Yahoo!ニュース

働き方と人生を最適化する超ロジカル思考法【勝間和代×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

新型コロナウイルスの世界的流行は、さまざまな変化を世界にもたらしました。予測不能な変化に対応するためには、既存の価値観だけではなく、多様な視点が必要です。では、会社に新しい価値観を入れる「ダイバーシティ」の取り組みは、うまくいっているのでしょうか。もしうまくいっていないのだとしたら、その問題点は何でしょうか?

<ポイント>

・仕事を断れないのは自己責任

・我慢は自己犠牲ではなく、問題解決の先送り

・ダイバーシティは目的ではない

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■やらなくていい仕事は全部やめる

倉重:働き方改革の話に戻りますが、有給休暇の義務化もあって、「働くこと=悪」のような風潮があります。それついてはどう思いますか。

勝間:働き過ぎですよ。よく言いますが、寝る時間とご飯を食べる時間、お風呂に入る時間、家族の時間を引いていくと、8時間は長過ぎます。通勤なしで7時間ぐらいが限界で、通勤まで含めて8時間がぎりぎりですね。

倉重:勝間さんが20代から30代前半の仕事を覚えるときの労働時間はどうでしたか。

勝間:会社によってばらばらでした。

倉重:若い人が「仕事を覚えたいけれども働けない」という不満もあったりしますが、こういう人にはどうアドバイスされますか。

勝間:それも超勘違いで、長時間労働したからといって仕事を覚えるわけではありません。

私が昔からしていたのは、ひたすらITで武装することでした。銀行に入ったとき、みんな関数電卓を使っていたのですが、「そんなものエクセルにしたほうが絶対早いじゃない」と思ったのです。

倉重:まだエクセルを使う人はそこまで多くなかった時代ですか。

勝間:20年以上前なのでそこまで多くなかったですね。ラダー表と言いますが、金利に対して1年後スタートの2年ものの計算をするときに、いちいち関数電卓をたたいていました。それでは他の人が確認できません。「確認して」と言ったら、関数電卓をたたかないといけない。

倉重:それは大変な時間の無駄ですね。

勝間:そんなことばかりやっているので、仕事にならないのです。

やらなくていい仕事は全部減らします。仕事の効率化については、みんな間違えているのですが、仕事時間を短くすることだけではありません。そもそも要らない仕事をやめてしまえばいいわけです。

倉重:その上で、自分のための勉強をするなり、将来のために役立つことをやると。

勝間:私が前任者の仕事を引き取ったときも、明らかに他の部署の仕事を3つぐらいしていました。「それは私はやりたくないし、やりません」と上司に交渉してもらって、もともとの部署に引き取ってもらったのです。

倉重:すばらしいですね。そういうことを言えない人もいますが。

勝間:言えないのは自己責任です。

倉重:言える実力を身につけろということですか。

勝間:実力はないですよ。当時私は新卒のペーペーですから。部長に言ってもらうのです。

倉重:強い人を味方につけて代弁してもらうのですね。「仕方ない」とか、「我慢しなきゃいけない」「何とかなるさ」というのはダメですね。

勝間:我慢というのは、自己犠牲のように見えて、問題解決の先送りです。

倉重:期間がたてば解決しているのか、という話ですね。

勝間:大抵、解決していないか、悪化しますね。

倉重:それはそうですね。まず、自分で仕事をコントロールできるようになることが重要と。

本日対談に参加しているコヤマツ君は、エンジニアでまだ20代、仕事を自分でコントロールするのはなかなか大変な年代です。こういう人はどうしたらいいですか。

勝間:さっき言ったように上司や取引先を味方にするしかないです。コントロール権のある人ときちんと話をします。私たちの何が幸せかというと、上司や会社を変えられることです。昔の江戸時代の封建制度ではないですから。

