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アイドルグループから声優への転身は成功しているか?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『ラブライブ!』シリーズ抜擢の元乃木坂46・佐々木琴子(公式Twitterより)

元乃木坂46で声優に転じた佐々木琴子が、『ラブライブ!』シリーズの新プロジェクトのキャストに抜擢された。アイドルグループのブームが起きてから10数年、セカンドキャリアとして声優を目指した元メンバーは少なくないが、その後の活動は成功しているか?

キャストに歌やダンスも求められる潮流の中で

 アイドルから声優への転身といえば、ベテラン勢では『タッチ』で浅倉南を演じた日髙のり子が知られている。子役から松田聖子と同じ1980年にアイドル歌手としてデビューしたが伸び悩み、1984年に声優デビュー。翌年に演技経験が少ないまま、浅倉南役にオーディションで選ばれた。

 以後も『となりのトトロ』のサツキや『らんま1/2』の天道あかねなど数々の作品でメインキャストを務め、還暦を迎えた現在に至るまで一線で活躍を続けている。

 1990年代半ばの声優ブームの頃からは、元レモンエンジェルの櫻井智(『マクロス7』ミレーヌほか)、セイントフォーの後期メンバーだった岩男潤子(『カードキャプターさくら』大道寺知世ほか)、テクノアイドルの先駆けの個性派・宍戸留美(『ご近所物語』幸田実果子ほか)、元オーロラ5人娘の千葉千恵巳(『おジャ魔女どれみ』春風どれみほか)らが、声優として成功を収めた。

 2000年代半ばからは、『アイドルマスター』や『ラブライブ!』シリーズなどアイドルを題材にしたゲームやアニメが増えていく。演じる声優たち自身がライブほかアイドル活動を行うことが、ひとつの潮流に。声優オーディションの課題にダンスや歌が組み込まれることも、珍しくなくなった。

 そうなると一見、実際にこうした活動をしてきた元アイドルたちが、声優界でより活躍できる状況が生まれているようにも思えた。

AKB48から「非選抜アイドル」が挑戦

 2010年代に国民的アイドルグループとなったAKB48から、いち早く声優に転身したのは仲谷明香だ。柏木由紀や渡辺麻友と同期の3期生。前田敦子の中学時代の同級生でもある。選抜入りは一度もないが、その中で自身のあり方を模索して、2012年に発行した著書『非選抜アイドル』が話題を呼んだ。

 同書でも触れられていたが、もともと声優志望。通っていた養成所を家庭の事情でやめて、代わりの足掛かりとしてAKB48に加入したことを明かしている。グループ在籍中から声優活動に挑み、2013年にプロダクション所属者不可のアニメ声優オーディションを受けるため、AKB48を卒業した。

 その後はU局などで放送された5分アニメ『不思議なソメラちゃん』で主人公の野乃元ソメラ、水島努監督の『荒野のコトブキ飛行隊』でパイロットの1人のケイトなどを演じている。

 近年は目立った活動が見られないが、最近のツイッターで「仕事してないけど大丈夫?な状況は、心身諸々の事情で自ら望んでですので、ご心配なさらず」と述べていた。

歌手役のキャラソンやライブで実力を発揮

 AKB48では、第1回選抜総選挙で神7に次ぐ8位に入った佐藤亜美菜も、声優に転向している。劇場公演で地道に活動して、ファンの支持を得た4期生。在籍中にアニメ『AKB0048』のグループ内オーディションで仲谷らと共にメインキャラクターの1人に選ばれたりする中で、声優への意欲が高まったという。

 2013年末にAKB48を卒業した後は、小杉十郎太や茶風林らベテランから花澤香菜、能登麻美子らが所属する業界大手の大沢事務所へ。すぐにゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』で小学生キャラクターの橘ありす役が決まった。

 初のTVアニメレギュラーとなった『トリアージX』では主要キャラの1人の梨田織葉役。中学生アイドルで秘密組織では爆発物処理をする役だった。声優業界を舞台にした『ガーリッシュナンバー』では、現役女子高生の新人声優でCDデビューもする桜ヶ丘七海を演じている。こうした作品ではキャラクターソングやライブで、声優として幅を広げたパフォーマンス力を披露していた。

 一方、当時の取材では「AKB48時代の自分はすっかりどこかにいなくなって、アイドル役でもリンクは全然しません」とも話していた。2019年に一般男性との入籍を発表している。

SKE48を卒業してから声優養成所に

 SKE48を卒業して声優になったのが秦佐和子。2009年に3期生として加入した時点で21歳のお姉さんメンバー。シャイで謙虚な振る舞いで人気を呼んでいた。彼女も元から声優志望で、SKE48に入る前に養成所に通っている。『AKB0048』で声優選抜の9人にも入った。

 24歳になり2013年に、仲谷の後を追うように声優を目指して卒業。まずは事務所でなく声優養成所に入学して、改めて演技を学び直した。

 近未来のアイドルを描く『VENUS PROJECT -CLIMAX-』で児童施設出身で大食いの原エリコ役で初主演。『バトルスピリッツ ダブルドライブ』で悪を封印した一族の末裔のエト・エトシンモリ8世、『このはな綺譚』では温泉旅館で主人公の新人仲居が憧れる先輩の皐といったメインキャストも務めている。

 多くのガールズバンドが登場する『BanG Dream!』シリーズでは、Pastel*Palettesのキーボードでハーフの若宮イヴ役。ベテラン声優・小野坂昌也との『小野坂・秦の8年つづくラジオ』(ラジオ関西)も2017年から続いている。

