新型コロナのデマ対策で注意するべき、善意の拡散と事実化のリスク
新型コロナウイルスをめぐるニュースが連日メディアを騒がしていますが、ここに来て様々なデマ情報も跋扈するようになってきているようです。
今回の新型コロナウイルスへの対応に関しては、専門家でも意見が分かれるケースも少なくないようですし、政府の対応方針もめまぐるしく変わる印象があります。
そのため、政府が発信する情報すら信じられなくなってしまったり、藁をもつかむ思いで根拠の薄いウイルス対策を信じてしまうケースが少なくないように感じます。
特に、全国一斉での小中高の休校要請や、リモートワークの推進で、今週末から一週間を自宅で1日過ごす人が増えると思われます。
こういう時にこそ気をつけなければいけないのが「デマ」の拡散です。
そう言うと、自分はデマなんか信じないから大丈夫、と思う人が多いかもしれませんが、一言で「デマ」と言っても、様々なデマのパターンがあるのが注意点です。
■熊本では愉快犯のデマが拡散して投稿者が逮捕
一番分かりやすいデマの事例は、愉快犯や悪意によるデマの拡散でしょう。
日本でも有名なのは熊本地震の時にライオンが檻から逃げたというデマがツイッターに投稿されたケースです。
参考:【熊本地震連載】「ライオンが逃げた」熊本地震で問題となったデマ 災害時、どう向き合うべきか
これを投稿したのは神奈川県の当時20歳の会社員。
偽計業務妨害の疑いで逮捕された際には「悪ふざけでやった」と容疑を認めていたそうです。
また、米国では前回の大統領選挙の際に、候補者のヒラリー・クリントン氏に関するデマが拡散。
ピザ屋に幼児が閉じ込められているというデマ情報を信じた男性が、店内でライフルを発射し逮捕される「ピザゲート事件」という事件まで起きていますが、こうしたデマ情報はヒラリー氏の当選を阻止するために悪意を持って流されたとみられています。
後から第三者が聞くと、なんでそんなデマ信じたんだろう?と思うような話でも、地震の直後のように人々が不安を抱いている瞬間や、大統領選挙のような対立構造が激化している状況だと、恐怖や思い込みが先に立ってしまうことがあるわけです。
■真実が混じったデマの拡散力は強力
愉快犯による極端なウソや悪意のあるデマでも拡散することがあるわけですから、より真実に近い情報が含まれたデマになると、その拡散力はより強力になります。
東日本大震災の時にも、千葉のコスモ石油のLPGタンクが出火し爆発。
鎮火まで長い時間がかかったこともあり、「有害物質が雨とともに降る」という、それらしいデマが多くの人たちの間に伝播することになりました。
幸いこの時は、コスモ石油側の否定やメディアの報道も迅速で、比較的早期にデマが否定されましたが、それでもしばらくチェーンメールは回り続けていたと記憶しています。
このデマを流した人が逮捕されたという話は聞きませんので、このデマが流された背景は分かりません。
ただ、もうもうと煙があがる状態を見て不安になった人々にとって「有害物質が混じっている」という情報は、とてもデマとは思えない信憑性があり、このメールは瞬く間に大勢の人たちの間を駆け抜けていくことになるわけです。
■善意によるデマの拡散が一番手強い
そして、実はさらに対処が難しいのが「善意」によるデマの拡散です。
もちろん、デマ自体は、悪意や愉快犯、もしくは無知によって生み出されるケースがほとんどです。
ポイントは、「善意のデマ」ではなく、多数の第三者の善意によってデマの拡散がされる点です。
今回の新型コロナウイルスにおいても、新型コロナウイルスは「耐熱性がなく、26ー27度の温度のお湯を飲むと防げる」というチェーンメールが大勢の人たちの間で広まりました。
このチェーンメールの発信源となる人は特定されていないようですので、その人が悪意だったのか愉快犯だったのかは分かりませんが、新型コロナウイルスの報道に日々さいなまれている私たちが、こういった救いの神とも思える情報を受け取ると、ついつい善意で他の人にも知ってもらおうと転送してしまう、というサイクルが回ります。
参考:新型コロナウイルス『お湯を飲んで予防』のデマ拡散。専門家は「常識的に考えてありえない」
こうした情報は、拡散している人も悪意や恐怖で脊髄反射で拡散をしているわけではなく、自分にとっての善意で拡散をしているので、デマとの指摘や否定意見に対して反論しがち。
もちろん「善意」による拡散といっても、デマを広げている時点で害のある行為なのですが、本人からすると「せっかく良いことを教えてあげてるのになんで否定するの?」と人格否定されたと受け止めがちな構造になります。
実際に、デマの可能性を指摘したらかえって投稿者やその友達から批難された、というケースも少なくないようです。
参考:「コロナウイルスは27度のお湯を飲むと防げる」とメッセ回ってきたので「ガセネタじゃね?」と返したら起きた話
「ライオンが檻から逃げた」は明確なウソですし、混乱を招くことによって被害が出かねないですから、偽計業務妨害で逮捕すら可能です。
タンクの有害物質についても、もし悪意を元にウソをついたのであれば、同様の処置がなされるでしょう。
ただ「お湯を飲んで予防」は、専門家が常識的に考えてあり得ないと言っても、お湯を飲むことを勧める行為が違法なわけではありませんし、その情報を拡散している人は誰かを騙そうとしているわけでもないので、情報の発信者を訴えるなり、拡散行為をいさめるなりということで拡散を止めることが難しいわけです。
血液クレンジングのような、専門家が危険性を指摘する民間療法が騒動になっても、完全に消えはしないのも似た構造と言えるでしょう。
特に健康や医療にかかわる話というのは、専門家でも0か1かで判断できない話が多いので、デマがデマであることを証明することが難しいケースも多数存在するわけです。
