絵画と音楽が、頑固な心を溶かす? フィンランド映画『最後の落札』
よろよろと歩くおじいちゃんに、何か起きてしまうんじゃないか。はらはらしながら、私は映画を見ていた。
北欧フィンランドの映画『Tuntematon mestari』(2018、95分)。英題で『One Last Deal』。
英語字幕付きの動画は、フィンランド映画連盟の公式HPにて視聴可能。
日本で上映が決定しているのかは、北欧映画機関に問い合わせたが情報が掴めなかった。ここでは『最後の落札』と、私はとりあえず訳して紹介したい。
フィンランドが得意とする、時に涙するかもしれない、人間関係と人生を描いた心温まる作品だ。
私は映画後半でぽろりと泣いてしまった。
どうも今年は、映画を見て泣くことが多い。人生で紆余曲折が少なかった10代に見ていたら、同じように泣いていただろうか。私はこれを「30代の涙腺か?」と、映画館を出ながら思った。
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あらすじ
アートディーラーである年老いたオラヴィ。老後を考えて、絵を売り、お金をためようと考えている。オークション会場で目に留まった1枚の男性の絵。誰が描いたかは不明とされているが、気になってしかたがなかった。
ある日、ずっと連絡をとっていなかった娘から、彼女の息子を店で働かせてやってくれないかと頼まれる。だが、どうもうまくコミュニケーションができない、祖父と孫。
2人は、オラヴィが気になっていた絵が、有名な画家の作品かもしれないことを突き止める。まさか、イリヤ・レーピン?
落札するか、しないか。どうやって大金を集めるか?
プロのアートディーラーとして落札することになる、最後の1枚。そのために彼は、自分の店と、これまで放置してきた過去の過ちに、まっすぐに向き合わなければいけなかった。
北欧映画というと、実際の社会問題をテーマにした、暗めのものが多めだ。本作は人生の紆余曲折、仕事に命を懸ける人のプライドを描く。
スウェーデン作曲家Matti Bye氏の素晴らしい音の世界を聞きながら、絵画の美しさと面白さにも触れることができる。北欧各地で作品評価が高い理由も、音楽と芸術を映画館の会場で通す、贅沢な「体験」にある。
クラウス・ハロ監督は、これまで世界中の映画祭で60以上の賞を受賞してきた。
彼の代表作といえば、『ヤコブへの手紙』や『こころに剣士を』。ちなみに、私はたまたま『ヤコブへの手紙』を同じ時期にDVDで鑑賞しており、こちらでも最後に涙がポロリだった。あぁ、30代の涙腺。
ハロ監督が、胸が締め付けられるような人間ドラマを描く天才であることは、間違いない。
ちなみに、日本で今、映画館でフィンランド映画を見たいなら、『トム・オブ・フィンランド』が上映中だ。
Text: Asaki Abumi