を聞いて衝撃を受けたからです。
倉重:他にも、ゴーストレストランやバーチャル展示会、バーチャル旅行の話もありましたね。
豊田:僕らの海外研修もそうですが、旅行や展示会などの「移動すること」が大前提だったビジネスはコロナで大きな影響を受けました。その大前提が崩れたときに、「じゃあ今年はできないね」ではなくて、「どうやって行うか」を考えていったのがその方法です。
書籍では中国の例を出しました。中国は展示会をさまざまな場所で行っていて、何万人規模で人が集まります。それがビジネスの場になっているので、なくすわけにはいかないのです。そこでバーチャル展示会にアクセスして、ブースを出している人たちとオンラインで商談できるというサービスを作りました。今はバーチャルツーリズムも出てきています。
倉重:昔も「セカンドライフ」というサービスがありましたね。
豊田:セカンドライフは本当に仮想空間でしたけれども。今のバーチャル旅行の場合は、1人がガイドとして町を案内します。そうすると、その人が誰かと交渉していたり、値切ったり、ずっこけたりしたことが全部リアルな体験になるのです。
倉重:空気感まで含めてということですね。VRがもっと普及してくるとさらに増えそうです。
豊田:VRが普及したらもっと出てくるでしょうね。逆に言うと、今はそこまでではなく、リアルと逆の方向に行ってしまっています。リアリティーを持つためにVRを使うけれども、結局バーチャルリアリティーなのです。もっと精度が上がって、一家に1~2台まで普及したら、かなりリアルに近い体験ができるかもしれません。
倉重:スマホと同じように一人一台持っているのが普通になると、また変わってくるでしょうね。そういうことも含めて、「〇年後にこうなる」と予測しても仕方がないということですか。
豊田:そうです。「時差出勤をしましょう」ということは、前々から駅にもポスターが貼られていました。
倉重:「オフピーク通勤」などは随分前から言っていましたね。
豊田:だけど全然やりませんでした。僕は前から、人を行動させるものは二つしかないと言っています。一つが「絶対にやりたい」という欲望です。もう一つは必然です。「それ以外は行動をドライブさせない」という話をしていました。今回のコロナで必然が起こったのです。
倉重:危機感に近いものもありますしね。小池さんもようやく「満員電車ゼロ」という選挙公約の一つは達成したかなと思います。結果的に。
豊田:ある意味コロナのおかげですね。
■自分の価値はどのように出せばいいのか
倉重:組織や個人ベースでも変わっていかないといけません。社長がリーダーシップを持ってやるべきなのはもちろん、従業員も一人ひとりが変わっていかないといけないですよね。
豊田:そうだと思います。価値を出さなかったら会議にも呼ばれなくなります。会社だったら、「おい、会議だよ」という人がいて、「俺も」というような感じで行きますよね。でも、オンラインだったら呼ばれないだけですから。
倉重:呼ぶ必要がないです。
豊田:そうです。発言しない人はもはやいりません。
倉重:あとは、情報を伝達するだけの管理職も不要になりますね。
豊田:いらなくなってしまいます。組織は人がつくっているので、人が変わっていかなければいけないのは大前提です。その上で、自分の価値を出していくことを考えないといけません。
倉重:でも「そんなことを言われても、私なんて豊田さんのようなスターではないので」という人もたくさんいると思います。自分の価値はどうやって築いていったらいいのですか?
豊田:「ストレングスファインダー」は良いでしょうね。企業によっては、一人ひとりにストレングスファインダーをさせて、お互いの強みや弱みを知るというワークしています。
「ジョハリの窓」という理論もあります。「自分が知っている自分」「他人も知っている自分」「自分は知らないけれども他人は分かっている自分」「誰も知らない自分」というものです。そういうふうに情報を開示するのが一つ。
それと、ダイアログです。「本当に自分のしたいことや相手がしたいことは何だろう」ということを掘り下げていきます。昔は「こっちに行くぞ!」という人についていったのが、立ち止まらざるを得ない状況になりました。それをゆっくり考える場ができたととらえて、活用していくのです。
あとは前の本にも書きましたが、マインドフルネスも役に立ちます。マインドフルネスは、物事を客観的に見たり、俯瞰したりするために使うものです。1歩引いて状況を客観的に見るためにマインドフルネスを活用することもアリだと思います。
倉重:私は今まで、自分と対話するためによくサウナで行っていました。「まだサウナに行くのはどうかな」と思っているのですが、今だったらどこへ行ったらいいですか。
豊田:一番手っ取り早いのは、もちろんマインドフルネス瞑想ですよね。研修でも行っている人たちはたくさんいますが、僕自身は、合気道の稽古を週に4~5日しています。今朝も6時半から行きました。マインドフルネスは禅の瞑想もそうですが、「今ここ」に集中する感覚です。過去は関係ありません。未来の不安はあなたが勝手に作り出した妄想でしかないのです。今私たちにあるのは目の前のことだけです。目の前のことに集中するためには瞑想が一番手っ取り早いですね。すごくライトな言い方になってしまいますが。僕は合気道の稽古をするのが「今ここ」に集中する方法です。人によってはウォーキングやマラソンだったりすると思いますが、何でもいいのです。
倉重:自分なりに没頭できる時間があればいいということですね。そういう意味では、仕事のオンオフの仕方を含めて、テレワークなどの環境変化にみんながなじんでいく必要があると思いますが、「メンタルを病んでしまう」という声も結構聞きます。実際孤独を感じたり、短文で用件だけのメッセージが来ると、少し怖いと感じたりする人もいるようです。
結局、いろいろ気にしてしまう人がいるということでもあります。しなやかな受け流し方というか、柳のようなマインドになるためにはどうしたらいいですか。
豊田:やはり対話の重要性がより強く出てくるかもしれません。マインドフルネスをすると、「本当に自分がしたいことは何だろう」「このやり方でいいのかな」「自分たちのチームはどうしたらいいのだろう」ということを考える時間ができます。あとは、「本当はあの人はどうしたいんだろう」「君が本当にしたいことは何だろう」ということをお互いに考えて、思いやりを持つことも大切です。
倉重:管理職は、メンバーへの愛がないと駄目ですね。
豊田:愛はすごく重要なキーワードです。海外の本でも今ラブやコンパッションがすごく求められています。相手をおもんばかることはすごく重要なキーワードになっているので、リーダーはそれを知っておくべきです。
(つづく)
対談協力:豊田圭一(とよだ けいいち)
1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。約17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国で日系企業向けのグローバル人材育成(海外研修)を行なっている。その他、グループ会社を通じて、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営。18年、スペインの大学院 IEで世界最先端と呼ばれる “リーダーシップ” のエグゼクティブ修士号を取得した。最新作「人生を変える単純なスキル」、「ニューノーマル時代の適者生存」、「会社がつぶれても生き残る!アフターコロナ33の仕事術」など著作多数。