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今週末の香港競馬、日本馬2頭を襲ったアクシデントと現地馬の情報、鍵を握る馬とは?!

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
昨年はネオリアリズムが優勝のクィーンエリザベス二世盃。今年も日本馬2頭が挑戦する

 日本では天皇賞(春)が行われる今週末、香港では3つの国際レースが施行される。

 日本馬も3頭が挑戦するこの開催、メインのクィーンエリザベス2世盃(以下QE2)は日本でも馬券が売られる。そこで今回はこのレースの出走馬について、簡単に紹介していこう。皆様の馬券の参考になれば幸いである。

日本馬2頭にふりかかったアクシデント

 今年のQE2には2頭の日本馬が出走する。アルアイン(牡4歳、栗東・池江泰寿厩舎)とダンビュライト(牡4歳、栗東・音無秀孝厩舎)だ。

 前者は皐月賞(G1)優勝、後者はアメリカJCC(G2)勝ちがある。昨年の当レースは日本でG1勝利のないネオリアリズムが優勝しており、そういうモノサシで計れば今年の2頭もチャンスは充分あるだろう。

 アルアインをアクシデントが襲ったのは追い切り予定だった26日の朝。現地の報道陣がすぐ様ツイッターにあげるなどしたので既に日本のファンの皆様にも伝わっていると思うが、馬場入り後、調教を拒否したのだ。

 「普段、集団で調教しているので寂しがってしまったようです」と池江。

 しかしそこは世界各国で経験を積んできた三冠トレーナーである。アルアインを厩舎から1番遠い位置まで連れて行くとそこから厩舎方向へ2本、芝コースを逆回りするようにキャンターを行った。

 「馬が厩舎へ帰りたがって調教を拒否しているように見えたので、その帰巣本能を利用して、なんとか追い切ることが出来ました。逆回りを許可してくれた香港ジョッキークラブのお陰もあって、結果的には予定していた通りの負荷をかけることができました」

 指揮官は安堵の表情でそう語った。

芝コースを逆走する形で追い切りしたアルアイン。調教拒否には驚かされたが「なんとか無事に負荷をかけることは出来た」と池江師も安堵した。
芝コースを逆走する形で追い切りしたアルアイン。調教拒否には驚かされたが「なんとか無事に負荷をかけることは出来た」と池江師も安堵した。

 一方、ダンビュライトは別の形のアクシデントに見舞われた。

 レースで騎乗を予定しているトミー・ベリーが火曜日、地元馬のバリアトライアル(実戦式ゲート練習)で落馬。翌日の水曜日の開催では騎乗を予定していた馬がすべて乗り替わりになった。さらにダンビュライトに乗る予定をしていた木曜朝の調教もキャンセル。レースに乗れるとしても正真正銘の初騎乗となることが決まったのだ。

 しかし、同馬の調教をつける小林慎一郎調教助手に動揺する様子はない。

 「少し気の乗り過ぎる点があるのでそこが心配でしたけど、思った以上に落ち着いています。むしろ落ち着き過ぎているくらいです」

 2頭は金曜の朝に揃ってパドックをスクーリング。その後、ゲートボーイを隣の枠に立たせる形でゲート練習も決行。共にリラックスした様子でこれをこなしていた。

予定していたトミー・ベリー騎手の騎乗はレースまで持ち越しになったものの、小林慎一郎調教助手を背に無事、最終追い切りに臨めたダンビュライト。
予定していたトミー・ベリー騎手の騎乗はレースまで持ち越しになったものの、小林慎一郎調教助手を背に無事、最終追い切りに臨めたダンビュライト。

地元香港勢の有力馬は……

 さて、日本馬を迎え撃つ地元勢はどんな塩梅か。

 まず有力と思われるのがタイムワープとピンハイスター。

 前者は昨年の香港カップを優勝。当時はネオリアリズムや英愛チャンピオンS2着でその後ドバイシーマクラシックでも2着に好走するポエッツワードらを完封する内容。前走はマイル戦で終始突かれたため最後は無理をしない格好で大きく敗れた。それでもこの距離に戻れば巻き返しておかしくないだろう。枠は外よりの7番となったが、そもそも8頭立てだからそう心配する必要はないだろう。自分の流れに持ち込めれば早目先頭から粘り込む可能性がありそうだ。

 一方のピンハイスターは今年の香港ダービーの勝ち馬。R・ムーアが乗ったそのレースでは道中14頭の最後方を追走。最終コーナーでもまだ後方にいたが、そこから馬群を割ると最後は突き抜けて快勝。ラストの半マイルを2ハロンごとに示すラップは23秒67-22秒71と速く、決して追い込み向きの流れではなかっただけに、更に速い上がりの脚で差し切った瞬発力はここに入っても充分に通用すると思わせる。初めての2000メートルだったがむしろこういう距離の方が合っていたのかもしれない。今回は日本でもお馴染みのJ・モレイラ騎手に乗り替わる。同騎手は「(管理する)サイズ調教師が『前よりずっと良くなっている』と言っていたので非常に楽しみです」と笑顔で語った。

昨年暮れの香港カップではネオリアリズムらを一蹴して優勝したタイムワープ。
昨年暮れの香港カップではネオリアリズムらを一蹴して優勝したタイムワープ。

もう1頭、カギを握りそうな“あの馬”は……

 さて、もう1頭、地元香港馬でレースの鍵を握りそうな馬がいる。

 パキスタンスターだ。

 昨年のQE2では早目先頭から粘り込みをはかるネオリアリズムをクビ差まで追い詰めた。結果、2着に負けはしたものの、G1級の能力を示してみせた。

 しかし、その次に走ったG3戦では単勝1・2倍という圧倒的1番人気にも関わらずなんとスタート後、向こう正面で走ることを拒否。ブービーから1秒近く放され、1800メートルを2分47秒台でなんとかゴールにたどり着いた。

 これにより調教再審査となった同馬は長期の休養を余儀なくされ、戦列に復帰したのは今年2月。しかし、前走の向こう正面ではまたしても鞍上が押しているのにブービーから1秒放されてしまう。それでも最後は勝ち馬と差のない4着まで追い上げたのだからやはり能力があるのは疑いようがない。今回はオーストラリアの名手ケリン・マカヴォイを迎えた同馬が果たしてどの位置でどのような競馬をするのか。ケースによっては他の馬の走りにも影響を与えかねない馬だけに、カギを握る1頭と言って良いだろう。

バリアトライアルでは先行する走りをみせたパキスタンスター。果たしてレースでもちゃんと走ってくれるのか。能力があるだけに悩ましい。写真は昨年のQE2へ向けた調教時。
バリアトライアルでは先行する走りをみせたパキスタンスター。果たしてレースでもちゃんと走ってくれるのか。能力があるだけに悩ましい。写真は昨年のQE2へ向けた調教時。

 さて、QE2の有力出走馬はこんなところだろうか。少しでも皆様の馬券の参考になることを祈っております。

金曜日の朝に揃ってパドックのスクーリングをしたダンビュライト(前)とアルアイン。中央、白い帽子で見つめているのがアルアインの池江調教師。
金曜日の朝に揃ってパドックのスクーリングをしたダンビュライト(前)とアルアイン。中央、白い帽子で見つめているのがアルアインの池江調教師。

(文中敬称略、写真提供=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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