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東京大学を地方に移すくらいの本気度が、政府にあるか

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

東京への一極集中に歯止めをかけるために政府は、東京にある大学の地方移転をすすめる方針を明らかにしている。そして、2月にも山本地方創生担当大臣の下に有識者会議を設けるという。東京の大学の地方移転が本格的に議論されるわけだ。

しかし、これは難題である。かつて東京の大学がこぞって郊外に移ったが、ことごとく失敗だった。

たとえば青山学院大学は、神奈川県厚木市にキャンパスを移したが、あまりに交通の便が悪いために人気がガタ落ちとなった。そこで今度は相模原市に移ったものの、やはり人気は回復しなかった。

結局は、移転前の渋谷の青山キャンパスに高層の校舎を建て、2013年に相模原キャンパスから文系学部の7000人の学生を移している。それで、ようやく人気を回復している。

同じように、いったんは移転したにもかかわらず、都心回帰をすすめている大学は少なくない。東京の中心部からキャンパスを移すことが、受験生を減らすという大学にとっての死活問題につながることを痛感したわけだ。

実は、受験生にとって受験校を決めるのに、「東京中心部」という条件は重要な位置を占めている。立地的なステータスもあるし、遊びや買い物にも便利といったことが、若者にとっては魅力なのだ。

大学は学問するところだから遊びや買い物を優先するとはケシカラン、という意見もあるはずだ。それは、当然である。当然なのだが、建前ではそうであっても、遊びや買い物に便利な立地を優先する若者がいることも事実なのである。だから東京都心から郊外にキャンパスを移したとたん、人気が急落するといったことが起こるのだ。

ということで、東京の大学を地方に移転させるという政府の方針は、そうそう簡単に実現するとはおもえない。有識者会議のメンバーも、さぞや頭を抱えることになるにちがいない。

どうしても移転させるというのなら、都心にキャンパスがなくなるくらいでは人気に影響しないくらいの大学を対象にするしかない。そうやって考えると、東京大学(東大)くらいしかないかもしれない。東大なら、都心のキャンパスという魅力にも負けないステイタスがある。

もしも東大が地方に移転して、それで人気が落ちて受験生が減るのなら、受験戦争の緩和になるかもしれない。一極集中の是正というなら、日本の大学のなかでは頂点といわれる東大を地方に移すことこそ意味があるともいえる。

それくらいの覚悟で政府は、東京の大学の地方移転をすすめるのだろうか。それとも、人気ががた落ちになることを心配する大学の抵抗の前に、政府は移転方針そのものを引っ込めざるをえなくなってしまうのだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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