マウスプロモーションHPより
マウスプロモーションHPより

NGT48の事件から新たな夢へ

 48グループから近年では、暴行事件の被害者となった山口真帆らと共にNGT48を2019年に卒業した長谷川玲奈が、声優として活動している。卒業後に新興の声優事務所・クロコダイルに所属。アニメ番組のレポーターなどを務めながら、演技の勉強を始めた。

 2021年に『恋と呼ぶには気持ち悪い』で主人公の女子高生の親友で、彼女に片思いするサラリーマンの妹という天草理緒役。昨年は戦国武将の生まれ変わりがプロデュースするアイドルのバトルを描く『IDOL舞SHOW』の劇場版で、X-UCのメンバーの掛川こころを演じた。

ハロプロから『アイマス』で東京ドームに

 ハロー!プロジェクトからは、北原沙弥香が研修生のハロプロエッグを卒業して声優の道を歩んだ。エッグ時代にモーニング娘。の久住小春が主人公・月島きらりを演じたアニメ『きらりん☆レボリューション』に出演。きらりらとユニット・MilkyWayを組む雪野のえる役で、この3人組で主題歌CDもリリースしている。

 2011年にエッグを卒業後は、人気サッカーアニメ『イナズマイレブンGO』シリーズで、ヒロインでマネージャーの空野葵を3期に渡り演じた。女子が支配する学園が舞台の『武装少女マキャヴェリズム』では、フランス育ちで西洋剣術の使い手・亀鶴城メアリ役。

 2019年からは『アイドルマスター シャイニーカラーズ』で黒ギャル系のアイドル、和泉愛依を演じている。先日、東京ドームで行われた初の『アイマス』5ブランド合同ライブにも出演した。

賢プロダクションHPより
賢プロダクションHPより

アイドリング!!!出身者も外画やゲームで

 フジテレビ発のアイドルグループでAKB48の対抗馬的な存在だったアイドリング!!!からは、長野せりなが声優を目指している。

 朝日奈央、菊地亜美らと同じ2期生。2016年にグループを卒業後、森川智之が設立したアクセルワンの養成所に入所して、1年の課程を修了。事務所を移り、現在は井上喜久子のオフィスアネモネに所属。『アニメ ボス・ベイビー シーズン2』など外国作品の吹替えに参加している。

 同じく2期生で、在籍中に『侍戦隊シンケンジャー』のヒロインとして松坂桃李らと共演した森田涼花は、卒業して8年を経た2020年から声優活動に乗り出した。事務所もホリプロから、大谷育江、加隈亜衣らが所属する老舗のマウスプロモーションへ。

 ゲーム『キズナファンタジア ~海辺の国の大聖典~』でヒロインのラヴィン、『けものフレンズ3』のケツァールなど演じているが、まだ声優の仕事はあまりないようだ。

元から“アイドル級”がひしめく中での競争

 こうして見ると、アイドル戦国時代以降のグループから、トップ声優にまで至った例はまだ出ていない。アイドル時代のアドバンテージもあってか、いくつか大きい役は得ても、継続していくのはなかなか難しいようだ。

 ただ、これは別にアイドル出身の声優に限ったことではない。日髙のり子らの時代と比べたら声優志望者はケタ違いに増えて、競争は激しい。活動の広がりと共に、ヴィジュアルを含めてアイドルにもなれる人材が、最初から声優界に入ってきてもいる。そうした新人が次から次へと現れる中で生き残るのは、並大抵のことではない。

 加えて、アイドル系のアニメやゲームが増えた中でも、やはりアイドルと声優は近いようで別もの。ファン層はほぼ重ならない。声優の世界に溶け込むには、むしろアイドル時代のイメージの払拭が必要なこともある。もちろん基本的には声の仕事は職人芸で、アイドルにない演技スキルも必要とされる。

乃木坂46卒業から3年で『ラブライブ!』シリーズに

 そんな中で、『ラブライブ!』の新プロジェクトとなる「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」のメンバーとなったのが、元乃木坂46の佐々木琴子だ。

 2013年に2期生オーディションに合格。選抜入りはなかったが7年活動して、2020年に卒業。そのまま、声優に興味を持ったきっかけのアニメ『マギ』に主演していた石原夏織や小倉唯、伊藤美来らが所属のスタイルキューブに入所した。

 研修を修了し、昨年4月から正式に所属。そして、「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」のメンバーの1人、夕霧綴理を演じることが発表された。デビューミニアルバムを3月29日に発売する。

 「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」は、石川県金沢市から奥まった場所の創立100年を超える高校が舞台。夕霧綴理は2年生で、いつもぼーっとしているがステージでは卓越したパフォーマンスを見せて、天才と呼ばれる役どころ。近づき難い存在と思われているものの、実は寂しがり屋なところがあるという。元乃木坂46の看板に頼らず、2年の研修を経て本格的な声優活動の始動として注目される。

ニジマスのセンターはアニソンからソロデビュー

 昨年解散した26時のマスカレイドのセンターで、週刊ヤングジャンプ「制コレ18」のグランプリにもなっている来栖りんは、ラストライブから程なく、事務所のプラチナムプロダクションも退所。SNSで声優を目指すことを宣言した。

 5月24日にアニソン系レーベルのランティスから、アニメ『神無き世界のカミサマ活動』のオープニングテーマ『I wish』でメジャーデビューすることを発表。

 声優活動はこれからのようだが、新たなファンを付けるには佐々木琴子のように間を置き、実力を磨いてイメージを一新してからのほうがいいのかもしれない。かわいい声質はアニメに向きそうで期待される。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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