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コンセプト・ムービーができた 〜 Safe Kids Japanの活動指針

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
コンセプト・ムービーの冒頭部分(筆者撮影)

 事故によるこどものケガを減らすためのコンセプト・ムービーができた。わずか1分の動画だが、内容は濃い。

 Safe Kids 日本語版

 Safe Kids 英語版

 この動画は、われわれの約20年間の活動を凝縮したものだ。このナレーションの裏には、ケガを減らすために膨大なエビデンスを作ってきたという自負がある。しっかりとした土台の上に立って述べているのだ。20年前でも、同じ言葉を使うことができたかもしれない。しかし、その時は「思い」だけで、何一つ裏づけとなる活動はなかった。同じ言葉でも、雲泥の差だ。今回のコンセプト・ムービーは、われわれがやってきた活動の結晶である。仲間がいて、日々取り組んできたからできたものだ。このコンセプトは、永遠に続くと考えている。

Safe Kids Worldwideのコンセプト・ムービー

 2014年にNPO法人としてSafe Kids Japanを設立し、本部であるアメリカのSafe Kids Worldwide(SKW)からいろいろな支援をしてもらった。SKWのコンセプト・ムービーも提供してもらい、それを日本語に翻訳した。その文言は以下のようなものであった。

将来、どんな人になるのだろう。こどもの可能性は無限大で、すばらしいものです。でも、もしも・・将来の夢を奪ってしまうことが日々起きているとしたら・・・

知っていますか? 

日本のこどもの死亡原因第一位は、予防できる事故であるということを。世界では30秒に1人、予防できる事故でこどもが亡くなっています。

大事なことは、事故は「防げる」ということ。予防するためにできることがあるのです。

創造力のある遊び方も、ドキドキの冒険も、たとえ転んでしまっても、将来の夢を奪われることがないように。

力を貸してください。こどもたちが健康に育ち、可能性に挑戦し、夢をかなえるために。Safe Kids Worldwide

 この動画は、以前、東京の渋谷駅前のスクランブル交差点近くの大型ビジョンでも放映されていた。動画の前半では、こどもの事故の実態について述べ、「事故の予防に取り組みましょう」と訴えているが、誰が、どのように取り組んだらいいのかは示されていない。

 今回のわれわれの動画では、こどものケガを減らすために「生活者、企業、行政など、こどもにかかわるすべての人が、それぞれの持つ役割を担うことが必要」と指摘し、生活者は「ケガの経験を企業や行政に伝える」、企業や行政は「その情報をもとに安全な製品づくりやルール作りをする」と具体的に示すことができた。2005年にわれわれが提唱した「安全知識循環型社会」の概念をわかりやすい言葉で示し、具体的なことはすべてそぎ落とし、基本だけを抽出して言葉にしたもので、余分な言葉は一つもない。このように言えるようになるまでに約20年かかった。今回、コンセプトで示した活動を実行、推進するために「こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids」を東京都と連携して新たに構築、このほど公開した。

コンソメスープの作り方

まっとうなコンソメスープを作るには、牛肉7キロ、牛の骨2本、鶏2羽、鶏のガラ20羽分、鶏卵10個、それに人参、玉ねぎ、セロリなどをグツグツ丸一日煮込みます。あれこれ手を加えて出来上がったうわずみが黄金色に輝くコンソメスープ・・・・しかし、これでたったの15人分!(伊丹 十三『フランス料理を私と』より)

 われわれは、こどものケガについていろいろな立場から、さまざまな角度で取り組んできた。コンソメスープと同じように、あらゆる材料を、一つの鍋に入れて調理してきた。転倒・転落、誤飲、窒息、やけど、熱中症、交通事故など、いろいろな素材を鍋に入れて調理した。これら定番の材料の他に、時には、スパイス(虐待)も鍋に入れて検討したこともある。これらすべてを一つの鍋(われわれの研究グループ)で、約20年間にわたって煮込み続けてきた。

 今回、その鍋のスープの上澄みをちょっとすくって、口に入れ、舌で味わってみた。この味は、これまでに煮込んだもののエッセンス(コンセプト・ムービー)ということになる。

 何という味だ!すべての味を含んでいる。おいしい!澄み切っている!コクがある!いい匂いだ!インスタントのスープと、色だけは似ているが、味はまったく異なる。20年の歳月を感じる。まったく飽きがこない。そして基本的な味だ。もっと材料を入れて、もっと煮込み続けようと思う。

 「こどものケガを減らす」というコンセプトとして、これ以上付け加えることは何もないし、削るところもない。当たり前のことを言っているだけだと思われるかもしれないが、20年間の傷害予防活動がしっかりとこのコンセプトを支えてくれているのである。

 今回のコンセプト・ムービーの制作にあたっては、Safe Kids Japan理事の大野 美喜子さんと、同プロジェクト・マネージャーの太田 由紀枝さんが中心になって制作してくれた。この場を借りて厚くお礼を申し上げたい。

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小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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