倉重:そうですね。身分社会ではないですし、奴隷契約でもありません。

勝間:みんな「仕事を変えられる」という自覚がないのです。

倉重:今の話、もう少し掘り下げてお願いします。

勝間:例えば、会計士というのは構造的に短時間労働にはなりません。監査業務は決算期に集中しますし、出張もあるので、忙しいときはめちゃめちゃ忙しいです。この仕事自体の性質は変わりません。

倉重:監査それ自体は変わらないですね。

勝間:コンサルのほうがまだ平準化しています。

倉重:そこに合わないと思ったら自分でシフトすればいいし、その中で変えられるものは変えていくということですね。こういうマインドはどうやって育てばいいのでしょうか。日本人が全員こうなったら、すごく強い国になると思いますが。

勝間:よく言うのは、原理原則を考えるという話です。みんなどうしても過去の経験則やしがらみで物を考えるので、訳が分からなくなります。

倉重:目的達成のためには本来何が必要かと。

勝間:そうです。その差分についてどのように実現すればいいかを考えます。その繰り返しです。

倉重:「昔からやっているから」は理由にならないですね。どんな業界でもそういうことは多いですし、いまだに裁判所も非効率なところがあります。

勝間:弁護士さんの書類もやたらと長いですからね、漢字が多くて。あれは参入障壁だと思います。

倉重:そうかもしれません。一文でも長いほうがいいという人もいます。

勝間:平たい文章で全員書けるなら弁護士要らないですから。

倉重:おっしゃるとおりです。固定概念というか、過去からあるしがらみが常識になっている部分があると思います。そういうしがらみを捨てていろいろなことを変えていくということでしょうか。

勝間:一度試してみるといいですよ。平たい文章にした場合に、裁判所やクライアントが何と言うか。

倉重:なるほど。例えば自分の本は、できる限り分かりやすい言葉で書くように意識していますが、難しいことを噛み砕いて話すのはとても大変です。本当に分かっていないと書けないですから。

勝間:法律家の人たちとやりとりをしていると、「これは長時間労働になるわ」と思いますね。

倉重:弁護士事務所が一番長時間労働だったりします。うちの事務所は7時間勤務で、ほとんど6時以降は仕事しません。

■ダイバーシティは何のために必要か

倉重:ダイバーシティに関して、「優等生はダイバーシティを理解していない」という勝間さんの記事があったのですが、中身が見られなかったのでお尋ねしてもいいでしょうか。

勝間:ダイバーシティは何のために必要かというと、ダイバーシティがあったほうが、視点が広がって効率が良くなるからです。もしダイバーシティを採用することで業務成績が悪くなるなら誰もしません。

倉重:ダイバーシティそれ自体が目的になってはいけないという話ですね。

勝間:はい、そこが今、ダイバーシティの議論でぐちゃぐちゃになっています。ダイバーシティで業績を良くするためにはそれなりの工夫が要るわけです。

倉重:異なる価値観や文化の人を融合させるということですからね。

勝間:活躍できる土壌をつくらないまま、ダイバーシティだと言ってマイノリティーの人たちを招いてしまうと、その人たちが苦労して終わるだけになります。

そもそもマイノリティーが存在しないぐらいダイバーシティが進んでいないと厳しいですね。

倉重:「マイノリティーって何だ?」というぐらいの感覚ですかね。

勝間:それこそ3割超えないといけないと言われています。

倉重:ダイバーシティと言っても、例えば「タイ人とベトナム人を採用しました」ではないわけですね。

勝間:採用するだけではありません。

倉重:外国人の方を採用している会社でも、管理職になっている人はほとんどいません。

勝間:男女共同参画でもずっと問題になっているのが、あまりにも女性の管理職比率が低いのです。

倉重:女性のキャリアのつくり方はまだまだ難しいですか。

勝間:日本企業に勤めていたら難しいですよ。風土の問題があるので、いちいちそれに逆らうのは大変です。

倉重:「風土に逆らう」という余計なコストが生じる、ということですね。そこに悩まされていたらいいパフォーマンスが出せないですね。

勝間:もちろんヨーロッパ系でもアメリカ系でもゼロではないですが、まだマシです。

それこそトレッドミルを歩くときに、逆さまに歩くのと、気にならない程度で歩くのは全然違います。

倉重:受け手側の気持ちが違いますね。ダイバーシティは生産性を上げたり、イノベーションを起こしたりする目的があります。やろうとしてもなかなかできない日本企業が多いと思いますが、どうしたらいいですか。

