「俺の家の話」の観山家に学ぶ 親に満足してもらう「親孝行温泉」5つのポイント
人気ドラマ「俺の家の話」の第7回放送でも描かれた家族旅行が及ぼす力――。
温泉への行きの車中はみなが仏頂面だったのに、帰りはみな、笑顔で大合唱。
親との温泉旅行「親孝行温泉」の心理的効果は泉質の効能以上の力があると私は信じており、読者にもその温泉力を体感してもらいたく、今回は「親孝行温泉マニュアル編」をお届けする。
観山家がハッピーな家族写真を撮れた「親孝行温泉」を実施するなら
ポイントは5つ。
その1 バリアフリールームがあるという理由だけで予約しない
その2 予約の前のチェック事項は「動線」と「部屋」と「トイレ」
その3 最も重要な確認は、入ることができる「お風呂」があるかどうか
その4 あると安心な備品が用意されている
その5 なによりもの基本
各ポイントに沿って解説。
ポイント1 バリアフリールームがあるという理由だけで予約しない
老いた親と温泉旅館に泊まる時に必要な設備として、「使いやすい部屋」「多機能トイレ」「入りやすいお風呂」が挙げられる。
ただ設備だけではどうにもならないこともある。
身体の状態は人それぞれ。右麻痺のある人にとっては、右側に設置された手すりは邪魔なだけ。ひょっとしたら、バリアフリールームよりも、ベッドが置かれた広い洋室の方が使いやすい場合もある。そういった個別の事情を相談できる宿かどうかがとても大切だ。すなわち完璧なバリアフリー施設はなく、最終的に頼るのは「人」になる。
だからハード(施設)のバリアフリーよりも、「身体が不自由な方にも宿で寛いでほしい」ともてなしてくれるハート(心)のバリアフリーの方がはるかに大事なのだ。また、受け入れてきた経験値が高い旅館であれば、旅先で予期せぬハプニングが起きても相談しやすく、何かと安心だ。
そのためには、「旅館のwebにサイトにバリアフリールームがあると表記されているから」予約するのではなく、予約の際に、電話やメールで旅館とやり取りをしてみよう。自ずとその旅館のスタンスが見えてくるはずだ。
ポイント2 予約の前のチェック事項は「動線」と「部屋」と「トイレ」
バリアフリー対応をしている旅館に連絡をして、「玄関からバリアフリールームまでの動線」「部屋のドア幅」「宿の中に段差や階段はあるか。ある場合はエレベーターやスロープなどの段差解消の術はあるか」「バリアフリールーム内の構造」「トイレ」を確認してみよう。
バリアフリールームはあっても、そこに行くまでに階段や段差があれば、極めて利用しにくくなる。行ってみてがっかりしたり、余計な苦労をしないためにも事前の確認は必須と言えよう。
また、こうした確認に快く対応してくれる旅館は、その情報の大切さを知っているから、受け入れ慣れている旅館である。
さらに、連れて行きたい人の身体の状態を宿に伝えておくとベターである。そうしたお客さんを受け入れ慣れている宿だと、必要になるであろう備品の準備等をしておいてくれるからだ。
ポイント3 最も重要な確認は、入ることができる「お風呂」があるかどうか
ちょっと頑張れば大浴場に入ることができる身体の状態の人は、広くて大きなお風呂に入りたがるものだ。そんな時は、元大浴場を貸し切ることができる山梨県下部温泉「下部ホテル」をすすめたい。山形県のやま温泉「有馬館」は展望露天風呂が貸し切り可能だ。
家族の介助があれば入浴可能になる人ならば、宮城県鎌先温泉「みちのく庵」や福島県土湯温泉「YUMORI」等、バリアフリー対応の部屋に利用しやすいお風呂が付いている宿か、バリアフリー対応の貸切風呂がある三重県榊原温泉「榊原館」や神奈川県箱根湯本温泉「パークス吉野」等を選びたい。
山形県小野川温泉「登府屋旅館」は、身体が不自由な人からのアドバイスをもとに、脱衣所から湯船までスムーズに移動できる、ゆるやかな傾斜の“滑り台風”貸切風呂がある。着脱式手すりの用意もある。
自力で動くことが難しい人は、「リフト付きのお風呂」を選べば入浴しやすくなる。長野県浅間温泉「ホテル玉之湯」、山梨県河口湖温泉「富士レークホテル」がおすすめだ。
家族では入浴のサポートが困難な場合は、プロに「入浴介助」を頼むという手もある。ドラマ「俺の家の話」で話題になったトラベルヘルパーは入浴介助サービスも受け付けている。湯どころの伊豆半島には、「温泉トラベルヘルパー」がいて、いつでも入浴介助をしてくれる。佐賀県嬉野温泉でも入浴介助が受けられる。
ポイント4 あると安心な備品が用意されている
入浴用サポート備品が使えると、より安全な温泉入浴が可能になる。
「シャワーチェアー」「シャワーキャリー」「滑り止めマット」「可動式手すり」「ステップ台」が宿に準備されているかどうかを確認しておくといい。
「俺の家の話」でも、子供たちが父親と一緒に大浴場を歩いているシーンで、「滑り止めマット」を敷いていた。滑りやすい浴場でも歩きやすくする備品を活用すると、安全かつ楽になる。
ポイント5 なによりもの基本
前回の原稿にも記したが、初めて「親孝行温泉」を実行した時は、父の入浴介助をする心づもりで貸切風呂を予約していた。父を連れて行く娘の心情としては、お風呂場で転ばないように私が見守る必要があると思ったからだ。だが、父は「大きなお風呂に入る」と言い張り、ひとりで男性用大浴場に向かった。結果的に、望みが叶ったことで父は大満足だったし、父の自信にもつながった。
ドラマでも、そんなシーンがあったではないか。
観山家が温泉旅行を計画する時に、父の寿三郎が、
「どうせみんなと同じものを食べれない。お風呂にも入れない。病人扱いされるのみんな目に見えてるから行きたくない」
と、だだをこねた時に、長男の寿一がきっぱりと、
「しねえよ病人扱い。風呂も飯も何から何まで親父を好きにさせてやるよ。だから楽しめ」
と答えた、あの印象に残る場面だ。
そう、連れて行きたい人の希望を最大限に叶えてあげることが一番大切で、なによりもの基本なのだ。
現在、観光庁はユニバーサルツーリズム推進に力を入れている。ホテルや旅館のバリアフリー化の補助金を利用して、温泉旅館のハード整備も進んでいる。
3月9日には観光庁主催の「令和2年度ユニバーサルツーリズム促進事業オンラインシンポジウム」がある。僭越ながら、私がモデレーターとして進行役を務める。事前登録は必要ないので、ご都合あえばご参加下さい。
前回、「人気ドラマ『俺の家の話』で描かれた温泉の力 親子の絆を深める『親孝行温泉』とは?」では、私の実体験を通して、温泉がもたらす心理的な効果を綴った。
参照 親孝行温泉動画も多数