円安加速、140円台。なぜ「円高予想」は外れたのか=要因は「米利上げ継続」と「貿易赤字」
外為市場で円安が加速している。早朝の東京市場では、1ドル=140円台前半と昨年11月下旬以来の円安水準をつけた。今年の為替相場は、年初の時点では円高予想が圧倒的だった。ところが、大方が見込んだ円高は実現せず、円安に振れる展開となった。円高予想が外れた要因としては、米国の利上げ路線がなお継続しているほか、日本の巨額の貿易赤字に由来するドル買い・円売りが根強いことなどが挙げられる。
昨年末から今年の初めにかけての外為市場では、円高予想が圧倒的に多かった。インフレ進行を受けて利上げを続けていた米連邦準備制度理事会(FRB)は「利上げを停止した後に利下げに転じる」(外資系銀行アナリスト)との見方が増えたからだ。一方、日銀は昨年12月に長期金利の変動幅を拡大し、大規模緩和を修正する動きを見せた。拡大した日米金利差が縮小する、との思惑からドル売り・円買いに拍車がかかることになった。
年初は円高予想に沿って127円台まで円高に
昨年のドル円相場は、日米金利差が拡大する一方となったことから、金利差を狙ったドル買い・円売りが活発化。秋に152円台まで円安が進んだ(下図参照)。しかし、政府・日銀が大規模なドル売り・円買い介入で円安に歯止めをかけた。そして、前述のように日米金利差が縮小に転じる、との観測からドル売り・円買いが活発化。年初は円高予想に沿って127円台まで円が高くなった。
ところが、その後は円安方向に転じた。米国のインフレ圧力が根強い状態が続き、FRBが利下げに転じる、との観測が後退。これに伴ってドル売り・円買いを進めた向きが巻き戻し(ドル買い・円売り)を進めた。一方、大規模緩和を修正するかと思われた日銀が改めて緩和堅持の姿勢を強め、日米金利差の縮小観測が後退。これもドル買い・円売りにつながった。
FRBのしぶとい利上げで円安基調に
以上は、ドル円に大きな影響をもたらす日米間の金利差(=金融政策の方向性の違い)についての解説である。まとめると、利下げに転じると思われたFRBはしぶとく利上げ路線を続ける一方、日銀は緩和姿勢を堅持。黒田体制から植田体制に移行した日銀は引き続き緩和路線を踏襲。結果的に縮小すると思われた日米金利差はそうはならず、円安基調に戻ることになった。
もう一つ、円安になりやすい要因は「稼げない日本」のドル買い・円売りが根強いことだ。具体的には、日本が巨額の貿易赤字を抱え、「この赤字分が為替市場で円売りのフローをもたらしている」(大手邦銀アナリスト)という事実である。財務省が先月20日に発表した貿易収支によると、2022年度は21兆7285億円の赤字を計上した。
根強い貿易赤字要因の円売り
貿易収支が赤字になることは、輸出で受け取る代金より、輸入で払う代金が多いことを意味する。つまり、赤字分は日本が海外に支払う代金であり、この分がドル買い・円売りとなる。かつて日本は輸出立国であり、大規模な貿易黒字を稼いでいた。この黒字はドル売り・円買いのフローとなり、円高が進みやすい要因となった。
しかし、2010年前後を境に輸出・製造業はグローバル展開を進め、生産拠点を海外にシフトさせた。さらに日本は人口減少で消費市場として先行きが見込めないことも海外シフトを促した。つまり、日本はもはや貿易で稼げる国ではなくなり、「貿易赤字=稼げない」ことが外為市場でドル買い・円売りを招く、という構図が定着した。
今後もさほど円高にはなりにくい
このことは、日米金利差要因でドル売り・円買いが強まる場面でも、貿易要因のドル買い・円売りが入り続け、「結果的に円高の流れが減衰する要因になっている」(先の大手邦銀アナリスト)と考えられる。仮に日本がなおも巨額の貿易黒字を計上していると、年初はもっと円高が進んでいた可能性が高いだろう。
今後のドル円相場を展望すると、目先は、米債務上限問題の帰すう次第で上下しやすいが、FRBの利上げ路線は終盤にあると考えられ、改めて利下げが視野に入るだろう。その場合、日米金利差の縮小観測からドル売り・円買いに傾きやすい。ただ、日本の貿易赤字に起因するドル買い・円売りも根強く、「思ったほどには円高にはならない」(FX業者)と見込まれる。