立ち退くのか、踏みとどまるのか、朝鮮総連本部の行方
朝鮮総連中央本部の土地と建物が最高裁の決定により四国の不動産投資会社「マルナカHD」に売却された。それにしても随分と時間がかかったものだ。
二回目の入札で落札したものの書類不備で失格とされたモンゴル企業が今年1月29日に異議申し立てをした時は1か月もしない2月29日には東京高裁は抗告を棄却している。
また、朝鮮総連が3月24日に東京高裁に不服を申し立てた際には高裁は2か月も掛けず、5月12日には朝鮮総連の抗告を棄却している。今回、朝鮮総連が最高裁に特別抗告したのが5月16日。最高裁決定には半年近くも要したことになる。それだけ重要な案件だったということなのかもしれない。
朝鮮総連は3回目の入札を行わず、安い値で売却されたことを不服とし、執行抗告したが、競売に掛けた整理回収機構(RCC)が異議申し立てに同意しない限り、裁定がひっくり返す可能性はゼロに近かった。敗訴した朝鮮総連はこのまますんなり立ち退くのだろうか?
最高裁の決定に朝鮮総連は11月7日現在、不気味にも一言もコメントしてない。朝鮮総連本部を「大使館」とみなしている北朝鮮からの反応もない。かつて「朝鮮総連への弾圧を決して傍観しない。当該部門で必要な措置を講じる」と猛反発していた北朝鮮が音なしの構えとはどう考えても不自然だ。そのうち何からの反応があるだろう。
朝鮮総連本部の問題は5月末にストックホルムで行われた日朝協議で話し合われ、日朝協議の結果、「在日朝鮮人の地位に関する問題については,日朝平壌宣言に則って,誠実に協議することとした」という一文が合意文に盛り込まれた。北朝鮮は朝鮮総連本部の問題は「在日朝鮮人の地位」に属すると解釈している。「在日朝鮮人の地位」イコール「朝鮮総連」という論法だ。
管義偉官房長官は「朝鮮総連の問題では合意してない」と言っている。確かに合意文には「朝鮮総連」という4文字はどこにもない。しかし、ストックホルム交渉後、宋大使は「我々は(売却問題が)解決できなければ、朝日関係を発展させる必要がないと思っている」と息巻いていた。また、昨年5月に訪朝した飯島勲内閣参与も「日朝協議も拉致問題も、朝鮮総連本部競売問題が解決しなければ絶対に進展しない」と断言していた。
日本政府は今年日朝協議がスタートした時点から公式の場でも非公式の場でも朝鮮総連本部の競売は司法の手に移っていること、すでに民間の不動産投資会社が落札していることを挙げ、三権分離の日本では行政が司法には関与できないことを北朝鮮に説明してきた。
しかし、朝鮮総連本部の問題が司法の手から離れたことで、介入は可能となる。「マルナカHD」に所有権が移れば、一般の商取引を通じて関与することができる。政府がその気になれば、政府機関が直接か、あるいは第三者を通じて現状のまま買い取って、朝鮮総連に貸し出すこともできなくはない。
「マルナカは総連本部が日朝協議や拉致問題の外交交渉において重要な役割を果たすことなども考慮し、政府機関や公的機関への売却も視野に入れることにした。今後、政府などから購入の打診があれば交渉のテーブルにつく構えだ」(産経新聞2014年5月18日付)との情報もある。
日本政府は「日朝合意」で北朝鮮に「行動には行動」で応えることを確約している。北朝鮮が仮に今回、前向きの再調査結果を出せば、それに合わせて日本も見返り、即ち追加の制裁解除が必要となる。
拉致問題絡みで日本が科している残りの制裁は、万景峰号の入港と、チャーター便の往来と貿易の再開だが、万景峰号の入港は拉致被害者家族会や世論の反発が予想され、また貿易の復活は、現金が北朝鮮の核やミサイル開発に流れる恐れがあるとして米国が難色を示している。チャーター便往来の解除では北朝鮮が納得しそうにもない。となると、「朝鮮総連本部カード」が最も効果的だ。
仮に「対話と圧力」による拉致問題の解決を考えている安部政権が圧力を掛ける必要性から朝鮮総連本部の問題に介入しないとなると、朝鮮総連自らが動くほかないだろう。落札した「マルナカホールディングス」から買い戻すだけの潤沢な資金はあるようには見えない。
東京都千代田区富士見町の一等地にある中央本部の土地は約2390平方メートル。建物は地上10階、地下2階で、延べ床面積は約1万1740平方メートル。JR飯田橋駅徒歩約4分の好立地で売却基準価額は約26億6800万円だった。売却基準評価額よりも約4億5千万円安く落札した「マルナカHD」は、入札はあくまで投資目的であるとしている。今後、国内の複数の大手不動産会社を有力な転売先と見込んで働き掛けるようだが、売却額は50億円以上を見込んでいるとも言われている。
今の朝鮮総連に50億円は大きな負担だ。仮に資金が用意できたとしても「マルナカHD」の社長も弁護士も「朝鮮総連側への賃貸も売却も考えてない」と言っている。ならば、朝鮮総連が直に買い戻すことはできない。従って、朝鮮総連にとって理想的なのは朝鮮総連の息のかかった第三者が購入し、朝鮮総連に賃貸で貸し出すことだ。
かつて競売を阻止するための奇策として元公安調査庁長官が代表取締役となっていた会社「ハーベスト投資顧問株式会社」に売却を企図したことがあった。その際双方の間では▲朝鮮総連が35億円で売却する▲売却した後、朝鮮総連が年間3億5千万円の家賃で賃貸する▲5~6年後に朝鮮総連が買い戻すという合意が成立していた。
「ハーベスト」が資金調達に失敗し、交渉が破綻した際には整理回収機構(RCC)に交渉を申し入れ、代理人の弁護士を通じて「総連の全財産は40億円しかない。物件の鑑定額は34億円で建物を競売にかけても20億円程度が相場」として▲30億円で購入する▲8年間毎年5億円返済する(計40億円)▲12年後に再交渉するという条件を提示したこともあった。
結局、この交渉も失敗し、昨年3月に競売に掛けられ、一回目の入札では宗教法人「最福寺」の池口恵観法王が45億1900万円の最高価で落札し、二回目の入札では活動実体もないペーパーカンパニーのモンゴルの投資会社「リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(LLC)」が1回目の入札よりも5億円高い、50億1000万円で落札し、世間を驚かせたが、最福寺側は資金調達の失敗により、モンゴル投資会社は書類不備でそれぞれ失格となった。
最景寺側は朝鮮総連の救済のため動いていたことを暗に認めている。また、モンゴルの会社社長は「いかなる団体も関与していない」と、北朝鮮及び朝鮮総連との関係を否定していたが、購入後に朝鮮総連に貸し出すつもりだったようだ。
こうしたことから再び第三者を介しての移転阻止の動きもある。すでに朝鮮総連関係者が京都駅前の土地を担保に第三者を通じて銀行から融資を受け、「マルナカHD」から購入し、朝鮮総連に貸し出すという噂も流れている。
日本政府が介入するのか、それとも朝鮮総連が第三者を介して買い戻すのか、いずれにしても、そう簡単に「落城」しそうにもない。