Yahoo!ニュース

防災の基本は建てない買わない――でも家が欲しい人へ、災害リスクの考え方 #これから私は

山本久美子住宅ジャーナリスト
家が欲しいなら、災害リスクを考慮する必要がある(写真:アフロ)

東日本大震災のあの日から10年。この間も、大きな地震や甚大な水害による被害などが起きています。長時間を過ごす自宅こそ、自然災害から身を守るものであってほしいものです。

防災の基本は、建てない買わない

自然災害から身を守る住宅を手に入れるには、基本としては「リスクのある住宅を建てない、買わない」ということになります。

誤解してほしくないのは、リスクをゼロにすることではないという点です。自然災害リスクが全くない場所を探すことは難しいですし、全く被害のない堅牢なシェルターを作ろうということでもありません。加えて、災害リスクを完全に予測することはできません。地震については予測がかなり難しいのですが、一方で、水害についてはある程度予測することができます。

つまり、どういった災害リスクがあるかを理解して、「リスクに応じた適切な対策を施した住宅を建てたり買ったりする」、ということをお勧めしているのです。この記事では、住宅の災害リスクに対する考え方について解説していきます。

地震のリスクは住宅の耐震性能で判断する

日本ではこれまで、何度か巨大地震に見舞われています。地震による建物の被害状況などを調べることで、建築基準法を改正するという備え方をしてきました。基本となるのは、1981年6月に導入された「新耐震基準」です。加えて、2020年6月には木造戸建ての設計を厳格化する法改定が行われました。

日本建築学会が2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本県益城町で木造の戸建てを調べたところ、新耐震基準より前の住宅は28.2%が倒壊しましたが、新耐震基準の2000年5月までは8.7%に、2000年6月以降は2.2%に倒壊する比率が下がっています。

画像制作:Yahooニュース
画像制作:Yahooニュース

逆に無被害の比率は、新耐震基準より前の住宅ではわずか5.1%でしたが、新耐震基準の2000年5月までは20.4%に、2000年6月以降は61.4%に比率が上がっています。現行の建築基準法に準じて建てることで、耐震性について一定の効果があることが認められるわけです。

画像制作:Yahooニュース
画像制作:Yahooニュース

ただし、建築基準法に準じて設計しただけではなく、設計通り建てられたという検査を受けて、建築確認の「検査済証」の交付を受ける必要があります。実は、検査済証を交付されていない戸建て住宅も多いのです。建築途中で設計にはない窓を開けたり、増築したりといったことで、完了検査を受けることができず、その結果として検査済証がないという場合もあるのです。

検査済証がなければ、建築基準法に準じて建てられているという確証がないので、検査済証の有無も確認したいポイントです。

建築基準法の水準よりも耐震性を高める方法

最近では「耐震性能」の等級を表示する住宅もあります。これは、住宅の性能を統一した基準で数値化する「住宅性能表示」によるものです。住宅性能の一つ、耐震等級には次の3段階があります。

  • 耐震等級1:極めて稀に発生する地震に対して倒壊・崩壊しない程度(建築基準法レベル)
  • 耐震等級2:耐震等級1の1.25倍の耐震性能(病院や学校など公共施設の耐震性レベル)
  • 耐震等級3:耐震等級1の1.50倍の耐震性能(消防や警察など防災の拠点となる建物の耐震性レベル)

公共性の高い建物では高い耐震性能が求められますが、頑丈な建物を作るにはコストもアップします。命を守るために住宅の倒壊は避けたいということであれば、建築基準法レベルでも十分ですが、できるだけ損傷もしないようにしたいということであれば耐震性能を高める必要があります。コストも考慮して、どうするかを決めるのはそれぞれの判断になるでしょう。

また、最近は「免震」や「制震」という建て方も注目されています。従来の「耐震」では、頑丈な建物を造って文字通り「揺れに耐える」建て方をします。これに対し、免震は揺れを建物に伝えないようにすることで「揺れを免れる」建て方で、制震は揺れを素早く吸収することで「揺れを制御する」建て方です。いずれも、建物の被害を抑えられ、建物内の家具の倒壊も軽減できるというメリットがあります。

制震と免震は、戸建てでもマンションでも採用されています。特に、タワーマンションのような高い建物の場合は上の階になるほど揺れが大きくなるため、制震か免震かのいずれかの工法で建てられます。

画像制作:Yahooニュース
画像制作:Yahooニュース

どういった方法で耐震性能を高めるのかは、地震の揺れをどう抑制したいのか、適した工法はどれか、コストとの見合いはどうかなど、さまざまな要因を考慮する必要があり、施工事業者によっては対応できない工法もあるので、早めに相談することが大切です。

また中古住宅を購入する場合は、過去の大きな地震の際にどういった補修が必要になったかなどを確認したり、耐震診断を受けたりして、現行の耐震性が確保されているのか、あるいは耐震改修をしたうえで住むのかなども検討したいものです。

