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モータースポーツを趣味に。個人で4輪レースは続けられるか。20年ロードスターで挑む茂木さんのケース

高根英幸自動車ジャーナリスト
レースに参戦する茂木さんのマツダ・ロードスター。写真meiju0919

ゴルフや釣り、マリンスポーツにウインタースポーツ、アウトドア系の趣味にも色々あるが、モータースポーツもそうした趣味の一つと言っていい。やや特殊なのは、どんなアウトドア系の趣味でも大抵はクルマでの移動なので、クルマを運転する(同乗者であったりもするが)ことになるが、モータースポーツは運転そのものを楽しむところだ。

クルマの運転は、免許さえ取得すれば誰でもできる。それどころかレーシングカートなど子供でも楽しめるモータースポーツも存在する。

人と競うこと、自分の限界に挑戦する人でクルマやオートバイの運転が好きなら、機材スポーツの中でも、大きな力を発生するモータースポーツは魅力的な趣味だ。

ただし公道走行できないレーシングマシンを維持してレースに参戦するには、相当な費用が必要だ。車両価格やメンテナンス費用だけでなく、搬送のための車両の確保や保管場所など、普通のクルマでは必要ないコストもかかってくる。

そのため最近はナンバー付きの車両でも出場できるレースが増えている。茂木文明さんも、そんなナンバー付き車両でモータースポーツを楽しむ一人だ。仕事はフリーランスのITエンジニア。

コロナ禍の前から自宅を事務所としてリモートワークでクライアントからの仕事をこなしてきた。そして休日はガレージでレースを戦うマシンであるマツダ・ロードスターを整備して、次の戦いに備えるのだ。

重整備やホイールアライメント調整などはサポートを依頼している整備工場に任せるが、セッティングや日常的なメンテナンスは自分で行なっている。それもまた楽しみの一つだ。筆者撮影
重整備やホイールアライメント調整などはサポートを依頼している整備工場に任せるが、セッティングや日常的なメンテナンスは自分で行なっている。それもまた楽しみの一つだ。筆者撮影

二輪のレースで大怪我を負い、引退して四輪へ転向

茂木さんがサーキットに通い始めたのは、まだ学生の頃のことだ。オートバイの免許を取って、仲間とサーキットに通い、スポーツ走行を楽しむようになる。

そしてレースに出場。当時は予選通過すら難しいほどレース人口が過熱していた頃で、茂木さんは並みいるライバルを退け上位入賞を繰り返し、上級クラスへとステップアップを果たす。全日本クラスへの昇格を決めたのだった。

競争率の高い当時では、それはかなり凄いことだ。しかし茂木さんは全日本選手権へとステップアップしたことで、逆に自分の限界を感じてしまったのだとか。

「やっぱり全日本のトップ勢って凄いんですよ。全然敵わないなっていうのを実感しちゃったんです」。

練習走行や予選ではランキング上位の選手と一緒に走ることになる。そこでレベルの差を痛感させられた茂木さんは、攻めすぎて転倒し足を骨折する大怪我を負ってしまう。

今から30年ほど前のことだ。怪我を治療する間の冷静な時間に、二輪レースからの引退を決意した。しかし怪我が治ったら、サーキットでマシンを攻める楽しみへの欲求がまた沸き起こり、今度は4輪で走り始めるのである。

「最初はマツダのサバンナRX-7。二代目のFC3Sでサーキットを走り始めて、レース形式の走行会に出始めました。その頃ライバルだったクルマがスカイラインGT-R。R32のGT-RをFCでやっつけることに生きがいを感じてましたね、当時は」。

そうしている間に4輪でも仲間ができる。すると仲間の一人が面白い提案を持ち込んできたそうだ。

「ある時、友達がヤフオクで、初代ロードスターのNA6を5万円で手に入れたんです。これでちょっとみんなで遊ぼうよっていう話になって、当時は福島のエビスサーキットで色んな耐久レースが開催されたんですよ」。

自宅ガレージで今までのレース人生を語ってくれた茂木さん。筆者撮影
自宅ガレージで今までのレース人生を語ってくれた茂木さん。筆者撮影

「それに出始めたら、ロードスターって面白いんだと思わされたんです。しばらくそのNA6のロードスターを仲間内で車いじりして、自分らでどんどん改造して、800kg切るぐらいまで軽量化してました。そのうち耐久レースだけじゃなく、スプリントレースにも出てみようかということになって、ロードスターのパーティレースに参加するようになったんです」。

それが20年前くらいの話だ。それ以来、茂木さんはロードスターでのレースにハマり続けている。

「でもパーティレースってノーマルのロードスターからほとんどイジれなくて、走るだけが楽しみだったので「もうちょっとコンペティションなレースに出たいよね」となって、富士チャンピオンレースにスイッチしたんです」。

