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「自分は大丈夫!」台風で危険な楽観バイアス

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
大型台風接近(写真:ロイター/アフロ)

台風19号が10月12日夕方、東海地方から関東地方に上陸することが予想されています。かつて大きな被害を出した狩野川台風に匹敵するとして気象庁は早めの避難などを呼びかけ警戒を強めています。都内では養生テープや食料品を買い出しして準備する方も多くこれは先の台風15号の被害の記憶が鮮明だから、と言えそうです。ただ中には自分は大丈夫、と思い込んで避難勧告が出ても避難しなかったり、対策をとらない人がいるのも事実です。

こわいのは「楽観バイアス」

自然災害の際、警戒や対処をおろそかにしてしまう心理があります。この心理が避難を遅らせたりして人命にかかわることがあるので是非知っていただきたいと思います。それは「楽観バイアス」という心理です。台風が来ても,「これまで大丈夫だったから」「自分は子どものころ台風が多い地方に住んでいるから慣れている」「うちは丈夫なつくりだから大丈夫」「何とかなるものだ」と思い、呼びかけられても避難しなかったり、窓ガラスの補強やベランダの荷物の取り込みなど必要と思われる対処をしないというものです。「自分は災害にはあわない」と根拠がないのに思い込んでいるのです。

なぜこうした「楽観バイアス」が生じるかというとそれは不安から逃れるため、といえるでしょう。自分は大丈夫、と思わなければ不安でたまらなくなるものです。大丈夫、と思い込むことで不安を減らして生きていけるというわけです。実際かつてアメリカで竜巻の被害にあった住民を調査したところ被害にあった経験があるにもかかわらず、再び危険が迫っているような状況が起こっても「自分は大丈夫」と思って避難しない人もいたということです。

不安を乗り切るには根拠ない楽観バイアスは役立つかもしれません。ただ人命を守るという点から見ると非常に危険といえます。「これまで大丈夫」という考え方が危険であることは、最近の自然災害が「これまで」の常識を超え「想定外」となることがしばしばだということを思いおこしていただければお分かりになるでしょう。準備や対策はいくらしてもしすぎということはないと思います。

自然災害の対処に必要な3つの要素

自然災害は大きなストレス要因です。それを乗り切るために必要な3つのポイントは

  • 楽観バイアスの禁止
  • 情報共有
  • 周囲との連携

といえます。

すこしオーバーかな、と思うくらいの対処をかき出してそれをひとつずつクリアーしていくことで不安は軽減します。その際周りの人と連絡を取り合ったり情報を周りの方と共有するなどすることでさらに不安は軽減するはずです。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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