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【インタビュー】工藤静香 30周年を迎え、強いメッセージを込めた新作発表 「やっぱりロックが好き」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

ソロ30周年に12年ぶりにオリジナルアルバムを出す事にこだわる

1987年8月31日に、シングル「禁断のテレパシー」でソロデビューし、今年で30周年を迎えた工藤静香が、12年ぶりのオリジナルアルバム『凛』を8月30日にリリースし、好調だ。

確かにこれまで節目節目にベスト盤やCDBOXを発売してきたが、このアニバーサリーイヤーを象徴する作品として工藤が選んだのは、2005年の『月影』以来、12年ぶりのオリジナルアルバムである。それは工藤を応援し続けてくれている、ファンへの語りつくせない感謝の気持ちの表れであり、30年間歌い続けてきたシンガーとしてのプライド、自信でもある。そしてこれからも“凛”としてロックを歌い続けていくという決意表明である。松本孝弘(B’z)、玉置浩二、岸谷香他、豪華作家陣が楽曲を提供している事でも話題のこのアルバムについて、工藤にインタビューした

松本孝弘(B'z)、玉置浩二、岸谷香他豪華作家陣が楽曲提供

――まずは30周年の節目に、12年ぶりのオリジナルアルバムをリリースするというのは、いつ頃から決めていたのでしょうか?

工藤 2年位前から、30周年の時には絶対にオリジナルアルバムを出すと、レコード会社の担当者にも宣言して(笑)、決めていました。これまで応援してくれた人たちへの感謝の気持ちを示すためにも、全てゼロから作った曲で構成したかったんです。

――ひと言でいうとロックで、工藤さんの意思表示というか決意表明を汲み取る事ができる、まさに“凛”とした仕上がりになっています。

工藤 (満面の笑みで)やっぱりロックが好きなんですよね。

――ロックといえば「密と棘」は、B’zの松本孝弘さん作曲、作家の伊集院静さんが作詞という、超豪華タッグ実現したオトナロックです。

工藤 このアルバムを作る事になって、最初に松本さんに20年位前に「いつか曲を書いてくださいね」ってお願いをしたのを思い出して、改めてお願いをして、ようやく実現しました。松本さんには、「ガッツリ男っぽいロックをお願いします」とリクエストしました(笑)。詞は最初は自分で書こうと思ったのですが「いや、違うな」と思って。それで、誰も想像できない、えっなんで?ってビックリする人がいいなあと思って(笑)、以前、一緒にお仕事をさせていただいた事がある伊集院さんにお願いしました。

――ロック好きの工藤さんのリクエストに応えるように、全編ギターが唸っているロックナンバーになっています。

工藤 男っぽいハードなロックが好きです。でもサビが覚えやくて、一度聴くと忘れられないと思います。

――親友の岸谷香さんが作詞(木村ウニと共作)・作曲を手がけた「Junk」も、ヘビィなギターが鳴っている切れ味鋭いロックナンバーで、生きづらい社会に向けたシニカルなメッセージを、3分を切る短い時間の中でシャウトするように歌っています。

工藤 香ちゃんが4曲書いてきてくれて、「どれがいい?」って。まずそこにやられました。男気があってカッコいい!(笑)。彼女のそういうところが大好きで、詞も「どんな感じをイメージしてる?」って聞いてくれて、「地に足を着けて生きろ!って感じがいいかな」とお願いしました(笑)。

――それでこの詞が上がってきたんですか?<腹ペコのハイエナ>ですよ。

工藤 (笑)本当にそのひと言だけしか言ってないのに、すごくびっくりしました(笑)。「ちょっとこれやりすぎちゃった?」って香ちゃんが言うので、「全然!もっと言っちゃって!」って(笑)。私はこう思ってる、悪いかー!って歌って帰っちゃう感じが気持ちよかったです(笑)。普段そんな事できないから(笑)。