それから15年余り、茂木さんは富士チャンピオンレースで戦い続けている。これまでに3度、年間チャンピオンに輝いており、最近では一昨年獲得しているから、まだまだ速さは衰えていない。

写真中央の#7が茂木さんのロードスター。8年間、速さを求めて戦う相棒だ。写真meiju0919
写真中央の#7が茂木さんのロードスター。8年間、速さを求めて戦う相棒だ。写真meiju0919

開幕戦は予選、決勝とも4位という結果に

今年4月、茂木さんが参戦している富士チャンピオンレースの開幕戦がやってきた。茂木さんが挑んでいるのは、ロードスターのワンメイクレース。その中のNDロードスターで一定の改造が認められたオープンクラスだ。

エンジン排気量の大きいNCロードスターなどと混走なので、決勝スタートのグリッドは前から4列目。それでも予選はクラス4位ながら、茂木さんは全然納得していない。タイムアタック時にストレートでピットインするクルマに前を横切られ、タイムが出せなかったと憤る。

決勝スタート前、グリッドにマシンを止める。誘導しているのは茂木さんの奥様。かつては奥様もサーキットで攻めた走りをしていたとか。マシンやドライバーの気持ちが理解できる心強いパートナーだ。筆者撮影
決勝スタート前、グリッドにマシンを止める。誘導しているのは茂木さんの奥様。かつては奥様もサーキットで攻めた走りをしていたとか。マシンやドライバーの気持ちが理解できる心強いパートナーだ。筆者撮影

決勝レースでは一度前のライバルを抜いたものの、後半にタイヤが終わってしまったこともあり、3位とは0.4秒差の4位でフィニッシュ。ベストタイムでは3位に入っているだけに惜しい。

「ラップタイムって絶対的な結果じゃないですか。そういう実力がはっきり出るところがレースの魅力だと思いますね」。

そうだったのか。茂木さんにとっては1000分の1秒で示されるラップタイムこそ、達成感を感じられる結果だった。だからこそ、より速くを求めて挑み続けているのである。

ゴルフとかモーターボート、高級時計などお金のかかる趣味はほかにもある。茂木さんの場合は、それがモータースポーツだっただけなのだ。

茂木さんの自宅ガレージはビルトインガレージとしては広め。これはオーダーして広げてもらったもの。ここでマシンを保管するだけでなく、レースに備えてメンテナンスも楽しむのだ。筆者撮影
茂木さんの自宅ガレージはビルトインガレージとしては広め。これはオーダーして広げてもらったもの。ここでマシンを保管するだけでなく、レースに備えてメンテナンスも楽しむのだ。筆者撮影

「ロードスターカップやパーティレースは、4輪のレースでも費用負担の少ない方です。クラッシュやエンジンブローなどのアクシデントがあれば費用は嵩みますが、普通にレースに参戦するだけならサラリーマンの一般的な給料の範囲内でやっていける範囲だとは思います。実はスキーやダイビングなども好きなんですが、レースに出るための資金確保にそういった他の趣味はずいぶん楽しんでいないですね」。

茂木さんはプライベーターでありながら、チャンピオンを獲得している実力者のため、いくつかスポンサーも獲得している。と言っても金銭的な支援はなく、オイルやパーツなどの現物支給だが、「それでも大分助かっています」と語る。

エアロパーツメーカーのガレージ・ベリーとは、もう15年来の付き合いになるそうだ。

「最初にNAロードスターでマシンを製作する際には「ガレージ・ベリーのエアロを装着しないと富士では勝てない」って評判だったんですよ」。そこで当然のごとくバンパースポイラーを装着。

そこから好成績を収めると、富士スピードウェイで走行することでエアロパーツの効果を試す開発役も任されるようになった。

レースの応援に来たガレージ・ベリーの中根社長と茂木さん。新作のバンパースポイラーの感触について熱心に話し合う姿も見られた。筆者撮影
レースの応援に来たガレージ・ベリーの中根社長と茂木さん。新作のバンパースポイラーの感触について熱心に話し合う姿も見られた。筆者撮影

今回は新作のフロントバンパーを装着してレースに挑んだ。このバンパーの空力性能の高さについては先日、風洞試験も行なって確認している(記事はこちら)。

週に2回はジムに通い体を鍛えるのも、レースのための準備だと言う。挑戦し続ける姿勢に筆者は共感を覚えた。年齢を重ねても熱中できる、そんな趣味をもちたいものだ。

「第2戦の戦いぶりとこれからの夢」続編はこちら

自動車ジャーナリスト

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。芝浦工業大学機械工学部卒。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、様々なクルマの試乗、レース参戦を経験。現在は自動車情報サイトEFFECT(https://www.effectcars.com)を主宰するほか、ベストカー、クラシックミニマガジンのほか、ベストカーWeb、ITmediaビジネスオンラインなどに寄稿中。最新著作は「きちんと知りたい!電気自動車用パワーユニットの必須知識」。

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