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ひと時の肉体を得ることは、一つの花を咲かせるかのよう――檜皮一彦が車椅子で表現する「秘密の花園」

柿本ケンサク映像作家/写真家


●車椅子をひっくり返して作品に

岡本太郎現代芸術大賞でグランプリを受賞した気鋭のアーティスト、檜皮一彦。車椅子を積み上げたインスタレーション作品を多く手がけている。生まれつき四肢に障がいがあり、車椅子は自身の生活や身体の一部だ。いつ頃からアーティスト活動を始めたのか、本人にとっても明確ではない。

「物心ついてから、何かしら表現はしていました。絵を描くでも、言葉でも。何か表現をしないと、周りの方が本当にこいつは何もできない人間だと見てくることが分かっていたもので。それが結果的に現代美術みたいなところにたどり着きました。日常において、他者と関係するためにやってきたことの延長だと思います」

現在、檜皮は、国内外のアーティストが参加する国際展「水の波紋2021」で最新インスタレーションを展示している。東京・青山にあるワタリウム美術館が主催する「水の波紋2021」。青山地区の複数箇所が会場となり、街の中でアート作品が見られる。

ワタリウム美術館を運営する和多利恵津子と和多利浩一は、青山で育った。今回、2人が子どもの頃よく遊んだという場所に、檜皮の新作「hiwadrome type : re[in-carnation]」が設置されている。

青空の下、花壇のように囲まれた空間に、白い車椅子が集積した構造体が佇む。構造体の中には、マネキンとコーナーミラーが組み込まれている。その周りに、車椅子がボンテージテープで固定された4体のマネキンも点在。いずれも造花で彩られている。

「今回の全体的なイメージは『秘密の花園』で、作品のベースには自分がずっと続けている作業があります。例えばマネキンの上に車椅子をひっくり返して乗せているんですが、車椅子をひっくり返して作品にするというのは、ずっと続けているプロセス。転倒させることによって先入観や価値を変換させるということを続けています。今回の作品では、ひっくり返って、また表を向いて、というぐるぐるとした構造を持ち込んでいます」

タイトルに用いられている「reincarnation」は、転生、生まれ変わりを意味する。言葉を分解すれば、「re:再び」「in:~の中へ、〜化する」「carnation:肉体、肉片、カーネーション(植物)」。中央の構造体は曼荼羅のようなもの、4体のマネキンに付いた花は一輪の花をイメージしているという。

「今までの作品では車椅子をジャンクのように積み上げ、車椅子同士が絡まることで形を成していたんですが、今回は構造体を用いて、彫刻的なアプローチになっています。美学的な構造をとり、初めての彫刻作品として作りました。マネキンという人体を使用したのも、典型的な彫刻のあり方として現れている気がします。マネキンは上半身と下半身を付け替え、男女が入れ替わったものを、さらにひっくり返しています」

健常者と障がい者、男性と女性。ぐるぐるとした構造の中で入れ替わり、絡み合っているかのようだ。檜皮は本作にこんな言葉を寄せた。

「ひと時の肉体を得ることは、一つの花を咲かせるかのよう」

クレジット

出演:檜皮一彦
監督:柿本ケンサク
撮影:柿本ケンサク/小山麻美/関森 崇/坂本和久(スパイス)/山田桃子(DP stock)/岩川浩也/飯田修太
撮影助手:荒谷穂波/水島陽介
編集:望月あすか
プロデューサー:金川雄策/初鹿友美 
ライター:塚原沙耶  
Special Thanks:C STUDIO

映像作家/写真家

映像作家・写真家。映画、コマーシャルフィルム、ミュージックビデオを中心に、演出家、映像作家、撮影監督として多くの映像、写真作品を手がける。柿本の作品の多くは、言語化して表現することが不可能だと思われる被写体の体温や熱量、周辺に漂う空気や気温、 時間が凝縮されている。一方、写真家としての活動では、時間と変化をテーマに作品を制作。また対照的に演出することを放棄し、無意識に目の前にある世界の断片を撮り続けている。2021年トライベッカフィルムフェスティバルに正式招待作品に選出。グローバルショーツではグランプリを受賞。ロンドン国際フィルムフェスティバル、ソノマフィルムフェスティバルにて優秀賞受賞。

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