勝間:「ダイバーシティをしなかったら倒産する」ということになれば、みんなやります。

倉重:そうか、必要だと思っていないということですか。

勝間:きのう従業員が16人ぐらいの印刷業の経営者の女性と話をしました。面白かったのは、アルコール依存症と発達障害など3人ぐらい障害を持った社員がいるわけです。

発達障害の人は、1カ月の給料を渡すと当日に全部使ってしまうので、日割りで毎日渡しています。アルコール依存症の人は、病院に何度も連れて行っているそうです。あと、知能指数検査するとぎりぎりボーダーラインの人がいます。おなかがすいて万引きしてしまったときには、警察まで身柄を引き取りにいったそうです。

倉重:そこまでするのは、その人たちに仕事をしてもらいたいからですか?

勝間:そういう人たちでないと事業が成り立たないのだそうです。

倉重:いわゆる健常者は来てくれないですか。

勝間:印刷工だから、フルタイム勤務はきついわけです。

倉重:いわゆるブラックと言われる業種ですから。それが経営に必須だと思えば当然やるという話ですね。

勝間:そうです。大企業は誰でも選びたい放題です。あえてそういう人を選んで、給料を日割りで渡しますかという話です。

倉重:実際、Googleなり、Appleなり、マイクロソフトがダイバーシティを進めているのはなぜでしょうか? 選びたい放題なのにやっているわけですよね。

勝間:逆です。選び放題だからこそ、ちょっとでも優秀な人を選ぶために、マイノリティーを優遇するわけです。

倉重:そういう発想ですか。マイノリティーを感じさせないということですね。

勝間:私のアナリスト時代に、お子さんを持っている有名な女性のアナリストがいました。彼女は必ず1番目に会議に出て発表します。子どもは後ろで泣いています。彼女が特別優秀だから、私たちも特別扱いしているわけです。

倉重:なるほど、優秀な人をつなぎ止めるというのが本当の目的であって、ダイバーシティ自体が目的ではないのですね。

勝間:経営者の目的があるから、みんなやっているわけです。

倉重:そこを勘違いするなという話ですね。

勝間:Googleで「女性研究者は使いものにならない」と言った人がクビになりましたね。Googleの経営者としては、そんなことは死んでも言ってほしくなかったわけですよ。その人の一言で女性の優秀な研究者がみんな辞めるおそれがあります。Googleの経営者としては「何てことを言ってくれたんだ」ぐらいの感覚ですよ。

倉重:目的と手段が入れ替わるのは働き方改革でもよくあって、労働時間を削減すること自体が目的になってしまうとおかしな話になりますね。

(つづく)

対談協力:勝間和代(かつま かずよ)

経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授。

早稲田大学ファイナンスMBA、慶応大学商学部卒業。

当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務。

アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。

現在、株式会社監査と分析取締役、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。

ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」選出

エイボン女性大賞(史上最年少)、第一回ベストマザー賞(経済部門)、世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leaders

少子化問題、若者の雇用問題、ワークライフバランス、ITを活用した個人の生産性向上、など、幅広い分野で発言をしており、ネットリテラシーの高い若年層を中心に高い支持を受けている。Twitterのフォロワー61万人、FBページ購読者4万6000人、無料メルマガ4万7000部、有料メルマガ4000部などネット上で多くの支持者を獲得した。5年後になりたい自分になるための教育プログラムを勝間塾にて展開中。著作多数、著作累計発行部数は500万部を超える。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

倉重公太朗の最近の記事