就活相談8・エントリーシートで数字を使うと有利? 不利?
質問:エントリーシートで数字を出した方が説得力はある、とOB訪問をしたときに勧められました。ビジネス文書などではそうしているとのことですが、就活でも通用するものでしょうか?
OB訪問、まずはお疲れ様でした。色々と話が聞けて良かったですね。
さて、ご質問の件、OBの方が言われるように、数字・データを使うのはビジネス文書などでよく使う手法です。
この本も実は同じですし、社会人で言えば、転職活動などでも使います。
しかし、学生の就活となると、難しいところ。
数字の多用は、すごい学生でも微妙、普通学生・平凡学生であれば絶対にやめた方がいい手法です。
以下、例並べてみました。なお、大会名などは架空です。
●ケース1-1:「私はバスケットボールの全日本球技杯学生選手権大会にレギュラーとして出場、優勝しました」
●ケース1-2:「大学では経済研究部に所属。全日本学生経済グランプリにチームで出場、全国1位となりました」
●ケース2-1:「私はバスケットボールの全日本学生選手権大会にレギュラーとして出場、県大会でベスト32に残りました」
●ケース2-2:「大学では経済研究部に所属。全日本学生経済グランプリにチームで出場、チームの中で入選することができました」
●ケース3-1:オタク学生→すごい実績(マニアックな分野で)
「私は同人誌が趣味で、即売会では毎回500冊を販売する大手サークルを運営しています」
●ケース3-2:「私は日本学生ゲーマー選手権打倒リア充大会で優勝することができました」
●ケース4-1:「私はサークルで副部長をしています。人のメンバーと意思疎通を図るために、コミュニケーション手段を改善。その結果、定例会議への参加率を30%上昇させることに成功しました」
●ケース4-2:「私は居酒屋大自然のホールリーダーとして活躍しました。お客様との接し方を20%引き上げた結果、売り上げを30%伸ばすことに寄与しました」
ケース1-1、1-2はすごい学生のエントリーシート。ウソではないですし、なんかすごそうです。ただし、これはこれで落とし穴。
数字自体が正しくて、かつ、すごい内容だと、その内容に引っ張られすぎて、学生個人が評価されなくなる、という確率が高くなります。
たとえば、こちら。
●ケース1-3:「私はミャンマーにおける海外インターンシップで2か月間、日本企業の現地法人にて採用担当アシスタントとなりました。工場労働者募集では200人の応募者の面談を担当しました」
これは実例です。エピソードとしては、最強すぎます。
アマチュアのサッカー大会にブラジル代表だか、レアル・マドリードだかが乱入するようなもので、いい迷惑、と普通・平凡学生のあなたはそう思うかもしれません。
ところが、この学生、エントリーシートでこのネタを書いた企業は序盤から中盤の選考でことごとく落ちていきました。
書類選考は連戦連勝です。ところが、面接では、採用担当者も気になるエピソードで話が盛り上がりすぎてしまいます。
その結果、学生個人が見えなくなり、判断材料が失われることになりました。
そうなれば、企業からすれば落とすしかありません。
すごすぎるエピソードのない、普通・平凡学生からすれば、意外かもしれません。
ですが、すごすぎるエピソードとすごすぎるデータは学生個人の良さを打ち消してしまい、マイナス要素になりかねないのです。
なお、この学生、就活の途中で気づき、海外インターンシップネタをひっこめました。代わりに出したのは、アルバイトネタ(しかも一店員)。これで内定が出たそうです。
普通・平凡学生がケース1と同じ大会に出て数字を使ったのがケース2。
2-1は実は予選敗退(出場チームチーム)、2-2は出場チームならどこも入選扱い。
しかも出場は申込みすれば誰でも出場できるので、実はチーム中、最下位の扱い。
それぞれぱっとしない話を言い換えているだけにすぎません。
大会などは、ちょっと調べれば、全体の中でどの程度の成績か、今ならネットですぐ分かります。
すぐわかるウソを数字に置き換えても、
「大したことない話をなぜこの学生はすごいと思っているのだろう?」
→
「そうか、狭い世界観しかないからだ、じゃあうちではいらないよね」
になってしまいます。
ケース3はオタク学生で、かつ、マニアックな分野ですごかった実績を書いています。
実績自体はウソでないにしても、このケースだと、
「マニアックすぎてわからない」
「マニアックな分野を強調する、ということは仕事そっちのけになり、いずれはやめてしまうのかもしれない」
と警戒される可能性が高くなります。
たとえば、ケース3-1の「即売会で同人誌販売500冊」。
即売会で毎回500冊も売れるのは確かに大手サークルだし、大したものです。
でも、それは私が同人誌について多少(あるいはそれなり、あるいは結構)あるから言えることです。
同人誌に興味ない社会人からすれば、
「だから何?」
で終わりです。
COMITIA(コミティア)、コミックシティ、ガタケットなどイベント名を挙げてもムダ。
コミックマーケット(コミケ)の名前を出せば、さすがに知っている人はいるでしょう。
が、それにしても、漫画家志望と勘違いされるか、
「コミケって、あのお台場でコスプレとかやるヤツでしょ?じゃあ、やっぱりコスプレとかするわけ?」
などと興味本位で聞かれるだけです。
ビッグサイトはお台場じゃなくて有明で、コスプレはそもそもやらないし、と思っても詮無い話なのです。
ケース1~3から、「だったら盛ろう」と考えだす学生もいるので、ケース4を用意しました。
これは、まず、学生本人の努力によるものか、外部要因によるものか、採用担当者は疑ってかかります。
たとえば、ケース4-1の「コミュニケーション手段の改善」。
これって、単に連絡帳を作った、とか、Twitterを開設した、という程度であることは十分考えられます。
「定例会議への参加率30%上昇」も、サークル人数が正味30人程度で、普段が15人出席、そこから5人増えれば30%はウソでなくなります。定例会議も単なる飲み会だったり。
ケース4-2も「客との接し方20%引き上げ」は単に、
「笑顔が足りない」
と言われたので笑顔にするよう努力しただけ。
「売り上げ30%アップ」は別に学生の力でなく、店の新メニュー開発によるもの。
このように、いくらでもウソをつけてしまいます。
このケースだと、大したことない話を無理に盛っているだけ、と思われて落とされる確率が高くなります。
もし、エントリーシート選考で通過しても、面接では、数字自体にツッコミが入って、ボロボロになるはず。
いずれのケースも、エントリーシートに数字を多用したところでリスクが高すぎる、ということがご理解いただけたでしょうか?
無理に数字を使ったところで、意味はありません。それよりは、もっと学生個人のことを書くようにしてみてください。
※『300円就活 面接編』(角川書店 電子書籍)より引用