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日本最大級“2,311室”の「アパ」が横浜に誕生 意図的に狭くする客室? ホテル数字のマジックとは

瀧澤信秋ホテル評論家
(出典:【公式】アパホテル)

2019年9月20日「アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉」が横浜みなとみらいエリアに開業した。アパホテルといえば、多くの人々に認知されているホテルブランド。話題性の高さも特徴で、メディア露出も多い帽子がトレードマークの元谷芙美子社長を思い浮かべる方も多いだろう。開業したホテルの概要は既に様々なメディアで報じられているが、2311といった数字が注目される開業ということで、ここではホテルにまつわる数字のマジックについて考察したい。

客室数“2311”

今回の開業では、日本最大級の「2,311室」という数字がニュースを賑わしている。業界では客室数ベースの統計もひとつの指標とされるが、確かに2311という数字は衝撃的だ。一方、これだけ多くの客室を設けることができたのには客室面積にも秘密がある。今回一般的なシングルルームやダブルルームは共に11平方m。これまでのアパホテルと同クラスであり、ビジネスホテルブランドの中では狭い部類だ。

ベッド2台が入るツインルームでも14平方mであり、例えば、同カテゴリーといえるビジネスホテルブランドの「ドーミーイン」では、ベッド1台が入ったセミダブルルームの標準的客室面積が14平方mである。このように、アパホテルはかねてより客室面積が限定的なホテルとしても知られているが、客室面積が狭ければ同じ箱でもトータルの客室数は当然増える。客室数は規模を表すひとつの指標ではあるものの、ホテルそのものの規模(サイズ)をリアルに示す数字とはいえない。

とはいえ、横浜ベイタワーのホテル館内には最大600名収容の大宴会場をはじめ、大浴殿・露天風呂、屋外温水プール、フィットネス、エステ、和洋様々な4つのレストラン、カフェ、コンビニ、お土産ショップを有し、宿泊のみにとどまらず多様なサービスを提供する。また、敷地内に50mの滝を配した1,957平方mのイベント大広場も設けており、これまでのアパホテルにはなかった、相当な規模の施設が誕生したことになる。

アパホテルの客室が狭いことについては、収益性はもちろんであろうがゲスト一人あたりの環境負荷等も鑑みて、意図的に客室を狭くする戦略であることはよく知られている。“狭くても高品質”をテーマとし、例えばベッドはクラウドフィットというオリジナル開発のベッドを採用。大型テレビも特徴的であるし、限定的な客室面積ゆえ必然的に枕元へスイッチやコンセントなどコンパクトにまとめられることになり、機能性にも秀でていることを謳う。

客室面積と客室数の関係について述へたが、かねがねアパホテルが掲げる数値目標が10万室だ。2020年までにグループホテル全体での実現を目指す。これは、アパホテルネットワーク全体での数値ということに留意したい。現在542ホテル90,333室 (建築・設計中、海外、FC、パートナーホテルを含む)といい、さらに大型開業を控えるアパホテルとして実現可能性は高いといえる。こうしてみると、やはり客室数という数字のインパクトは強いと改めて感じる。

目標稼働率“95%”

客室面積の小さな数字に対して、稼働率の目標は95%(元谷外志雄代表)と強気だ。元幕張プリンスホテルの(シングルルーム/セミダブルルームで17.8平方mある)「アパホテル 東京ベイ幕張」(千葉市美浜区、2,007室)は、稼働率が平均90%台と高水準で推移しているといい、今回の目標設定を後押ししている。ところで、客室稼働率という数字はホテルの人気や実力をあらわす一見わかりやすい指標のようにも思えるが、これは冷静に見る必要がある。

ホテル業界一般の話で恐縮だが、客室稼働率は、販売可能客室数の何割が販売できたのかわかる数字で、販売客室数÷販売可能客室数で計算する。“販売可能な客室”が対象となり“何らかの原因で販売できない客室”は対象とならない(対象にしなくてもいい)。また、一般的に料金を下げれば稼働率は高くなる傾向にあるので、安売りをしているのか否かということまでは考慮されない。

そこで、販売された平均客室単価を求める必要がある。業界では「ADR (エー・ディー・アール:Average Daily Rate)」と呼ばれ、客室売上÷販売客室数で求められる(例:売上が300万円で販売客室数が200室のケースの場合 3,000,000円÷200室=ADRは15,000円/1部屋当たり15,000円で販売したということになる)。ホテルの成績を示す数字として稼働率よりもよく取り上げられる。

また、販売可能客室一室あたりの収益を示す「RevPAR (レヴパー:Revenue Per Available Room)」もよく用いられるワード。これはADR×稼働率で算出できる。一見、客室稼働率はわかりやすい数値であるが、いかに高く買ってもらえるのかもホテルの実力といえる。運営側としては稼働率も客室単価も高ければ申し分ないだろうが、それぞれのバランスが重要ということだ。

ところで、アパホテルの料金は変動が大きいという声がある。ホテルに限らず、繁閑で料金が変動するケースはよくみられるが、業界では“レベニュー・マネジメント”といわれる。ホテルのように在庫の繰り越しができないビジネスにおいて、需要を予測して売上高の最大化を目ざした販売管理方法である。変動幅が大きいということは、需給により大幅に変わることにもなる。都市部のアパホテルは非常に印象的で、需要が高い土曜日に2万円だった客室が利用者の少ない翌日曜日に4,000円といったケースもよくみられる。

アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉の開業を、ホテルにまつわる数字という点から考察してみた。ホテルに限らず数字には不思議な説得力があるといえるだろう。一方で、実際の利用者の声にはリアリティもある。1,500万人を超えたという“累積”会員数であるが、好んでアパホテルをセレクトする人、絶対泊まらないという人・・・他ブランドと比較してここまではっきり好みが分かれるブランドは珍しい。他にも会員プログラムやオリジナル商品、新築とリブランド施設のクオリティ差などアパホテルを取り巻く話題は多いが、次の機会に触れられればと思う。いずれにせよ、これだけの客室提供は人手不足に喘ぐホテル業界からしても驚愕のニュースだ。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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