「Z世代」がスターバックスを告発 外国人技能実習生の「人権侵害」に関連して
2021年3月4日、NPO法人POSSEと総合サポートユニオンとは共同で記者会見を開いた。目的は、サプライチェーンで起きた外国人技能実習生への「強制帰国」という深刻な人権侵害について、スターバックス(以下、スタバ)の社会的責任を問うためだ。
記者会見には、スタバのサンドイッチをつくる食品製造会社で働き、2016年に「強制帰国」をさせられた元技能実習生たち(写真右側の画面、オンラインにて参加)とその企業で彼女らの通訳を担当していた労働者(写真中央)が出席した。そして、その周りにはプラカードをもった多くのZ世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)の学生など若者たちの姿があった。
最近では何かと注目されることの多い「Z世代」だが、彼ら世代は人権問題への取り組みでも世界的に台頭している。本記事では、技能実習生とスタバの問題に取り組む若いZ世代に焦点をあて、なぜ彼ら彼女らが、技能実習生への人権侵害に対して社会的に声を上げるに至ったのかを紹介していく。
国際的に批判される外国人技能実習生問題と強制帰国事件
まずは、今回の記者会見で取り上げられた技能実習生問題の全体像を簡単に説明したい。技能実習生の問題はこれまでも数多くの報道がなされ、長時間労働に低賃金、パワハラやセクハラなど「人権侵害」の実態は広く知られている。
国際的にも技能実習生問題は、米国務省の人身売買年次報告書で2007年以降繰り返し批判されてきた上に、国連自由権規約委員会などからも人権侵害であると勧告をされ続けている。また、直近の厚生労働省の調査「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成31年・令和元年)」においても、受け入れ企業の実に7割で違法残業や低賃金などの労働基準関係法違反が明らかになっており、技能実習生は到底人権が守られた環境で働いているとは言えない状況だ。
これまで技能実習生への人権侵害は実習先企業での問題として語られることが多かった。しかし、彼ら彼女らへの人権侵害を単に、実習先企業の問題に限定することは不適切だ。というのも、その背後には、元請企業である大企業の存在があるからだ。
今回の記者会見に出席した元技能実習生や通訳をしている労働者は、日清製粉グループ子会社の「トオカツフーズ株式会社」という会社で働いていた。同社は、スタバのサンドイッチやファミリーマートのおにぎりなどを製造しており、その製造ラインでは、カンボジア人技能実習生だけでなく多様な国籍の外国人労働者たちが働いていた。
今回の問題のはじまりは、2016年春。カンボジア人技能実習生たちが働き始めてたった半年ほどのある日、彼女らが夜勤明けの早朝に寮にいたところ、監理団体や送り出し機関の職員が押しかけてきた。あまりに突然のことだったため、下着もつけていない女性の技能実習生もいるような状況だったという。職員は彼女らのパスポートと在留カードを取り上げ、帰国するように命じた。そして、両腕をとられて強制的に車に押し込められ、そのまま、成田空港へと「連行」されたのだ。
当然のことながら、監理団体や送り出し機関の職員に技能実習生本人の意思に反して、強制的に車へ押し込み空港へ「連行」する法的な権限などない。これは明らかな違法行為である。
当時、このような「強制帰国」が、確認できているだけでも、山北、鶴見、川口、足利の四つの工場で実行され、8名が「強制帰国」させられた。このうち7名が、総合サポートユニオンに加入しオンラインで監理団体や受け入れ企業と団体交渉を行なっており、記者会見にも出席した。なお、この問題の概要は以下の記事に詳しく記載している。
参考:外国人・実習生に対する「強制帰国」の実態 暴力行為や拉致も横行
国際標準となるサプライチェーンでの人権侵害に対する元請企業の社会的責任
この事実の発覚後も監理団体やトオカツフーズは不誠実な対応を続け、ますます問題は大きくなっていった。まず、監理団体である「全国中小事業協同組合」は、2020年10月20日のユニオンとの交渉の場で、技能実習生本人の意に反してパスポートや在留カードを取り上げ、帰国させたことを一旦認めていた。しかし、その後弁護士が交渉へ入り「本人らも同意していた」などと手のひらを返し始めているという。強制帰国当時の動画や音声といった証拠があるにも関わらずだ。