水害のリスクはハザードマップで確認

近年は異常気象もあって、集中豪雨による甚大な洪水や土砂災害が頻発しています。水害は立地によって起きる被害が変わります。急傾斜地や渓流付近では「土砂災害」が、河川の周辺では河川の氾濫による「洪水」が、都市部で周辺の土地より低い場所では「浸水=内水氾濫」のリスクが生じます。

内水とは、豪雨などで下水道の排水能力を超えたり、河川の増水などで排水が阻まれたりした場合に発生する浸水のことです。2019年10月の武蔵小杉周辺の浸水被害は記憶に新しいところでしょう。

こうした水害によるリスクは、各自治体が公表している「ハザードマップ」である程度把握することができます。ハザードマップは災害別に作成されていますが、自治体によって想定される災害が異なるため、すべての災害について作成されているわけではありません。

チェックする際にお勧めしたいのは、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」です。「洪水」「内水」「高潮」「津波」「土砂災害」などのハザードマップについて、自治体がインターネットで公開していればそのサイトにリンクしています。ほかにも、自治体が「震度被害(揺れやすさ)マップ」や「地盤被害(液状化)マップ」など地震やその他の危険度マップを作成している場合は、その情報も集約して閲覧できるようにしています。

さらに、地図上でさまざまなリスク情報を重ねて見ることができる「重ねるハザードマップ」も公開しているので、災害時に浸水してしまう道路を確認するなど、避難時に役立つ情報を入手することもできます。このように情報量が多いサイトなので、一度は見ておくことをお勧めします。

ハザードマップポータルサイトの画面(https://disaportal.gsi.go.jp/)
ハザードマップポータルサイトの画面(https://disaportal.gsi.go.jp/)

また、国土交通省では対象となる河川や被害を予測する災害規模を見直しています。見直した後にはハザードマップの情報が更新されるので、常に最新のものをチェックする必要があるでしょう。

リスクを把握して適切な対策を施した住まいを

ハザードマップで水害や地震災害のリスクがわかったら、リスクを軽減する対策があるかどうか検討しましょう。

筆者の地元の例ですが、豪雨で浸水した店舗がありました。坂道の下に位置しているうえ、道路が水平ではなく、その店舗側に傾いて下がっているので、雨が集まりやすい地形になっていました。その店舗は機器なども浸水して閉店を余儀なくされました。

一方、隣接するアパートは無被害でした。地盤をかなり「かさ上げ」していたので、浸水した店舗とアパートでは建物の基礎の高さに数メートルも差がありました。浸水リスクを知ってかさ上げしたアパートと、リスクを考慮せずに建てた店舗で、水害の有無が異なる結果になったのです。

浸水リスクを軽減するには、地盤をかさ上げするほかにも、建物の基礎を高くしたり、防水性の塀で家を囲んだりする方法があります。耐震性を高める方法も、地盤を強固にしたり、建物を頑丈にしたり、屋根を軽くしたりとさまざまな方法があります。もちろん、対策を行えばその分だけ費用はアップします。

ですから、家を建てよう、あるいは買おうという場合には、分かっている災害リスクを確認したうえで、リスクがあればどうした対策を施すのか、すでに対策してあるのか、対策するために改修をするのか、なども考えて判断することが大切です。

残念ながら、山が多く平地が少ない日本では、災害リスクの高い地域に住宅が建っている場合も多いのです。

万一、自宅が危険性の高い地域に建っている場合は、移転を考える必要があります。国土交通省でも災害リスクの高い地域に住宅を安易に建てられないようにしたり、危険な地域からの移転を促すようにしたりする法改正を行っています。さらに創設された「グリーン住宅ポイント」で、災害リスクが高い区域から移転する場合にポイントを発行したり加算したりするインセンティブを盛り込んでいます。

さて、ハザードマップからリスクを判断したり、どういった対策が適切か判断したりするのは、一般の方には簡単なことではありません。建築士や建物検査などの専門家の助言が必要です。

国土交通省でも、不動産の取引の際に宅地建物取引士が行う「重要事項説明」で、説明すべき項目として、災害に関するリスクの説明を増やしています。2020年8月28日以降は水害ハザードマップに対象物件の位置を示すことが義務化されました。

ただし、売買契約直前で災害リスクを知っても遅いので、できるだけ早い段階でハザードマップなどをチェックしたり、専門家に相談したりするようにしておきたいものです。

最もしてはいけないことは、災害リスクを全く確認せずに住宅を建てたり買ったりしてしまうことです。テレワークやオンライン授業などで、これまで以上に在宅する時間が長くなっています。住む人の命や財産を守るためにも、災害リスクについて関心を持つようにしてください。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画記事です。】

住宅ジャーナリスト

早稲田大学卒業。リクルートにて、「週刊住宅情報」「都心に住む」などの副編集長を歴任。現在は、住宅メディアへの執筆やセミナーなどの講演にて活躍中。「SUUMOジャーナル」「東洋経済オンライン」「ビジネスジャーナル」などのサイトで連載記事を執筆。宅地建物取引士、マンション管理士、ファイナンシャルプランナー等の資格を持つ。江戸文化(歌舞伎・落語・浮世絵)をこよなく愛する。

山本久美子の最近の記事