――工藤さんも聴いている方もスッキリする、言ってみれば幸せソングですね(笑)。ギタリストの澤近立景さんが書いた「どうせなら」も、かっこいいロックです。

工藤 カッコ良さでは際立っていました。詞はサビの<どうせなら抱き締めてよ>の「よ」にやられてしまって。メロディに対して字余りだったり、ちょっと言葉が残る感じがすると思うけど、抱きしめて「よ」って言ったのはすごいなと思って。

「松井五郎さんと玉置浩二さんの作品を、女性が歌ったらどうなるか、自分が聴きたかった」

――工藤さんの作品も数多く手がけている松井五郎さんと、玉置浩二さんのゴールデンコンビが手がけた「ほとり」について聞かせて下さい。

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工藤 これまで松井さんにはたくさん詞を書いていただいていますが、松井さんと玉置さんの曲が歌いたかったんです。いつも玉置さん歌っている曲が、女性の声になった時どうなるか、自分でも聴きたかった。

――言葉数が少なく、さらに<そこへ><ここへ><どこへ>など、行き先が見えない中を、行間を漂うように、そこにあるものを丁寧に拾って歌っている表現力は圧巻でした。

工藤 ありがとうございます。詞も曲も、いい意味で輪郭がハッキリしていないので、さまよって、漂っている感じをすごく出したかった。でも本当に難しかったです。強く押し出したらつまらないし、弱すぎても良さがでないし、そのさじ加減が難しかった。

――最初はジャジーで、最後はビッグバンド風の音になっていて、圧巻のアレンジと歌が堪能できます。

工藤 余韻も、間奏も全部楽しめる素敵な歌だなと思います。ディナーショーで歌うのが楽しみです(笑)。

豪華作家陣とまふまふ、koki,など新しい才能の競演が、作品に新鮮さと豊潤さを生み出している

――今回のアルバムは豪華作家陣と新しい才能の競演が、新鮮さと豊潤さを生み出しています。新進作家koki,さんは3曲手がけていて、“工藤静香ポップス”をしっかり感じさせてくれながら、斬新さを感じさせてくれる、これまで工藤さんが歌ってこなかった、新しいタイプの楽曲を作り上げています。「鋼の森」は、工藤さんが詞を書いていますが、これからの工藤静香の決意表明のような受け取り方もできる曲です。

工藤 ファンの人と、自分にも向けた応援歌のつもりで書きました。何があってもとにかく時は進むじゃないですか。だから動いてももがいてもダメな時はダメだし、もがけばもがくほど、底なし沼に沈んでいくような事を感じた事もあった。でもそこで、沈んで暗くなるのではなくて、必ず先があると思うだけで、物事って違って見えると思う。だから前を向こうという事を、色々な年代に向けて言いたかったんです。自分でもウルウルしながら書きました(笑)。

「今までは頑なに自分の考えを貫いていた。でも若い人の意見は絶対聴くべきだと思うようになった」

――これもkoki,さんの曲ですが「かすみ草」は、ノスタルジーを感じさせてくれるとともに、優しさの中に強さを感じます。

工藤 「かすみ草」というタイトルですが、最初聴いた時は桜の花びらが散るのが見えてしまって。あまりにも和の感じが強くて、特に頭の部分はそれが顕著で、koki,さんに相談してみると、あえてそういう感じにしていると。そして私の声の一番いいところ、高さを考えて作ってくれました。

――それで当初のまま行ったんですね。

工藤 ここ10年位、若い人の意見も絶対に聞くべきだっていうのがすごくあって。それまでは頑なに自分の考えを貫いていましたけど、でもやっぱり若い人の意見ってすごく大事で、取り入れるべきだとすごく思いました。詞も少し若い人の設定で、恋愛のウブな感じを出したかったのですが、でも恋愛に関しては、年齢問わずに誰もがそういうピュアな心を持っているし、だから自分も違和感なく歌えました。

――このコーラスのアイディアもkoki,さんですか?