■デマの事実化やパニックが一番怖い
さらに、こうしたデマの怖いのは、デマが起点になりデマだったはずのものが事実化してしまったり、デマによりパニックが生み出されるところにあります。
例えば、今週は新型コロナウイルスの影響で、中国から原材料を輸入できなくなってトイレットペーパーが不足するというデマ情報が拡散。
実際にはトイレットペーパーの原材料は中国に依存しておらず、この情報自体は明確な「デマ」でした。
参考:「新型コロナウイルスの影響でトイレットペーパーが不足」は誤り 品薄となる薬局も
ただ、残念ながら、この「トイレットペーパーが品薄になっているところもある」という報道が引き金となり、このニュースを知った人たちが一斉にトイレットペーパーの確保に奔走。
本当に薬局からトイレットペーパーが消える事態になっているようです。
こうなると、「中国から原材料を輸入できなくなって」という部分はウソでも、「トイレットペーパーが不足する」という部分は店頭において「事実」となってしまいます。
ニュースを見て、店頭でその不足の事実を確認してしまった人たちは、当然今ある商品を買い占めたくなる精神構造になり、デマが事実化してしまいます。
もうこうなると、いくら「デマ」の火元を否定しても、品切れという「事実」の炎が燃え広がってしまうわけです。
参考:トイレットペーパーも高額転売相次ぐ 店頭で品薄 まるでオイルショック
買い占めはティッシュペーパーやカップ麺にも広がっているようで「オイルショック」のようだという表現も散見されます。
本来はたくさんの人が集まるところで買い物したり、行列をする行為自体に感染のリスクがあるはずですが、パニック的な精神状況になってしまうと冷静な判断ができなくなってしまうわけです。
■デマの加害者にならないために
こうしたデマの話を書くと、おそらく皆さんは、ご自分がデマの被害者になる可能性を念頭に浮かべると思います。
ただ、現在において、一番皆さんに気をつけて頂きたいのは、自分もデマの加害者に簡単になってしまうことがあるという点です。
先程紹介したタンク火災のデマにしても、お湯を飲んで予防のデマにしても、書かれているのは友達に聞いた話であり、インフラとなっているのはメールやLINEのような普通のツールです。
誰でも友達の話を伝えるという形で、デマの起点になり得るのです。
しかも、YouTubeやインスタグラムのようなSNSの普及により、誰でも不特定多数に情報発信できる時代になりました。
特にツイッターにおいては、リツイートという他の人の投稿を拡散するボタンを押すだけで、自分も発信者になってしまいます。
サービスの機能としてはリツイートボタンは、Facebookやインスタグラムのいいねと変わらず1クリックで押せる簡単なリアクションの機能ですが、実際にはフォロワー全員に投稿内容を発信するという側面があるため、デマ情報をリツイートしただけでも責任を問われることが明確になっているのです。
実際、橋下徹氏は、ジャーナリストのリツイートに慰謝料を求めて勝訴していますし、昨年8月のあおり運転事件で、ガラケー女と間違って特定されてしまった女性は、デマ情報をリツイートした人間全員に対して法的措置をとることを明言されていました。
参考:橋下徹氏も勝訴!「リツイート」しただけでも損害賠償リスクはある
こうしたリツイートをした人たちには、ひょっとしたら犯人を多くの人に知ってもらおうという正義感からの行為の人も混じっているのかもしれませんが、デマ情報を広げられた側からすると、明確な悪意の攻撃に見えます。
デマをデマと知らずに、善意で他の人に知ってもらおうと思って拡散したとしても、それによりデマが事実化したり、ライオンのデマやあおり運転騒動のように誰かが被害を受けたりすると、拡散に加担した人も訴訟の対象になるリスクがあるということです。
仮に訴訟の対象にならないまでも、デマ情報を拡散し、友人やフォロワーがそれに騙されてしまったら、当然そのことを後から責められる可能性があるわけです。
■情報を受け取ったときに持つべき4つの疑問
情報リテラシーの専門家として、インターネットメディア協会でもメディアリテラシー部門の理事をされている下村氏によると、情報を受け取ったときに持つべき4つの疑問があると言います。
1:結論を「ソクダンするな」
2:ゴッチャにして「ウのみするな」
3:一つの見方に「カタよるな」
4:スポットライトの「ナカだけ見るな」
聞くと当然だなと思う話かもしれませんが、情報が錯綜している今だからこそ、こうした原点に回帰することが大事でしょう。
参考:【急告】新型コロナのデマ・ウイルスには「ソ・ウ・カ・ナ」が効く!
また、アメリカの大統領選のケースにあるように、デマ情報が掲載されるのはネットだけではありません。
大手メディアにもデマに近い情報が掲載されてしまうことがあります.
そこで、併せてチェック頂きたいのがこちらのサイトです。
ファクトチェック・イニシアティブとは、ファクトチェックという、誤情報や真偽不明の情報の真偽をチェックする活動をしている団体で、国内のメディアによるファクトチェックが行われた情報をまとめています。
怪しい情報を見たときには、このサイトで真偽を確認したり、ファクトチェックの情報提供をしてみるのが良いでしょう。
せっかく一斉休校や自宅待機を促進して、新型コロナウイルス自体の拡散の勢いを抑える努力をしていても、自宅でテレビやスマホばかり見てしまい、デマ情報の拡散やパニック発生に貢献してしまっては意味がありません。
自信がなければ、変に知らない情報を拡散するのは避けるのが無難です。
まだまだ新型コロナウイルスとの戦いは長い戦いになりそうですので、是非デマに騙されないよう冷静に情報に接して頂ければ幸いです。