また、 技能実習生たちを受け入れていた企業のトオカツフーズは責任逃れを続けている。トオカツフーズは技能実習生たちの語学能力を理由に「実習を中止したいという意向」は監理団体へ伝えたが、強制帰国へは直接関与していないので責任がないと主張している。強制帰国という異常な行為が社員寮や工場など自社の敷地内で当時自社の労働者であった技能実習生に対して行われたにもかかわらず、助けに行くなどの対応もせず、現在に至っても問題解決へ臨む姿勢は見られない。
このように労働問題を引き起こした企業や関係団体が不誠実な対応をすることは国際的にも珍しくはない。海外では、そのような場合、人権侵害をおこなった企業の「取引先」に対しても、社会的責任が追及されることが常識化している。 大手企業の下請け企業では労働問題が発生しやすく、問題が追及されてもまともに対応しないことが世界的にも問題視されているのである。
2011年には国連人権理事会で企業活動におけるSDGsの重要な指標として、「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、「ビジネスと人権原則」)が採択されている。この原則では、企業に対して、直接雇用する労働者の人権だけでなく、取引先企業の労働者の人権にもコミットするように求めている。上記のように監理団体や受け入れ企業の不誠実な対応が続いているが現状では、取引先であるスターバックスに対してサプライチェーンでの人権侵害への社会的責任を果たすようユニオンが求めることは、世界標準的な行動だといえる。
ところが、2020年11月初旬に総合サポートユニオンが、当事者とともに事実説明や人権侵害について社会的責任を果たして関与してほしいと依頼する連絡をしても、CSRやSDGsを声高に謳っているスタバからは一切回答がなかったという。これでは国際的に見て、SDGsに反する「遅れた企業」とみなされてもしかたがないだろう。実際に海外では、有名アパレル企業が下請け企業で起きた問題に対して謝罪や補償を行なっている。
なお、当然のことながら、海外でも下請け企業の問題にはじめから元請け企業がその責任を果たそうとしたのではない。「ビジネスと人権原則」を根拠に、グローバル大企業に対して、下請け企業の問題に関する社会的責任を果たすように社会運動が要求した結果である。詳細は以下の記事に記載している。
参考:外国人実習生の「人権侵害」 スターバックスやファミマの社会的責任とは?
Z世代の若者が組織する社会アクション!
今回の記者会見を主催したNPO法人POSSEと総合サポートユニオンは、海外の社会運動同様に、「ビジネスと人権原則」を根拠に、スタバに対して下請け企業の工場で起きた「強制帰国」の問題に対して「社会的責任」を果たすよう求めている。
その一歩として行われた記者会見は、さっそく「成果」をあげ始めた。昨年11月以降全く返事のなかったスタバの本社から連絡があり、3月9日にスタバと話し合いをする機会を得ることができたのだ。
スタバからこのような機会を引き出すことができたのは、一連の「スタバアクション」のキャンペーンの結果である。そして、このキャンペーンの中心を担ったのは、NPO法人POSSEの「Z世代」と呼ばれる学生をはじめとしたボランティアの若者たちであった。
ここからは、「Z世代」のボランティアたちが組織した具体的なキャンペーンの内容を紹介していこう。
まずは、冒頭で触れた記者会見である。この記者会見が画期的だったのは、「強制帰国」させられた元技能実習生たちがオンラインで参加したことだ。これまでの「強制帰国」の問題は、空港に連れていかれる際に何とか逃げ出すことができた元技能実習生が声をあげることで明らかになってきた。
その一方で、逃げ出すことができず「強制帰国」させられた場合は、日本企業へ声を上げることは困難で、泣き寝入りするしかなかった。しかし、今回は、インターネットを活用し「強制帰国」させられた元技能実習生たちをボランティアが支援することで、彼女らの権利行使を可能にし、日本の学生と外国人労働者たちがグローバルに連帯しスタバアクションのキャンペーンを開始できたのだ。
次に、ボランティアたちは、3月7日にPOSSEオンラインアカデミーというイベントを開催した。テーマは「技能実習生への人権侵害に「加担する」SDGs企業-労働運動が変えるサプライチェーン」である。多くのZ世代の学生が参加し、スタバなどの大企業のサプライチェーンの問題として技能実習生問題を捉える重要性を共有した。参加した高校生や大学生の中には、「本当にひどい、企業に社会的責任を取ってほしい」という声もあり、イベント後にボランティアに応募した参加者もいた。