工藤 そうです。コーラスの部分は英語詞を入れてきて、和っぽさだけではない感じになりました。

「若くて才能がある方の曲を、このタイミングで歌うことに意味がある」

――若い人でいうと、「ニコニコ動画」で活躍する、まふまふさんの「禁忌と月明かり」も異色です。でも工藤さんの世界観と、まふまふさんの世界観が化学反応を起こしていて、質のいいポップスに仕上がっていますね。

工藤 彼も若いのに和の感じが好きで、そこが面白かった。歌詞をくださった時に、そこに込めた想いを丁寧に説明してくれていて、自分の伝えたい言葉、伝えたいことをすごく大事にしている方で、私もしっかり歌わなければと思いました。メロディはポップなんですが、作り方が違うというか、最後の落ちサビの<いかないで>のところに驚かされて。私達の時代だと、気持ちを大きく外に向かって出す部分ですが、まふまふさんは内側に向かって想いを秘めるんです。歌が全く違うものになるので、本当に彼に任せて大正解でした。

――確かに聴き手の想像力をより掻き立てる感じがします。

工藤 私も感動して、この時代はそうなのかと思いながら歌いました。こういう曲を歌う事で30周年で新しいものを発信する意味があると思いました。

――まふまふさんの事を知ったきっかけは娘さんだとお聞きしました。

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工藤 そうなんですよ。車の中でいつも流していて、聴いているうちに、声が面白いし、曲の構成も面白くてびっくりして、それで興味を持ちました。だから娘には感謝しています。

――まふまふさんのグループ「AFTER THE RAIN」の日本武道館ライヴも観に行かれたそうですね。

工藤 行きました!最初はその盛り上がりについていけなくて(笑)、でも途中からお客さんと一緒にむちゃくちゃ盛り上がりました。観ていて思ったのは、テレビに出ないで成功する、今の時代の人はすごいなと思いました。全然時代が違う。私達の時代はテレビに出ないと、誰にも聴いてもらえないような感じで、でも彼はそうではなく色々な事を探し当てて、色々なやり方を考えて、自分でプロデュースして発信しています。すごくエネルギーのある人だなと思いました。

「アルバムの最後はこの言葉で終わりたかった」

――吉田山田の「針」はどこまでもせつないバラードですね。

工藤 詞も曲もとても素敵で、悲しいだけではなく、どこか思いやりがあって、すごく好きです。きっとお二人の思いやりのある優しい人柄が、そのまま曲に出ているのだと思います。

――そして最後は松井五郎さんの詞とkoki,さん作曲の強いバラード「Time after time」で締めくくっています。

工藤 この曲も構成が今までの私の曲にはない感じで、チャレンジでした。この歌をなぜ最後にもってきたかというと、一番最後の歌詞、<深くあたたかいこの希い(ねがい)>という言葉で終わりたかったからです。

応援してくれている全ての人への感謝の気持ちを込め、歌い続けるという強い意志を伝えた一枚

応援してくれる全ての人への、感謝の気持ちを込めたアルバムだ。アルバムを通して聴くと、工藤のライヴを2時間タップリ観た感覚になった。バラエティに富んだ曲と、曲順の塩梅が作り出すメリハリが、勢いとなってその世界に引き込まれる。歌には30年というキャリアから生まれる深さを感じ、若い作家が作る新鮮で斬新な作品も、独特のスパイスを加え、芳醇な歌に仕上げている。

『凛』(8月30日発売/通常盤)
『凛』(8月30日発売/通常盤)

工藤は1stアルバム『ミステリアス』(1988年)について、「17歳の私に、歌手で生きていくと決意させてくれた忘れられない作品」と語っているが、この最新アルバム『凛』を完成させた時、これからも新しい歌を歌い続けていくと決意した――そう思わせてくれる、“進化と挑戦”を強く感じる、“凛”とした佇まいの一枚だ。「とっておきの時は絶対に撮ってもらおうと決めていた」という、写真家・操上和美氏の手によるアーティスト写真とジャケット写真からも、その強い意志が伝わってくる。

※koki,さんの「o」は「o」の上に「-」が正式表記です

工藤静香オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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