【熊本地震連載】「ライオンが逃げた」熊本地震で問題となったデマ 災害時、どう向き合うべきか

最終更新:2017/3/13 16:55

キーポイント

  • 熊本地震では多くのデマが出回り、被災者が混乱した。
  • デマをゼロにすることは難しく、現状では被災者が「一次情報」をあたるなど個々の努力が必要。
  • 専門家は「災害時のスマホ利用方法を学校教育で導入すべき」と訴えている。

「動物園からライオンが逃げ出した」「ショッピングセンターで火災」など、発生直後から数多くのデマがネット上にあふれた熊本地震。筆者も今回の地震で被災し、一被災者として、情報に振り回された。災害時、被災者はどのようにして情報の正しさを判断すればよいのか。熊本地震で、情報の取捨選択にあたった人物らへの取材から探った。(Yahoo!ニュース個人オーサー 田中森士)

※2016年4月に起きた熊本地震のその後を伝えるYahoo! JAPANの連載企画です。毎月14日にお届けしています。

「自分が信じる情報源を固定してみるのも手」

支援グループ「Youth Action for Kumamoto」の発起人・塚田耀太さんは、「避難所」「炊き出し」といった情報の発信に取り組んだ=2016年9月撮影

「とにかく『一次情報』を探すことが大切」。支援グループ「Youth Action for Kumamoto」の発起人で、慶応大商学部3年の塚田耀太さん(23歳)は、災害時における情報との向き合い方について、こう説明する。

塚田さんは2016年4月14日の前震直後、同グループを友人らと立ち上げた。取り組んだのは、発災直後の被災者にとって重要な、「避難所」や「炊き出し」といった情報の発信。「信頼に足る」と判断した「一次情報」を、ネット上の地図に落としていった。

塚田さんらが避難所情報を落とした、ネット上の地図。閉鎖した避難所は色を変えるなど、被災者の利便性を考えた工夫を施した(塚田さん提供)

塚田さんが「最も信頼していた」と話すのが、自治体など公的機関のホームページ(HP)。「開設中の避難所などの情報が掲載、更新されているHPは、重宝した」という。しかし、自治体によっては、指定避難所一覧が掲載されていても、利用可能か不明なケースがあった。

そんな時は、Twitterで情報を集めた。Twitterのアカウント名の右側についている青いバッジは、Twitter社が「本人である」と認証したことを意味する。「公的機関やNPO、NGOの、認証アカウントが発信する情報は、信頼性が高かった」と振り返る。

報道機関の情報も参考にした。テレビ局や新聞社がネット上にまとめた情報は「頻繁にチェックしていた」という。時には、電話取材を受けた記者から情報を教えてもらうこともあった。

報道機関の情報を信頼した理由について塚田さんは、①普段から仕事として情報収集を行なっている、②記者が現場に足を運んでいるーーの2点を挙げる。一方で新聞紙面は「ほとんど見なかった」。「紙面に掲載された時点で、その情報は過去のもの」とした上で、発災直後の生命の危険がある時期においては、タイムラグがあると使えない情報も多いと説明する。

東京で活動した塚田さんらは、ある程度冷静に情報の取捨選択ができた。では混乱の中にある被災者は、情報をどう取捨選択すればよいのか。塚田さんは「自分が信じる情報源を固定してみるのも手」と提案する。

発災直後は、ネット上に膨大な情報が飛び交う。しかし、混乱のさなかにいる被災者が、受け取る情報ひとつひとつを正しいか確認することは難しい。全体的な情報は「○○新聞のまとめページ」、地元の細かい情報は「普段から情報発信をしていて信頼できる友人」などと、情報の入手経路を決めてみる。「大地震が起きたら、飛び交う情報量は凄まじいものになる。明日は我が身。日本国民全員が、信頼できる身近な情報源を普段から確保しておいてほしい」。一歩引いた視点での訴えは、説得力がある。