そして、ついに昨日の3月9日に、ボランティアたちは、スタバ本社へ申し入れにいくことができ、カンボジアからオンラインでつないだ元技能実習生たちとともにスタバに対してサプライチェーンでの人権侵害について社会的責任を果たしてほしいと求めた。
一方的な対応を続けるスタバ
しかし、その結果はボランティアたちが納得いくものではなかった。というのも、当事者が当時の強制帰国等の状況を涙ながらに話しても、スタバの担当者は、今回の件を重要な問題と認識し独自調査をしていることを認める一方、終始「現在調査中」であると繰り返すばかりで具体的な対応に関する回答はなかった。
調査の具体的な状況を問うても、「調査方針・内容は開示できない」、「調査結果も回答できない」という結果としてボランティアの側は何も把握できないという回答であった。昨年11月のユニオン側の連絡を約4ヶ月も無視していた理由については、「独自調査をスタートしたから」という一方的な回答だった。
話し合いの最後には、そもそも国際的に人権侵害と批判され続け、法令違反も多発している外国人技能実習生を働かせている企業と取引をしていること自体がSDGs企業として問題なのではないかとスタバに対して見解を問うた。
しかし、スタバは技能実習制度に対する評価について回答を拒否するとともに、取引先が技能実習生を働かせるか否かについてスタバとして介入するつもりはないという回答をした。以上のような対応では、SDGsを謳っている企業として「看板に偽りがある」と批判されても仕方ないのではないか。
このようなスタバの不誠実な回答に対して、Z世代のボランティアたちは「#スタバアクション0314」という世論に訴えかける行動を計画している。具体的には3月14日(日)の15時から、以下のような形でプラカードをスターバックスの店舗前で掲げて短時間で写真を撮影し、それをSNS上へアップし拡散するという社会キャンペーンを行うという。また同日15時から17時までTwitterデモも開催する予定だ。
具体的な参加方法については、以下のブログ記事を参照してほしい。
参考:「スタバアクション0314の参加方法と注意点について」
Z世代のボランティアの実像
まだまだ課題は多いとはいえ、以上のような前進を続けている社会キャンペーンを組織したZ世代のボランティアとはどのような若者たちなのだろうか。ここでは、2名のボランティアを紹介したい。
まずは、Aさんだ。
彼女は1996年神奈川県生まれの現役大学生。父が日本人で母がフィリピン人のダブルである。彼女が社会問題、特に格差・貧困に興味をもったきっかけは、小学校低学年の時に訪れたフィリピンで見た光景だった。フィリピンでの移動はすべて車で、信号が赤になり、車が停まると「お金ちょうだい」と物乞いをする子どもたちが群がった。中には、当時の彼女よりも年下の子どももいたという。
「私は車の中でフィリピンの子どもたちは外で物乞い。なんとも言えない気持ちになりました」と彼女は話す。車の窓越しに見たその光景は、今でも強く印象に残っているという。
この時の経験をきっかけに、社会問題に関心を抱いた彼女は、格差・貧困問題を学ぶために大学では社会学部に進学した。大学では、授業だけでなく、ホームレスの食料支援の現場にも足を運んだ。その後、彼女は、海外の大学で社会学を学ぶためにメキシコ留学を決断する。メキシコでも、孤児院やホームレス支援のボランティアに参加した。
また、貧困解決には雇用創出が重要だと思い、日系企業にインターンしたこともあった。様々なボランティア活動やインターンなどを積極的にやってみたが、どれも格差・貧困の解決に本当に繋がるのか漠然とした違和感があり、「やっていてモヤモヤしていた」という。
帰国後、彼女はPOSSEの学生ボランティアとして外国人の労働相談活動を始めた。中でも印象的だったのが、技能実習生の人権侵害と闘う同世代のボランティアの姿だったという。実習先の企業や監理団体の前で、「差別を許さない」、「人権侵害をやめろ」という、「おかしいことに、はっきりとNOを突きつける」姿に感銘を受け、専門家でもない、同世代の若者たちが中心にやっているのを見て、「私にもできるんじゃないか。私もやりたい」と思うようになったという。
また、POSSEの学習会で格差・貧困だけでなくレイシズムや性差別など様々な問題を学ぶ中で、以前に参加していた支援活動やインターンの現場で感じた「モヤモヤ」がクリアになっていった。そして、抑圧され差別されている人たちの権利行使を支え、企業や行政に対して当事者と共に権利主張をする重要性を認識していったという。
