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開始にあたりごあいさつ

八田真行駿河台大学経済経営学部教授
(写真:ロイター/アフロ)

オオカミがやってきた

言うまでもないことだが、最近では情報技術が我々の社会へ大きな影響を与えるようになってきている。情報技術が社会を変える、というのは、それこそ何十年も前から言われ続けていることだが、率直に言って今までは、オオカミ少年的というか、スローガン以上の実体を伴っていたとは言い難かったように思う。しかしこのところ、私はそろそろ本当にオオカミがやってくるのではないかと思うようになった。というか、いくつかのケースにおいては私もオオカミを連れ込む当事者になりつつあり、いろいろと考えることが多くなってきたのである。

このブログでは、そんなオオカミたちの生態と扱い方を少しずつ書いてみたい。すなわち、情報技術の発展が社会へ(良きにつけ悪きにつけ)揺さぶりをかける、そんな具体的事例の紹介と検討をしてみたいのである。

場合によっては、新たな情報技術が社会へ迷惑をかけることもある。IoTで典型的に見られるように、最近では情報技術が有形物を物理的に動かすことも増えてきているので、問題がサイバースペースに留まらなくなりつつある。昔は「プログラムで人は殺せない」と言われていた。今はまあ、殺せなくもないわけだ。

目には目を、技術には技術を

このような場合、日本に限らずどこの国でもいきなり禁止やら規制やらという方向に走ってしまいがちで、それは当然の反応とも言えるのだが、個人的にはあまり生産的ではないとも思う。もちろん規制を全く否定するつもりはないのだが、私は技術が生み出した問題は、多くの場合(事後的にはなるかもしれないが)技術的に解決できるのではないかと考えている。あまりガチガチの事前規制をかけると、そうしたより好ましい対処が現れる可能性の芽も摘んでしまうことがある。言い換えると、技術進歩に対して悲観的な見方と楽観的な見方があり、特に日本では悲観的な見方、すなわち、どうせ技術はろくなことをしでかさないのでとりあえず禁止しておこう、というような立場を取る人が(意識しているかどうかはともかく)多いように思うのだが、このブログでは、基本的に楽観的な見方を取りたいのである。さらに言えば、我々が現在享受している自由は、今後はテクノロジー、特に情報技術を活用することでしか実質的に担保できないのではないか、とすら私は思う。だとすれば、「自由のためのテクノロジー」がどのようなものであるべきか、具体的なテクノロジーのレベルにまで降りて検討する必要があるのではないか。

というのが、一応このブログのタイトルのオフィシャルな由縁なのだが、実のところはお気づきの方もあるように、故イシエル・デ・ソラ・プールの本のタイトルをぱくらせて頂いた。デ・ソラ・プールの本は私が今までで最も影響を受けた本の一つだが、このブログは本の内容とは関係あるようなないような話(というか、どちらかというと方向が逆)になるだろう。まあ、泉下の先生はおそらく苦笑しながらお許しくださるのではないかと思う。

駿河台大学経済経営学部教授

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)理事。Open Knowledge Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

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