「それで飯が食えるのか」金正恩の"思想教育"に北朝鮮国民が反発
北朝鮮では、何かにつけて政治的な内容の「講演会」が行われている。講師を呼んでためになる話を聞く類のものではなく、当局が北朝鮮国民に思想教育を実施する場となっている。最近になって、講演会の開催が増えているが、参加者の反応は極めて悪いと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、今月に入ってから、朝鮮労働党と金正恩総書記の偉大さを強調する住民講演会が毎週火曜日に全国的に開催されていると伝えた。
開催に当たって講演提綱(レジュメ)が配布されるが、今月配布されたもののタイトルはこのようなものだ。
「わが共和国は領導者と人民が一つの思想、意志で、血縁の情で固く団結した国だ」
「全社会に美しく高尚な道徳気風を徹底的に確立することについて」
「国旗と国家を愛し、荘厳に扱うことについて」
いずれも、国営メディア、学校、職場などで、耳にタコができるほど聞かされたようなもので、中身を読まなくともおおよそ見当がつく。それだけあって、参加者はまともに話を聞いていない。
「講演に参加した人々は、党員も一般住民も、会場で居眠りをしたり、雑談をしたりして暇つぶしをする」(情報筋)
2020年1月にコロナ鎖国以降、人々は生活苦にあえいでいる。市場に出て商売をして一銭でも多く稼ぎたいときに、こんなくだらない話を聞かされるのだ。だからといって、参加しなければ政治的に問題がある人物とみなされかねない。それで居眠りや雑談という形でサボタージュするのだ。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
「中央党(朝鮮労働党中央委員会)は、生活が苦しく苦痛を受けている人々への対策を出そうと考えず、無条件で党と指導者への忠誠心を求めても、誰がそんなプロパガンダに耳を傾けるものか」(情報筋)
雰囲気の悪さに気づいた当局は、壇上の講演者が講演提綱を朗読するという従来の方式をやめ、参加者に講演内容を筆記させ、討論させるなどして、講演内容を覚え込ませる方式に変更したとのことだ。
両江道(リャンガンド)の情報筋は、今月9日の共和国創建日(建国記念日)を迎え、毎週のように講演会が開かれていると伝えた。
その内容は、「国の強さは領土の大きさ、人口の多さ、軍事力、経済力で図るものではなく、指導者と人民の団結から生まれる偉大な力にある」だとか、「世界の陸地の6分の1を占めていたソ連もあっという間に崩壊したが、いくら軍事力、経済力があっても、指導者と人民が団結しなければ、ソ連のようになる」といったものだ。
講演者は熱弁を振るったが、参加者の反応は冷淡だった。
「明日食べるものが手に入らないというのに、党と最高指導者に無条件で忠誠を誓えと言われて、誰が素直に受け止めるものか」(情報筋)
北朝鮮の人々が何よりも求めているのは、その「あってどうする」と講演者が言った経済力だ。そのためにまず必要なのは、国境を開き、以前のように貿易ができ、経済活動を行う自由だ。金正恩氏は、国民の経済活動への介入をあまり行わなかったことで、評価を受けていたが、今はその逆を行っている。
北朝鮮は、苦しい状況になればなるほど、締め付けと思想教育を強化するが、それがむしろ世論の離反を招いているのだ。「思想で飯が食えるのか」ということだ。