「デマをゼロにすることは難しい」 まずはネット上の雰囲気づくりを

ネット上の有害情報の発見に学生が取り組む「サイバー防犯ボランティア」の中心メンバーで、熊本学園大商学部4年の草場一朗さん(22)は、地震直後からデマの収集にあたった。

「サイバー防犯ボランティア」の中心メンバーで、熊本学園大4年の草場一朗さん。草場さんも避難中、情報に振り回された=2017年2月撮影

家族で自宅近所の避難所に身を寄せていた草場さんは、避難所内で広まった「熊本市動植物園からライオンが逃げたらしい」とのデマを信じてしまった。その避難所は、動植物園から距離があった。しかし「動植物園の近所の人たちは、ライオンが怖くて家から出られないのでは」と心配になった。しばらくしてデマだったと分かったが、「悪質だ」と怒りを隠さない。このデマを流した男は、昨年7月、デマをTwitterに流し、動植物園の業務を妨害したとして、偽計業務妨害の疑いで熊本県警に逮捕されている。

自身もデマを信じてしまった経験から、草場さんは、ボランティアメンバーらとTwitter上のデマの収集を始めた。「原発で火災が発生している」「○月○日に南海トラフ大地震が起きる」。すぐにデマの疑いがある投稿をいくつも発見した。中には「火事場泥棒の犯人」とする「手配写真画像」を添付したものや、熊本県のアカウントを装ったものなど、「手の込んだ極めて悪質なデマ」(草場さん)もあった。

「『拡散希望』のハッシュタグ(#)がつけられていることがある」「アカウントの『居住地』が被災地以外であることが比較的多い」などの傾向は見えてきた。しかし、もちろんすべての情報に当てはまるわけではなく、「真贋の判断はメンバー同士で話し合いながら慎重に進めた」という。収集した情報は、熊本県警に報告。県警に寄せられたデマ約180件のうち48件を占めた。

今回の活動を通し「デマをゼロにすることは難しい」と痛感した。それを踏まえ草場さんは、デマ対策について「まずはデマを許さないというネット上の雰囲気づくりを進めていくしかない」と考えている。

正確な情報の中にデマが紛れ込めば混乱が起きる 「災害時のスマホ利用方法を学校教育で導入すべき」

災害時のデマは、どういった問題を引き起こすのか。「サイバー防犯ボランティア」を指導する熊本学園大商学部の堤豊教授(情報科学)は、「被災者が正しい判断をできなくなる」と指摘する。

「災害時のスマホ利用方法を学校教育で導入すべき」と訴える熊本学園大商学部の堤豊教授=2017年2月撮影

堤教授によると、前震直後、「○○橋(熊本市内の実在する橋)が崩落した」との情報がネット上に流れた。そして本震が起き、阿蘇大橋が崩落した映像がテレビで流れた。多くの人が「○○橋も崩落しているのだろう」と考えた。しかし実際には崩落していなかった。このように、正確な情報の中にデマが紛れ込むと、「被災者が何を信じればよいのか分からなくなってしまう」という。また、災害時において、SNS上の投稿を取り消すのは非常に困難であり、「一度投稿した情報は、内容を削除したとしてもスクリーンショットなどで拡散する。しかも否定情報は共有されにくい」と説明する。

熊本県を装いデマを発信したツイッターTwitterアカウントのスクリーンショット。よく見ると、認証を意味する青いバッジがない(画像処理は編集部)。

では、今後社会全体でどういった対策が必要となってくるのか。堤教授は、日本が常に地震災害のリスクを抱えていることを念頭に、「校区単位での『サイバー避難訓練』の実施や、災害時のスマホ利用方法の学校教育への導入に、早急に取り組むべき」と指摘。「デマは場合によっては、生き死にに直結する」と警鐘を鳴らす。

いつ、どこで、大地震が起きるのか、予測は困難だ。個人で普段から準備することには限界がある。「災害時における情報プラットフォームの構築」が急務だと、3人への取材を通して痛感した。

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