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「動物としての喜びを共有できる場所を」――建築家・平田晃久が考える未来の都市

柿本ケンサク映像作家/写真家

「国籍や文化、人種や性別の差を超えて、人間が動物としての喜びを共有できる場所をつくりたい」。建築家・平田晃久。太田市美術館・図書館をはじめ、さまざまな建築を手掛け、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞など、多くの賞を受賞してきた。平田はこの夏、東京・青山、国際連合大学前の広い敷地に「Global Bowl」と名づけたパビリオンを設置した。作品に託した都市への思いとは。

●動物としての人間に開かれた都市

東京・青山、国連大学前の広い敷地に佇む「Global Bowl」。木でつくられたお椀のような建築物が、空に向かって開いている。Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13「パビリオン・トウキョウ2021」というプロジェクトのために制作されたもので、9月5日までの間、この場所に設置される。

設計当初は、オリンピック期間に世界中から観光客がやってくることを想定していた。

「小さなボールの中に、各国の人たちがギュッと入ると面白いんじゃないかと思っていました」

ところが、コロナ禍で観光客は訪れず、人が集まることも難しくなった。平田は、身体を介して喜びを分かち合う機会が失われている今だからこそ、そんなシーンを「待ち続ける」パビリオンは、意味を持ったモニュメントとなると考えた。

平田の建築のテーマは、「樹上を自由に行きかう動物たちのように、人間が動物的本性を解放して行動できるような建築をつくること」。「からまりしろ」(「絡まる」と「余地=しろ」の造語)という言葉がキーワードだ。

「Global Bowl」は、肌触りのなめらかな木が、穴のたくさん空いた幾何学的な形をつくりあげている。木の塊から3Dカット技術によって102のパーツを削り出し、それを組み合わせ、最後に磨くことでお椀型を形成した。最新技術と職人の技術の両方を生かしている。

「1本の巨木のようなもので、縦横に枝が伸びているイメージです。人が中に入って座ったり寝転んだりして絡まってほしい。木でつくることで、人間が動物としてそこに関わりたくなるといいなと思いました」

「未来の都市は、動物としての人間に開かれたものであってほしい」と考えている。

「世界の人々に向けて企画されたパビリオン・トウキョウでは、国籍や文化、人種や性別の差を超えて、人間が動物としての喜びを共有できる場所をつくりたいと思いました」

●「境界」がほどける場所

「僕たちが設計するような建築は、無味乾燥の現実にプスッと突き刺さる『異次元』にならなければならない」と語る。

「都市の中に目的の決まっている場所が増え、どんどん『ツルツルピカピカ』になっています。少しは『穴が空いたようなもの』をつくらないと、隙間がない。この機会に謎の物体をつくってみても面白いんじゃないかと思いました」

国連大学前の敷地は、都会の真ん中でビルに囲まれながら、ぽっかりと空いている。

「こういうダムみたいな場所は、都市にはほとんどありません。風景の『へそ』のようなところにしようと思いました。この場所で、内と外が混ざり合うような、呼吸し合うような感じをつくりたい。小さい『身体スケール』のパビリオンが、大きな『都市スケール』の広がりと結びつく」

孔だらけのパビリオンは自在に通り抜けることができ、どこが内でどこが外なのか、「境界」がほどけていく。この空間で人々が自由に絡まる。

平田は「Global Bowl」にこんな言葉を寄せた。

「生身の身体を介して人々が集まる場の楽しさや重要性を決して忘れない、という決意のあらわれとして。また、コロナに打ち克つだけでなく、地球規模で起こっている根本的な矛盾に向き合う意志のあらわれとして」

クレジット

出演:平田晃久
監督:柿本ケンサク
撮影:柿本ケンサク/小山麻美/関森 崇/坂本和久(スパイス)/山田桃子(DP stock)/岩川浩也/飯田修太
撮影助手:荒谷穂波/水島陽介
編集:望月あすか
プロデューサー:金川雄策/初鹿友美 
ライター:塚原沙耶  
Special Thanks:C STUDIO

映像作家/写真家

映像作家・写真家。映画、コマーシャルフィルム、ミュージックビデオを中心に、演出家、映像作家、撮影監督として多くの映像、写真作品を手がける。柿本の作品の多くは、言語化して表現することが不可能だと思われる被写体の体温や熱量、周辺に漂う空気や気温、 時間が凝縮されている。一方、写真家としての活動では、時間と変化をテーマに作品を制作。また対照的に演出することを放棄し、無意識に目の前にある世界の断片を撮り続けている。2021年トライベッカフィルムフェスティバルに正式招待作品に選出。グローバルショーツではグランプリを受賞。ロンドン国際フィルムフェスティバル、ソノマフィルムフェスティバルにて優秀賞受賞。

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