フェザー級沸騰。井上尚弥との対決を熱望したロペスの夢を一撃で打ち砕いた中国系レオ
年間最高KO候補
米国ニューメキシコ州アルバカーキのティングリー・コロシアムで10日(日本時間11日)ゴングが鳴ったIBF世界フェザー級タイトルマッチは挑戦者アンジェロ・レオ(米)が王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)に10回1分16秒KO勝ち。元WBO世界スーパーバンタム級王者レオは2階級制覇に成功。ロペスは4度目の防衛に失敗した。
3月、3度目の防衛戦で指名挑戦者だった阿部麗也(KG大和)を8回TKO勝ちで一蹴したロペス(30歳)はフェザー級最強の声も上がっていたプレッシャー型ファイター。その“ベナド”(スペイン語で鹿の意味)ロペスはスタートから自信満々パンチを繰り出す。地元アルバカーキの観衆の声援を背に受けるレオはリングをサークルしながら右強打、左右連打で対抗。パンチをもらうとスマイルを浮かべるロペスは右フック、アッパーカットを浴びせて徐々に優位に立つ。
しかし準備周到なレオは中盤、右を返して拮抗した展開に持ち込む。8回、打開を図るロペスのアタックを体を密着させて防いだレオだが、右目尻が青黒く腫れ出す。続く9回、顔面、ボディーに乱打を見舞うロペスにレオの右オーバーハンドがヒット。試合の行方が混とんとしてきた10回、年間最高KO試合にノミネートされそうなフィナーレが待っていた。
衝撃のワンパンチ・フィニッシュ
レフェリーがクリンチを分けて戦闘再開。ロペスの左ジャブに合わせて放ったレオの左フックがロペスのアゴに命中。打たれ強さに定評があるロペスだが、吹き飛ばされるように轟沈。倒れた際に王者は後頭部をキャンバスにバウンドさせて打ちつけ起き上がることができない。そのままカウント中にストップされても不思議ではなかったが、レフェリーのアーニー・シャリフ氏(井上尚弥vs.ノニト・ドネア第1戦を担当)はカウント10まで数え試合の幕が降りた。
唯一の黒星はフルトン戦
リングで介抱を受け、セコンドに付き添われてドレッシングルームへ向かったロペスは家族になぐさめられながら涙を流した。試合前、事あるごとに「ナオヤ・イノウエがフェザー級に上がったら真っ先に俺が相手を務めたい」と息巻いていただけによほど悔しかったのだろう。同時にボクシング、そして一撃の怖さを痛感させられた一戦だった。
フィニッシュブローとなったレオの左フックはKO率から想像できない破壊力があった。「4ヵ月実行したキャンプでずっと練習していたパンチ。ジムだけではなく、自室でも磨きをかけていた。それが10ラウンドに実を結んだ。父(トレーナーのミゲル・レオ氏)が私をプッシュしてくれた。ベナドはビッグパンチャーだからディフェンスの向上を図った」。勝者は胸を張った。
試合が締結した時点のオッズは7.5―1でロペス有利。ゴングが鳴る前には4-1でロペス、レオは3.7倍と接近していたが、結末は番狂わせといっていいだろう。しかもこれ以上ない、インパクト抜群のKOシーンは週末の話題を独占した。
レオに関してはロペス戦が内定した時点で下記の記事で触れた。つけ加えると1994年5月15日アルバカーキ出身の30歳。12年11月プロデビュー。19年12月、WBO傘下のNABO(北米ボクシング機構)スーパーバンタム級王座を獲得しWBOタイトル挑戦のチャンスをつかむ。しかし相手のスティーブン・フルトン(米)が新型コロナウィルス感染症で出場できず、20年8月、代役のトライマン・ウィリアムス(米)との王座決定戦で判定勝ちしベルトを巻いた。しかし翌年1月フルトンに大差の判定負けで初黒星を喫し一度も防衛できないまま王座を手放す。
井上尚弥と対戦を熱望するフェザー級王者ロペスがフルトンに敗れた元王者と防衛戦
半年後、以前ルイス・ネリ(メキシコ)とWBC世界スーパーバンタム級王座を争ったアーロン・アラメダ(メキシコ)に判定勝ちで復帰したが、その後2年5ヵ月に及ぶブランクをつくる。しかし昨年11月、フロリダを拠点にする新プロモーション「ProBox」でリングに上がり3連勝2KOと復調。フェザー級でロペス挑戦のチャンスをモノにした。
祖父が中国人
ニックネームの“チニート”は中国人、中国人の若年者の意味でスペイン語で東洋系の総称でもある。これは父方の祖父が中国からメキシコに移民した人で、その後家族がニューメキシコ州へ移りレオが生まれた。彼の顔立ちがそれを物語る。
レオのセンセーショナルな王座奪取でホットなクラス、フェザー級は一段とヒートアップした印象がする。4団体のうちWBAはニック・ボール(英=20勝11KO1分無敗。27歳)。WBC王者はレイ・バルガス(メキシコ=36勝22KO1敗1分。33歳)。WBOはラファエル・エスピノサ(メキシコ=25勝21KO無敗。30歳)。そして一部でフェザー級最強の声も聞かれるWBC暫定王者ブランドン・フィゲロア(米=25勝19KO1敗1分。27歳)というラインナップ。今回ロペスに代わりレオ(25勝12KO1敗)が加わった。
無名からモンスターのライバルに
次戦に関して聞かれたレオはまず「全部のチャンピオンとの対戦を希望する」と語った。さらにインタビュアーからツッコまれると「エスピノサとの統一戦、ナオヤ・イノウエとのビッグマッチ」と迷わず答えた。
ロペス戦を主催した米国大手プロモーション「トップランク」はスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)の共同プロモーターであり、エスピノサも傘下の一人。試合をリングサイドで観戦した同社会長ボブ・アラム氏はレオのパフォーマンスを絶賛。今後のイベントに起用される可能性が拡がったとみる。
井上という“刺客”を迎え撃つフェザー級の陣容がまたしても充実。井上が進出するまでレオが王者で居続ける保証はないが、モンスターのライバルに新顔が登場した。一方で今月24日に大阪でレラト・ドラミニ(南アフリカ)とIBFフェザー級挑戦者決定戦を行う亀田和毅(TMK)のターゲットにもレオはなりつつある。無名の元王者から一気にブレイクした男から目が離せない。