天使の画家、寺門孝之がフィレンツェのアルノ川を舞台に、新作能 「或能川」を制作!【神戸市・湊川神社】
ある日、さんちかで独特のオーラを放つポスターを発見。天使画で有名な寺門孝之さんの絵なのですが、真ん中に大きく「或能川(アルノガワ)」というタイトルが…どうやら新作能らしいのです。
皆さんは、能って見たことありますか?日本の伝統芸能ですが、少し敷居が高いようなイメージがなきにしもあらずですよね。でも、この「或能川」は新作ともあって何やら心惹かれます。
今回、ご縁をたどってその「或能川」のお話を、作者でもある寺門さんご本人から伺えることに。そして、観世流の能楽師さん達のリハーサル現場にもお邪魔してきました。さて、その驚きの内容とは…?
時はルネサンス真っ盛りの15世紀半ば、場所はイタリア、フィレンツェに流れるアルノ川の岸辺。そこに、グイドという画僧が現れるところからこの能が始まります。
大寺院から受胎告知画の発注を受けた画僧グイドは、絵の構想がまとまらず、アルノ川のほとりに出て焚火にあたりながら眠りに落ちます。
そして絵のことで苦悩するグイドの前に、古典能「賀茂」に登場する神の子を宿した秦一族の女性と、聖書に登場する、やはり神の子を宿した老女エリザベツが出現。
ここから始まる「或能川」は、イタリアと日本という場所や過去、未来という時間を超えて、はたまたアダムとイブまで遡って繋がる壮大な「受胎告知」のストーリーとして描かれていきます。
更にこの物語の前後には、斬新な取り組みとしてコンテンポラリーダンスや歌、楽器の演奏などのパフォーマンスがあり、マリアと三人の天使がそこにも登場。
能自体は古典的でオーソドックスなスタイルを崩さず、前後に新しいものを組み合わせることで、独特な時間が流れる異空間を作り出しているようです。
面白いのは、能独特の節回しでの台詞に「イスラエル」とか「マリア」といった横文字の名前が繰り返し出てくる違和感、それが聞いている内にしっくりと馴染んでくるのが不思議なところ。
そして、時代も場所も違ういくつかの物語の世界が次第に溶けて混ざり合い、シンクロして壮大な物語が目の前で創り上げられていくのが、この「或能川」の魅力とも言えます。
「能は、夢の中で実体験するものですから」と、画家の寺門さんは言います。見ているうちに、いつしか夢の世界へ誘われてそこで物語を実体験することができるのが能の世界なのだと。
「寄せては返す波のように心地よい能のセリフの節回し、無駄な動きが一切削ぎ落とされた美しい所作や舞い。観客は、夢と現実の間に漂いながら果てしないところまで連れて行ってもらえるのです」
実は寺門さん、能の台本を書いたのは初めてなのだそうですが、まるで言葉が降りてきて書かされたような体験だったのだとか。しかも古語で言葉が想い浮かんできたそうです。
「かつてフィレンツェでフラ・アンジェリコの受胎告知の絵を見た時に、その絵の構図が能舞台のように見えて...受胎告知を能で表すアイデアが生まれました」
「ルネッサンス時代の華やかな文化的な発展の前には、ペストで沢山の人が犠牲に。現在の状況はこれと似ています。何か大いなる存在に救いを求めたいような気持ちから、受胎告知の場面を画家たちは描かされたのかも」と寺門さん。
この新作能「或能川」も、不安や諍いの渦巻くこの時代に、大いなる存在から今へ届けられたメッセージなのかもしれませんね。たった一度きりの上演をぜひ、湊川神社の神能殿で体験してみませんか?
新作能 「或能川」
新作能 「或能川」情報ページ(外部リンク)
新作能
「或能川(アルノがわ)
―受胎告知をめぐる夢想の間(あわい)」
作 寺門孝之
監修 大槻文藏
節付 上野雄三
日時:令和5年 3月25日(土)12:15開場 13:00開演
場所:神戸 湊川神社 神能殿
神戸市中央区多聞通3-1-1
湊川神社ホームページ (外部リンク)
主催 神戸芸術工科大学 間(あわい)のデザイン研究所
後援 イタリア文化会館 大阪
企画 寺門孝之+上野雄三
総合プロデュース 和田結花
出演 上野雄三・上野雄介(シテ方観世流)・福王知登(ワキ方福王流)・善竹隆司(狂言方大蔵流 )他関西有数の能楽師の皆様
※トップ画像は新作能「或能川」予告編映像より抜粋