北朝鮮で「禁煙法」が採択された。

4日、万寿台議事堂で行われた「最高人民会議常任委員会全員会議」での決定を5日の朝鮮中央通信が報道。すぐに韓国各メディアが報じた。同法は31の項目から成り立ち、以下の場所での喫煙が禁止されるという。

「朝鮮民主主義人民共和国　禁煙法」

・劇場、映画館など公共の場所での喫煙

・保育機関

・教育機関

・医療保険施設

・林業関連などの奉仕施設

・公共輸送機関

これに背くと処罰される内容だ。

北朝鮮はもともと高い喫煙率で知られる。WHOが発表した各国の関連データによると、2014年末に52.4％、2014年末には男性の喫煙率が43.9％と発表された。

今年6月の「KBSラジオ」では、韓国の北朝鮮専門メディアの記者が出演し、こう話した。

「20歳以上の男性の実際の喫煙率は80％と言われています。韓国統一部が発表する『北朝鮮の動向』2004年5月版にも似たデータが出ています。北朝鮮国内では、ホテルや飲食店、カフェはもちろん公共交通機関でまで喫煙は自然に行われているという評価が一般的です。こういった主張を後押しするのは、テレビのドラマや映画、新聞などでも特に処理がされず、喫煙場面が出ている点です」

筆者自身20年ほど前にソウルに留学した経験があるが、その際にこんなことを言われたことがある。

「男同士、煙草を一本勧められたなら断るもんじゃない」

ああ、朝鮮半島の文化では”プカプカ吸いながらコミュニケーション”というのが重要なのだな、と感じたものだ。酒を注ぎ合うという文化は知っていたが、煙草にも近いものがあったのだ。

では、今回北朝鮮がなぜこういった処置を取ったのか？　

決して突如行われたものではない。2005年に「禁煙統制法」を施行し、2018年4月にも金正恩委員長が国民に禁煙を呼びかけるなどの流れがあった。

「聯合ニュース」は「05年の法より1ランク厳しい引き締め」と報じた。これがあまり守られていなかったというところか。「朝鮮日報」は、北韓大学院大学のヤン・ムジン教授のコメントを紹介した。

「人民の健康権と生活権の保障のために統制を強化すること。そして禁煙は一般的な国家がすでに経てきた過程だが、正常な国家を志向する北朝鮮も法的、制度的な点を直そうとしているということ」

ニュースを報じた韓国メディアが大きく注目した点がある。

”では金正恩氏はどうなる？”

かなりの愛煙家、ヘビースモーカーとして知られる。

2020年にも「5月の”20日ぶりの登場時”」や「8月の台風被害地の視察」で堂々と喫煙する姿がメディアを通じて報じられている。

また米朝交渉の場でも”最高指導者の喫煙”のエピソードが報じられたことがある。今年9月20日の「YTN」は「金正恩に”煙草に健康に良くない”直言するや固まった金与正」というニュースを報じた。

米国のウォーターゲート事件などをスクープしたウッドワード記者が新刊で明らかにした米政府関係者のエピソードだ。

2018年、19年に行われた米朝首脳会談の事前調整のために平壌を訪れたエンドール・キム米国中央情報局センター長（当時）。

平壌での会議中に煙草を吸い始めた金正恩委員長に一言、告げた。

「煙草は健康に良くないですよ」

するとその場が…凍りついてしまったのだという。親しみを込めたつもりの言葉が、スベってしまったのだ。同席した金与正氏やキム・ヨンチョル労働党副院長は麻痺したように動きが止まったのだという。ドン引きという状態だ。

書籍には「神格化された最高指導者に助言や勧告は禁物だった」と記されている。

その場を収めたのは、金委員長の李雪主夫人だった。

「合っています。私も喫煙の危険について主人に言ってきました」

ウッドワードはこのエピソードについて「誰が金正恩に影響力を持っているのかが分かった」としている。

喫煙法 決めてはみたが 誰が言う？

今後、北朝鮮メディアを通じて報じられる「喫煙する金正恩委員長」の姿は見られなくなるだろうか。