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新型コロナ軽症者対策、受け入れに「アパホテル」が適する5つの理由

瀧澤信秋ホテル評論家
アパホテルならではのスピード感が印象的だ(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスにホテルといえば、休館、廃業といったネガティブなニュースに支配されていたが、別のアプローチから話題を提供してくれたのがアパホテルだ。病床の不足が深刻化、待ったなしの状況下において重症者の医療に重点を置く方針が示された。同時に、入院治療の必要がない軽症者は自宅療養という選択肢も掲げられたが、自宅内での二次感染等を心配する声も。そこで白羽の矢が立ったのが“ホテル”だ。政府は軽症感染者らの受け入れをアパホテルへ要請、ホテル側は全面的に受け入れる意向を伝えた。

都心で圧倒的な展開をみせるアパホテル(著者撮影)
都心で圧倒的な展開をみせるアパホテル(著者撮影)

そもそもインバウンドの激減に外出自粛要請とホテルにとっては泣きっ面に蜂という情勢で稼働は低調。あまりの低稼働率に休館も余儀なくされるといった施設も増えている。そのような中で軽症者受け入れについてのホテル募集といった動きが、東京や大阪の自治体レベルで既に始まっている。基本的に一棟借り上げという条件で感染症対策という点で当然といえるが、広がるホテル活用の動きに重篤者の病床を確保し医療崩壊を防ぐという点はもちろん、需給マッチングという側面からもこのような動きに業界でも注目が集まる。

アパホテルの要請受け入れ後に、楽天の三木谷氏が自身で保有するホテルの無償提供を大阪府へ申し出たことが大きなニュースとなり、アパホテル有償/三木谷氏無償という差異についてSNS上などでその是非が飛び交っている。ホテル業界の反応も含めこれらについては追って別稿へ譲る予定であるが、吉村大阪府知事は、自身のツイッターで「運営マニュアルに基づき一定の宿泊業務をお願いするのと、感染急拡大に備えて多く施設を確保する為にも、有償一棟借上です。お気持ちに感謝です。」と発信している(太字筆者)。

アパホテルについてはこれまでもいくつか情報を発信してきたが、今回の件も含めてとにかく話題性のあるホテルブランドだ。

ところで今回の対策において、ホテルの特長・特色という点に絞って見た場合に、アパホテルが適している理由がいくつか指摘できる。尚、以下については部分部分でアパホテルをはじめとした宿泊特化型ホテルで共通している特徴が多く、今後、いわゆるビジネスホテルチェーンの施設が注目されることが思料される。

大画面テレビもアパホテルの特色(著者撮影)
大画面テレビもアパホテルの特色(著者撮影)

1 都心に圧巻の展開

アパホテルは出店スピードの速さでも知られる。特に東京都心では近年アパホテル建設ラッシュの様相を呈していた。他の宿泊特化型ホテルでは出店できないような条件地でもアパホテルが開業したという光景はよく目にしたが、感染者数が激増している東京都心において、アパホテルであれば立地や客室数、個別空調システム(感染症対策という点からも全館空調はNG)など様々な条件に見合った施設の提供が期待できる。

2 圧倒的な供給客室数

アパホテルを利用したことがある人の感想で、客室の狭さについて触れられているのをよく見かける。確かに9平方m~11平方mが中心帯で、宿泊特化型ホテルチェーン全体として見た場合にその平均からすると限定的なボリュウムといえる。逆に言うと同じ規模のホテルでも供給客室数はより多く、今回の件においても諸条件に見合う店舗において“よりたくさんの個室が提供可能”と推察できる。また、これは他の宿泊特化型ホテルも同様であるが、客室のパターンが均一なので実際の施設運用に際しても様々な面で効率性が高くなることがいえる。

3 巨大ホテルグループの強み

都市部を中心として全国各地へ展開するホテルブランドということで、共通した運営マニュアルや研修、配置なども含め、今回のような非常時の運営においても情報伝達の一元化や情報共有、店舗間クオリティの均一化などチェーンホテルならではネットワークが生かされるシーンもあるだろう。宿泊特化型チェーンで全国展開しているブランドでも同様のことがいえる。

4 スピード感

ホテル一般でよく見られるように、宿泊特化型ホテルチェーンでもホテルそのものの所有はせず、ホテルの土地・建物を所有者から借りて運営するブランドは多い。一方で、アパホテルは自社で保有する直営施設も多い。様々な意味でスピード感のあるホテル経営・運営が期待できる。また、元谷代表のカリスマ性は広く知られるところであるが、直営施設の多さとあいまって意思決定から実現までのスピード感を想起させる。日々刻々と変化する情勢にあってかような特色のホテルブランドとのマッチングを感じる。

5 ポイントを押さえた客室

アパホテルの客室面積が他のチェーンと比較すると狭めであることを先述したが、いまとなっては多くの宿泊特化型ホテルチェーンで見られる大型テレビ、デュベスタイルのベッドメイクを他に先駆けて導入したのがアパホテルだ。いずれも客室に奥行き感を出す効果があると筆者は分析しているが、特にベッドのマットレスは“クラウドフィット”というオリジナルで、他のチェーンではないような快適性の高さにファンも多い。終局的にホテルの客室は眠る場所である。快眠クオリティ=ホテルステイの快適度といえる。

クラウドフィットの分厚いマットレス(著者撮影)
クラウドフィットの分厚いマットレス(著者撮影)

以上、アパホテルをはじめとした宿泊特化型ホテルにもいえるポイントを含めてまとめてみた。緊急事態だけにそこまで吟味されたとは考えにくいし、吟味以前にホテルの客室が供給されることそのものが貴い事実といえる。これまでも何かと話題を提供してきたブランドだが、過去に例のない今回のニュースに関して言えば、現場スタッフのケアも含めアパホテルの非常時運営が今後の有益な先例になりうることを期待したい。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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