音楽作家はつらいよ…なぜつらいのか?作家たちが立ち上がった“3つの深い理由”
「音楽作家はつらいよ」というサイトを立ち上げて、作詞家・作曲家・編曲家など音楽作家の有志が立ち上がった。実は結構「つらくて肩身が狭い」状況なのだという。なぜつらいのか?何がつらいのか?そしてどうしてJASRACなどの業界団体があるにもかかわらず、音楽作家たち自らが行動を起こさねばならなかったのか?
そこで、この運動の中心メンバーである、作詞家の前田たかひろさん、作編曲家の関美奈子さん、ミュージシャンのエンドウ.さんにお話をうかがった。
「音楽著作権を身近に感じてほしい。JASRACのイメージで肩身が狭い」
まず、音楽作家さんたちが何を訴えたいのか簡単にまとめると、「音楽著作権を身近に感じてほしい」ということだ。音楽作家は「印税」つまり音楽著作権使用料が大切な収入だ。音楽著作権についての一般の人たちの理解が深まらなければ、音楽で生活していけない。
そして本来ならその「音楽著作権使用料」を音楽作家に代わり徴収してくれる「JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)」のイメージが、ご存知の通りあまりよろしくない。「昨今ではJASRACに関する様々な情報やイメージにより、なかなか肩身が狭いです。世間のみなさま、どうかご理解ください…音楽作家はつらいよ!」と「音楽作家はつらいよ」のサイトの冒頭にも書かれている。
では、実際にどのような悩みを音楽作家さんたちは抱えているのか。次の3点に集約されそうだ。
①イマドキの音楽作家は思われているほどウハウハではない。このままだと若手は暮らしていけない。
②JASRACは思われているほど悪者ではない。ただし「足りないこと」がある。
③コロナ禍で音楽は非常に厳しい状況にある。音楽作家だけの問題ではない。
では、この3点について具体的にどういうことか説明していこう。
①イマドキの音楽作家は思われているほどウハウハではない。このままだと若手は暮らしていけない。
みなさんの中には「サブスクの音楽ストリーミングサービス」をお使いの方も多いのではないだろうか?こうしたサブスクの音楽サービスで音楽が再生されれば、当然音楽作家さんに「印税」が入る。ではどのくらいの額が入るかご存知だろうか?
今回うかがって私も驚いた。なんと1000回再生されたとして、ケースバイケースではあるが多くて80円くらい。少なければ20円くらいしか印税が音楽作家さんに入らない。かつてレコード・CDの時代には、ヒットすれば大量の印税が入り、タワーマンションと高級外車でウハウハ生活!といったサクセスストーリーも夢ではなかったが、サブスクの時代には「爆発的なヒットは出づらい状況」で、若手の音楽作家たちは非常に苦しい状況に置かれているのだという。
「なんでもタダが当然の時代」で、違法アップロードとも闘わなければならない。「それでも自分たちが好きでやっているのだから仕方がない」と思いつつ、ギリギリの生活で音楽を続けている人が多いのだが、それにしても「お前たちは印税でウハウハだろう。まだ欲しがるのか?」という世間の声がつらいというのだ。
「ウハウハな人もいなくはないがほんの一握り。だからこそ音楽著作権の大切さをわかって欲しい」ということだ。このままでは、いずれ若手の音楽作家たちが暮らしていけなくなるかもしれない。ということはいずれ「新しい音楽が生まれなくなってしまう」かもしれず、音楽を愛する人たちにいずれそのツケが回ってくるかもしれないと音楽作家さんたちは危惧している。
②JASRACは思われているほど悪者ではない。ただし「足りないこと」がある。
相次ぐ訴訟などにより、JASRACのイメージは残念ながらあまりよろしくないと言えるだろう。これについて音楽作家さんたちの話を総合するとこういうことだ。
JASRACは非常に真面目に音楽著作権使用料と向き合っている。音楽作家さんたちのためにそれこそ「クソ真面目と言ってもいいほどに」真面目に印税を徴収し、きちんと分配してくれている。しかし残念ながらクソ真面目に自分たちの業務に集中しすぎるあまり、世間に「自分たちのことを理解してもらおう」というふうに思っていないのではないかと見えてしまうのだ。
それでどんどんイメージが悪くなってしまっている、というのだ。これではJASRACのイメージ悪化と手に手を取るように音楽著作権や印税のイメージまで悪くなってしまう。これこそが音楽作家さんたちが「肩身が狭い」と感じている主な原因だ。
正当に印税を払ってもらって、音楽作家さんたちが生計を立てていくことは当たり前のことだ。「難しい、怖い、悪い」といったマイナスイメージを払拭し、音楽著作権の大切さを「わかりやすく理解してもらうために」音楽作家さんの有志たちが、JASRACとは違うアプローチで行動を起こすべく、立ち上がったのだ。
③コロナ禍で音楽は非常に厳しい状況にある。音楽作家だけの問題ではない。
そして、3つ目の理由は「コロナ禍で音楽産業全体が危機に瀕している」ことだ。ご存知の通りコロナ禍でエンターテインメント産業は最も影響を受けたものの一つであり、音楽業界もライブ・コンサート・イベントなどがほとんど開催できなくなっている。
こうした中で、音楽作家さんたちが「生きていくこと」は、単に音楽作家さんだけの問題ではなくなっている。演奏家さんやスタッフさんたちの状況はもっと苦しく、言ってみれば彼らの生活も「音楽を生み出す人たちの肩に」かかっている。音楽著作権に対する世間一般の理解がより一層音楽業界全体のために重要になってきているというわけだ。
さて、最後に「音楽作家はつらいよ」の中心メンバー3人からのメッセージを紹介しよう。
前田たかひろ(作詞家)
世界規模で誰もが大変なこの時期に恐縮なのですが、音楽業界もなかなか深刻です。これは我々音楽作家が未来に音楽文化を繋げる為、また音楽作家を目指す若い人達の為、音楽を聴いて頂く皆さんに我々自身の声でほんの少し『著作権』について伝えたい!と言うムーブメントです。
関美奈子(作編曲家)
良い作品作りを目指し、その活動を継続できる環境を維持するために、それぞれが知恵を出し合い時間とお金の確保を模索してるであろう当事者の「音楽作家自身が発信すること」が大事だと考えこのムーブメントに参加しました。いま音楽作家を取り巻く状況を皆様に知って頂けたら嬉しいです。
エンドウ.(ミュージシャン GEEKS / 月蝕會議)
一見華やかに見える音楽作家(作詞家・作曲家)ですが、それはごく一部のイメージです。多くの音楽作家は数円~数百円の印税(著作権使用料)をかき集めてどうにか次の創作につなげています。まずはその雰囲気だけでも世間の皆様に知って欲しくて作家有志で手作りサイトを作ってみました。何卒宜しくお願い致します・・・!
以上、なぜ「音楽作家さんたちがつらいのか」理解いただけただろうか?
ぜひ、一度「音楽作家はつらいよ」のサイトを見て、賛同する多くの音楽作家さんたちの名前を見てみてほしい。そして、音楽作家さんたちの声に少しでも耳を傾けてみてほしい。