「以前は対話で問題解決できると思ってました。しかし、対話だけでは不十分だった。企業に責任を負わせるには社会的なアクションが必要です」。
Aさんは、この時期をきっかけに社会運動への関わり方が変わっていった。それまでは、社会運動を「見たり」「参加する」立場であったが、運動やキャンペーンを「組織する」ようになった。今回のスタバアクションの記者会見で、語気を強めながら彼女は次のように述べた。
「技能実習生をはじめとする外国人労働者は、わたしたち若い世代にとってすごく身近な存在です。同じ社会の一員として、当たり前にいる存在です。彼らが人権侵害にあっている事実に怒りを覚えますしおかしいと思います。声をあげて社会に発信して変えていこうと思っています」。
次に紹介したいのが、Bさんだ。
彼女は1996年東京で生れの社会人ボランティアだ。都内で育った彼女の近所には外国人の家族も多くいた。その子どもたちと仲良くなりたいと思い英語の勉強を小学校から習い始めた。
そして、彼女の人生にとって大きな転換点となったのが、高校を卒業後、進学したカナダの大学で受けたジェンダー論の授業だった。初回のテーマは、カナダでどのように同性婚を勝ち取ってきたのか。他の回では、難民の権利や先住民の権利を求めて闘う社会運動などが紹介された。一連の講義の中で、声をあげ闘うことを通じて社会が変わるという話がたくさんでてきたことに衝撃を受けた。ちなみに、この講義を担当していた先生自身も、同性婚やポルノ規制などの社会運動に関わるアクティヴィストだった。
また、講義の中だけでなく、キャンパス内での学生による運動も活発だった。特に印象的だったのが、2018年に新学長が就任した時のエピソードとのことだ。実は、その新学長は以前に執筆した本の中で黒人差別を助長する記述を行なっていた。それを問題視した学生たちは就任パーティーに押しかけ反人種差別のアクションを行なった。
大学での講義やキャンパス内の運動に感銘を受け、ついに、彼女自ら運動を組織することになった。彼女が組織したのは留学生の学費が増額されるという大学の予算案に対しての反対行動である。まずは大学構内やオンラインでの署名活動を行なった。署名提出後、大学からの返事が無内容だったため、学長室を一週間占拠し、廃案と代替案を要求をした。
結果的には予算案は通過してしまったが、大学内での留学生へのサポートが増え、州の留学生が自分たちで声をあげてもいいんだと思える環境の土台を作ることができた。また声をあげたい留学生同士が交流する機会にもなって、これ以降の活動にも繋がったという。カナダでも留学生や外国人労働者が声を上げるリスクはある。でも共に闘ってくれる市民権や永住権のある人たちが周りに多くいて、このような行動ができたとのことだ。
彼女はカナダでの経験を経て、日本社会を変えるために日本でも社会運動に関わりたいと思っていた。大学を卒業して昨年日本に一時帰国した際、新聞で「年越し大人食堂」の記事を見てボランティアとして参加した。その時、POSSEと出会いボランティアを始めた。
POSSEで技能実習生と大企業の問題を学んでいく中で、スタバアクションをやるべきだと思ったという。そして、インタビューの最後に次のように語った。
ボランティアに参加し社会を変える
これまで見てきたように、今回のスタバアクションを組織してきたのはZ世代の若者たちであった。親が外国人であったり家の近所に外国人がいたりと、Z世代の若者たちにとって、外国人という存在は身近なのだろう。そして、外国人への不当な扱いや差別と闘うことに、「当事者」かどうかや「専門家」であるかどうかはまったく関係ない。
私たちは、この社会に住む外国人たちと連帯し人権を主張していかなければならない。2名のボランティアが示してくれたように学生や若者であってもやれることはたくさんある。
NPO法人POSSEや総合サポートユニオンでは、様々な労働者からの電話・メール相談を受け付けている。学生や若者のボランティアが、通訳や翻訳、相談活動、会社との交渉や宣伝行動を担っている。そして、今回のような社会的なキャンペーンもボランティア自身でアイデアを出し検討して進めている。
人権問題に興味のある方は、ぜひ社会キャンペーンなど具体的な差別改善の取り組みへ参加してほしい。
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