打撃データから読み解く理想的なスイング軌道を体得した大谷翔平は第2のバリー・ボンズになる?!
【7月も本塁打量産を予感させる大谷選手の言葉】
歴史に残るような活躍を続けた6月を終え、自身3度目の月間MVP獲得が確実視される大谷選手だが、7月に入っても打撃好調ぶりを披露している。
現地時間7月2日のダイヤモンドバックス戦で、8回に迎えた第4打席でエンジェルスタジアムの右翼中段に突き刺さる特大本塁打(推定飛距離は454フィート)を放ち、チームの勝利に貢献している。
この一発は、ア・リーグ本塁打部門で2位のルイス・ロバートJr.選手に7本差をつける今シーズン31号本塁打となり、徐々に独走態勢を整えつつある。
日本メディアの報道によると、現在は58.4本ペースで本塁打を積み重ねているようだが、2021年シーズンはシーズン後半に本塁打数が伸び悩み、2本差で本塁打のタイトルを奪取することができていない。
だが今シーズンの大谷選手は、2年前と違う打撃の領域に達しているように感じている。それは投打にわたる活躍でチームを勝利に導いた6月27日のホワイトソックス戦後に語っている、大谷選手の言葉から読み解くことができる。
【理想のスイング軌道で振れるようになった今シーズン】
「いい軌道でバットが振れていることが一番。自分の理想の軌道でバットが振れているときは右ピッチャー、左ピッチャーに関係なく、球種も関係なく、詰まっていても泳いでいてもしっか振れる準備ができている」
つまり今シーズンの大谷選手は、自分自身が納得できるような理想的なスイング軌道を体得し始めているということに他ならない。それを維持できている限り、今後も打撃が大きく崩れることはないと考えられる。
実際大谷選手の言葉を裏づけられるように、今シーズンの打撃データにも明らかな変化を確認することができるのだ。
【今シーズンは二塁ベース付近の打球で安打を量産】
まず個人的に注目しているのが、打球別打率だ。
以下に昨シーズンまでと今シーズンの打球別打率をチャートにまとめたものを添付しておくので、チェックしてほしい。正六角形が大きければ大きいほど打球が飛んでいることを示し、色が赤くなればなるほど打率が高いことを示している。
如何だろう。打球自体はこれまで同様、二塁ベース右側付近の打球が多いことは理解できると思う。だが昨シーズンまでこの周辺の打球を安打にできていなかったのに、今シーズンは着実に安打にすることができているのだ。
今シーズンからMLBがシフト守備を制限するようになったのも影響していると思われるが、それ以上に大谷選手の打球に大きな変化が起こっているからだと考えている。
【安打の平均打球速度が初めて100mph超え】
そこで次に注目しほしいのが、大谷選手の打球速度だ。これまでも大谷選手の打球速度はMLBトップクラスだったが、今シーズンはさらに磨きがかかっている。
選手のあらゆるデータを紹介しているMLB公式サイト「savant」によれば、今シーズンの大谷選手の最高打球速度はMLB上位1%、さらに平均打球速度がMLB上位3%、ハードヒット率(打球速度が95mph以上の確率)もMLB上位6%に入っているほど、とんでもない打球を放ち続けている。
もう少し打球速度を細かくチェックしてみると、さらに興味深いデータを確認することができる。以下に示すように、安打の平均打球速度が今シーズン初めて100mphを突破しているのだ。
2018年:98.5mph
2019年:95.8mph
2020年:92.6mph
2021年:97.3mph
2022年:97.4mph
2023年:100.1mph
【本塁打の平均飛距離も飛躍的に向上】
そこで改めて注目してほしいのが、前述の大谷選手の言葉だ。彼はスイング軌道がしっかりしたことで、相手投手に関係なく、球種や当たりにも関係なくバットがしっかり振れる準備ができるようになったと説明している。
それはつまり今シーズンの大谷選手が、打ちにいったボールに対して自分のパワーをしっかり伝えられるようになっているということだ。
そのため平均打球速度がさらに向上し、同じ方向に打球が飛んでいても野手(特に内野手)が対応できない打球速度になっていること。それにより安打も確実に増え、現在も3割以上の打率を維持できていると推察される。
本塁打に関しても、大谷選手のパワーがしっかり打球に伝わっているからこそ飛距離が飛躍的に向上しているのだ。
これまで本塁打の平均飛距離の数値が最も高かった2021年でも416フィートだったのだが、今シーズンはここまで425フィートまで跳ね上がっている。
【大谷選手の将来像はバリー・ボンズ選手?!】
長年のMLB取材経験の中で、他の選手から羨望される理想的なスイング軌道を手に入れ、長年にわたりMLBを席巻した選手として一番に思い浮かべるのが、やはりバリー・ボンズ選手だ。
ステロイド疑惑によりなかなか正当な評価を受けられていないが、年齢的にはピークを過ぎた感がある35歳で迎えた2000年以降、4年連続で40本塁打以上を放ち、同じく4年連続でMLBトップの長打率(最高は2004年の.812)を記録。
この間、本塁打タイトル1回、首位打者タイトル1回を獲得しており、30代後半で円熟期を迎えMLB最強の打者であり続けた。それもこれも理想的なスイング軌道に支えられていたからこそ、安定的な打撃を維持することができていたのだ。
奇しくもボンズ選手が本塁打と打点の二冠王に輝き、MLB屈指のスラッガーとして認知されたのが、現在の大谷選手と同じ28歳だった。それを考えると、大谷選手の打撃はまだまだ成長途上の段階にあるのかもしれない。
二刀流としてではなく、打者としての大谷選手の将来に希望しか見出せない。