船の交通量日本一の明石海峡 春の大混雑で「番人」も大忙し
大阪湾と播磨灘をつなぐ明石海峡は、国内の主要海峡で最多、1日700~800隻の船が通ります。1年を通して最も混みあうのが、イカナゴのシンコ(稚魚)漁が解禁される春先。海の安全を担う海上保安庁・第五管区海上保安部の安全点検に同行しました。
2018年3月2日午前8時前。第五管区海上保安部の石井昌平本部長らを乗せた灯台見回り船「こううん」が神戸を出発しました。こううんは長さ24メートル、総トン数50トンの船で、普段は第五管区内、和歌山から高知までの太平洋側の海域で航路標識の点検などをしています。
目指すは「海の銀座」とも呼ばれる明石海峡です。2月26日にシンコ漁が解禁されたばかりで、早朝から多くの漁船が漁を行っています。シンコは瀬戸内海の春の風物詩。地元では甘辛く炊いた「くぎ煮」や柔らかい「釜揚げ」にして食べます。
明石海峡の航路は、東西にわたって「へ」の字型をした、幅1・5キロ、長さ7キロの海域です。シンコ漁は網を引く2隻の漁船と、獲ったシンコを漁港まで運ぶ運搬船との3隻1組で行い、潮の流れによっては航路内に入って漁をすることもあります。そこをタンカーやコンテナ船、フェリーなどが行きかうため、海峡は大混雑するのです。
この日も夜明けとともに漁が始まりました。前日(3月1日)が大しけで漁ができなかったこともあり、同海上保安部の担当者によると、一時は航路内や周辺の海域に165隻もの漁船が連なっていたそうです。
石井本部長らを乗せたこううんが海峡に近づいた時も、シンコ漁の真っ最中でした。網を引く漁船の間を縫って、シンコを積んだ運搬船が急いで港に戻っていきます。運搬船の前方からは、タンカーが海峡に入ってきました。
大小さまざまな船がさくそうする様子は、まさに「海の銀座」。それぞれの船は無線などで情報を得ながら、巧みに進路を変えて進みます。その情報を提供しているのが、兵庫・淡路島の標高236メートルの山の上に建つ、第五管区海上保安部の大阪湾海上交通センター(兵庫県淡路市)です。巡視船と連携し、山上と海上、両方の視点で交通整理を行っています。
兵庫・淡路島の山上での“海猿”の仕事とは?
石井本部長らは淡路市の淡路交流の翼港で下船し、大阪湾海上交通センターへ向かいました。同センターは1993年の開設以来、25年にわたり、24時間体制で明石海峡の安全に目を光らせています。
3階にある航路管制室を訪れると、それぞれの船の位置などを示したモニターの前に座った職員が、無線で船とやり取りしていました。職員は、センター屋上のレーダー塔や海峡周辺に設置されたテレビカメラ、各船に搭載されたAIS(船舶自動識別装置)などで船の動きをチェックし、船同士が接触、衝突しないように情報提供を行います。
海峡が混みあうこの時期は、センターの職員も気が抜けません。明石海峡は原則右側通行ですが、航路上に漁船が固まっていれば、航路に入ってくる船に漁船を避けて通るよう連絡しなければいけません。このため、巡視船の数を通常の1隻から2隻に増やすほか、センターのホームページで公開している漁船の操業情報の更新間隔を1時間おきから30分おきに短縮するなどの対策を取っています。
石井本部長は「シンコ漁解禁の前には、会合を開いて漁業者や船舶関係者に協力を求め、漁の期間中は海上交通センターからの監視を強化しています。しっかりと対策を講じて明石海峡の安全を確保したい」と話します。海上だけでなく、山上から見た“海猿”の視点も必要なのです。
大阪湾海上交通センターを出て、最後はシンコが水揚げされる岩屋漁港(兵庫県淡路市)を訪れました。漁を終えた漁船が次々と港に戻り、かごいっぱいのシンコが競りにかけられていきます。仲買人たちが真剣な表情でかごに手を入れ、品質を確かめていました。
淡路島岩屋漁業協同組合には、34組のシンコ漁の船が所属しています。同漁協の参事、長野達矢さんによると、今年のシンコの漁獲量は、不漁だった昨年と比べると若干多いそうです。この日は27、8キロが入ったかごに7万円の値が付きました。長野さんは「海保の方々が船を誘導してくれてありがたい。漁業者の生命と安全を守ってくれています」と感謝していました。
シンコ漁の時期は2週間ほどですが、その後は淡路島の名物であるシラス漁が解禁となり、秋まで盛んに漁が行われます。海の「番人」たちの奮闘は続きます。
撮影=筆者