宮崎県の郷土料理・チキン南蛮。宮崎出身のオーナーが可能な限り再現した本場の味とは
定食でもお弁当でも人気のチキン南蛮。最近は居酒屋さんのおつまみメニューにもその名を見かけるようになりました。そんなチキン南蛮が生まれたのは宮崎県延岡市。「宮崎県のご当地からあげ」「からあげの親戚」などといわれることもありますが、調べていくと意外に奥深く、独特の世界があることに気づかされます。
昭和30年代、延岡市内にあった洋食店『ロンドン』のまかない料理がその起源だといわれています。当時この『ロンドン』にいたふたりの料理人が独立、それぞれの店で独自のチキン南蛮をメニュー化したのが、今日多くの人に愛されているチキン南蛮の歴史的スタートなのです。そのお店はいまでも営業しており、ひとつはレストランチェーン『おぐら』(本店は宮崎市)。もうひとつは食堂『直ちゃん』(延岡市)。この2店を抜きにしてチキン南蛮の世界は語れそうにありません。
さて今回ご紹介するのは東京・秋葉原にある『チキン南蛮専門 ひむか食堂』。「チキン南蛮愛」にあふれるオーナーの竹本寛さんは宮崎県の出身。その竹本さんが研究を重ねて可能な限り再現した本場・宮崎のチキン南蛮を味わうことができます。
メニューは「宮崎チキン南蛮(一枚肉 or 半身)」「ひむかのチキン南蛮(四個 or 三個」「延岡チキン南蛮(一枚肉 or 半身)」の3種類。イートイン or テイクアウトどちらも可能です。今回は「宮崎チキン南蛮」と「延岡チキン南蛮」をそれぞれ一枚肉でいただくことにしました。
まずは「宮崎チキン南蛮」から。これは『おぐら』の味を再現したもの。揚げたムネ肉を甘酢にくぐらせて、タルタルソースをたっぷりとかけています。私たちにもっとも馴染みあるスタイルのチキン南蛮ですね。
タルタルソースを箸の先で軽くひとすくいして味わってみると、ヒンヤリしていてほんのり甘く、酸味はひかえめ。さっぱりしてなめらかな舌ざわりがたまりません。自家製のマヨネーズをベースに数種類のスパイス、ゆで卵、キュウリ、ニンジン、自家製ピクルス、玉ねぎ、パセリなどを加えて作っているタルタルソースなんだとか。肉が半分近く隠れてしまうほどにかけられていて「タルタリスト」にはこたえられないでしょうね。ときどき、タルタルソースがちょっぴりのチキン南蛮に遭遇してしまうと「足らん足らんソースだ!」などと思ってしまう私ですが(笑)、こちらではそんな心配はご無用。
けっこう肉厚で、箸で持ち上げるとタルタルソースの重さも加わってかなりの重量感とボリューム感。ひと噛みすると、ムネ肉とは思えない柔らかさ!甘酢の香ばしさと甘さが口いっぱいに拡散されて鼻に抜けていき、なんともいえない幸福感に包まれてしまいます。王道感のあるチキン南蛮です。
次に「延岡チキン南蛮」をいただきます。こちらは『直ちゃん』の味を再現したもの。揚げたムネ肉を甘酢にくぐらせただけで、タルタルソースはかかっていません。一般的なチキン南蛮のイメージとは少し違いますが、本場・延岡ではむしろ普通のスタイルです。
肉の上になにやら削り節に似たものがふりかけられているように見えますね。これは卵液。肉を揚げ油に投入したあとにふりかけた卵液がいい具合に揚がっているんです。こちらも柔らかい食感でムネ肉とは思えません。甘酢もしっかりなじんで、タルタルソースがない分、それが際立つ印象。ムネ肉らしいほっくりとした、軽い弾力のようなものもあって心地よい歯ざわりです。
ところで『ロンドン』でまかない料理として出されていたころは、揚げたムネ肉を甘酢にくぐらせただけで、タルタルソースはかかっていませんでした。その意味で『直ちゃん』のスタイルはチキン南蛮の「元祖型」と言えるかもしれません。最初にタルタルソースをかけたのは『おぐら』であり、こちらがその後宮崎県内でチェーン展開していったことで「タルタルソースあり」のチキン南蛮が広く認知されていったようです。
もともとは「ムネ肉×甘酢」がチキン南蛮だったんですね。いまではモモ肉のチキン南蛮も一般的になっていますが、私はあっさりしたムネ肉のほうが甘酢やタルタルソースと相性がいいと感じます。
【店舗情報】
チキン南蛮専門 ひむか食堂
■住所:東京都千代田区外神田3-16-13
■TEL:03-3525-8664
■営業時間:
ランチ/11:30~15:00
ディナー/18:00~20:00
(※仕込みがなくなり次第閉店)
■定休日:年末年始
■店舗公式ウェブサイト:
チキン南蛮専門 ひむか食堂