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「いじめ対応を教員の最優先業務」は問題の学校への丸投げにすぎない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

文部科学省が10月27日に公表した全国の小中高校と特別支援学校が2015年度に認知したいじめは22万4540件で、過去最高になった。文科省も触れているが、この結果は学校が積極的にいじめをみつけた結果である。これまで、気づかなかったり、見てみぬふりを決め込んだケースがあったということだ。

その結果が公表する3日前の24日、いじめを防ぐ対策を議論してきた文科省の有識者会議は、教職員の業務のなかで「自殺予防、いじめへの対応を最優先の事項に位置づける」などとする提言案をまとめている。積極的に教職員がいじめ発見に努めて過去最高の件数を認知できたのだから、教職員が対応を最優先すれば、自殺やいじめはなくなる、という理屈だ。

正論ではあるが、どこか釈然としないところがある。教職員の業務で最優先しなければならないことが、自殺予防やいじめ対応なのか、ということだ。

教職員が自殺予防やいじめ対応にあたるのは当然なことは、わかる。しかし、最優先と位置づけてしまっていいものだろうか。

教職員としての業務には、子どもたちを健全に育てる義務がある。そのなかには、子どもたちの知的成長、精神的成長、肉体的成長を支援していくことなどがふくまれている。そのなかには、自殺予防やいじめ対応もあるはずだ。

それらのどれも、疎かにできない教員の業務である。にもかかわらず、自殺予防やいじめ対応を「最優先」と位置づけてしまうことは、「その他は疎かにしてよい」ということにならないだろうか。それでいいわけがない。

自殺予防やいじめ対策に学校が積極的に取り組むことは大事なことである。といって、他の業務を疎かにしていいはずはない。

有識者会議の「最優先に位置づける」という提案は、結局は、自殺予防やいじめ対策を学校に丸投げしているにすぎない。教職員が最優先に取り組めば自殺やいじめは減るはずだ、といっているにすぎない。

学力低下が問題になれば、教職員の業務として子どもの学力向上を最優先に位置づける、といっているのと同じである。給食費未納が問題になれば、教職員の業務として給食費を支払わせることを最優先とする、といっているのと同じだ。学校に丸投げすれば、自分たちの役割は終わった、といわんばかりである。

それでは提言者としての義務を果たしたことにならないし、問題を解決することにもつながらない。学校への丸投げではなく、もっと現実的に対応可能な、効果のみこまれる策を提言してもらいたい。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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